「ここがあの女のハウスね」
目の前の高層建築物を見上げるティエスちゃんだ。ちなみに当代のエルフ長老は女なので先ほどのセリフもあながち間違いとも言えない。ライカ君からは白い目で見られたがね。
エルフの城は統合府本庁舎からほど近い、この町の一等地ともいうべき場所にそびえている木造50階建ての超高層ビルだ。多分この辺じゃいちばん高い建物なんじゃないかな。そのたたずまいに一般に連想される城の要素はほぼない。一見すると普通の商社ビルっぽい感じだ。
「でっけぇー……」
エルヴィン少年が間抜け面を晒しながらつぶやいた。まぁ実際、これだけの高さの人工建造物を見たのは初めてだろうからな。気持ちはわかる。俺も初めて東京のビル群を見た時は圧倒されたもんだ。まあ、
「
「皮肉なん、それ?」
「世界の中心気取りやがってカスがよ、という気持ちが込められてる」
「うわぁ」
エルヴィン少年がドン引きしている。統合府全然統合出来てない問題はこの辺でもうかがい知れるというものだ。全員が全員を嫌いだからかろうじて成り立ってるって感じ? まぁその中でもエルフはことさら嫌われているがね。こういうことするから。
「もともと統合府庁舎がこの地にあるのも、ここが本来エルフの土地だったからだってのもあるな。四大盟主氏族なんて言われちゃいるが、実質的なトップはエルフだ」
「でも軍事はオークに握られてんだろ?」
「ちょっと違う。オークに握らせてやってんだよ。勢力だけで言えば、エルフが森域最大なのは変わらねぇからな。……いやまあゴブリンが積極的な繁殖に乗り出せばこのパワーバランスも崩れるんだが……。ともかく、一番高慢で、一番嫌われてるのもエルフなら、一番統合府という共同体の維持に積極的なのもエルフなんだよな」
「なんで?」
「ちったぁ自分で考えてみな」
なぜなぜ攻撃を仕掛けてくるエルヴィン少年を突き放してやると、少年は少し考えた後、ポンと手を打った。何かに気づいたらしい。
「そっか、王国と帝国の緩衝地帯って、森域にとってもおいしいのか」
「なんで一足飛びにそこにたどり着くかなぁ」
「優秀ですねーエルヴィン君はー」
ミッティがころころと笑う。ったく末恐ろしいガキだよほんと。ほら見てみろよミッティの目。全然笑ってねーんだ。何を考えてやがんだか。
「そうですね。エルヴィン従士の仰る通りです。両国の緩衝地帯であるためには、両国に対して中立か、あるいは同等の肩入れをする必要があります。森域に数多ある氏族がそれぞれの思惑で大国におもねれば、森域は再び火の海となるでしょう」
リリィ姫が補足してくれるが、まぁそういうコトだ。エルフの支配地域がこうも新しく近代的な街並みであるかといえば、単純に一回灰燼と帰しているからである。エルフの里ってのはまぁ燃やされるもんだからな。その記憶があるからか、エルダーどもはやたら森域内のパワーバランスやらに気をやっているというわけだ。まあそれでも気位が高いのは据え置きだから嫌われてるし、エルダーの意向を無視して粋がるエルムたちにはかなり頭を悩ませているだろうがね。
「父王率いる軍は、帝国の支援を強く受けています。これはエルフたちにとっても、見過ごせない事態であるはずです」
「そもそもがクーデターだからなぁ。……っかし、それにしちゃ迎えが遅いな」
来賓用の玄関前でくっちゃべってるわけだが、こういうのって普通は到着前に出迎えが待機してるもんじゃないの? こちとら賢狼の姫様御一行ぞ? これがエルフ流の歓待ということなのだろうか。火をつけてやりたくなるぜ。
「あ、きたみたいですよー」
「ようやくか、待たせやがって。お?」
「あっ」
「いやはや、お待たせしたかな」
そういいながらやってきたのは、針金のように背の高い糸目の男だった。それ役に立つのかってくらい小さい眼鏡をかけ、真っ黒なスーツを身にまとい、先端の尖った靴を履いている。ネクタイはクリスマスカラーのストライプ。どんなセンスだ目に悪い。浅黄色の結い紐で括ったロン毛は
「ようこそ、賢狼の姫。歓迎しよう。それに、久々……というほどでもないか、ティエス卿。エルヴィン様もご息災のようで」
「アサイエル・スプリット……!」
なんであのカジノのオーナーがこんなところにいるんだ。俺とエルヴィン少年はそろって変な汗をダラダラとかいた。