「――では、王国軍の派遣についてはそのように」
「うん、よしなに頼むよ。……さて、面倒な決め事はこれで全部だね」
「はい。ウィエルサード様。……ル・リンの名を継ぐものとして、今回の御助力には改めて感謝を申し上げたく」
「ノンノン、違うだろう
「ですが……」
「そういう建付けになっている、ということですよ。ねぇ、ウィエルサードさん」
「ふふん、何のことやら。……ところで、だけども」
ウィエルサードがティーカップを傾けて一息つくと、おもむろに視線をこちらに向けた。さて、政治の話がまとまるまで暇だったので茶菓子を食い散らしていたティエスちゃんだ。いやしかしうめぇなこれ。エルフの菓子職人も捨てたもんじゃねぇよ。
「ふふ、ずいぶんとうまそうに食べてくれるじゃないか。教本片手に作った甲斐があるというものだよ」
「へぇ、あんたがこれを? いや感服したよ。エルフの首魁なんてやらせとくのがもったいないほどだ。王国で店を出してもきっと繁盛するだろうよいったぁ!?」
なんと長老の手作りとはたまげたなぁ。俺が実直な感想を述べると、ミッティにすねを蹴り飛ばされる。おいおい常時身体強化してる俺の足なんて蹴ったやつのほうがケガするようなもんなのにケロッとしてんじゃねーよマジで隠さなくなってきたな!
「ふふん、そんなに褒めても何も出ないぞティエス卿。ケーキのおかわりならあるけど、どうする?」
「ぜひ頂きたいなぁ!」
「いいとも、いいとも」
得意げなウィエルサードが指をパチンと鳴らすと、テーブルの上にポコポコと甘味が現れる。ヒューあざやか。どんだけ張り切ったんだ。
「あー、うん、それでだ。えーと、あー、エルヴィン君?」
「えっアッ俺……じ、自分ですか?」
「そうきみ、きみだよ。で、どうだい? その、あー、楽しんでるかい?」
さて俺が甘味に舌鼓を打っているあいだに、ウィエルサードの興味はエルヴィン少年のほうに向いていた。いや、そんなこと言ってもエルヴィン少年も困るだろアウェーで政治のお話とか微塵も楽しい要素ないが??
「あー、楽し? えーと…………はい、とても楽しませてもらっています。ありがとうございますウィエルサード様」
「そうかそうか。うんうん、もっとお食べもっとお食べ」
10歳のくせにめちゃくちゃちゃんと社交辞令かましてるこいつなんなん、という気持ちはあるが今更だな。デキたガキだよほんと。にしても問題はウィエルサードのほうで、なんというか顔面がだらしなく崩れてしまっていらっしゃる。一応まだ会談の場ではあるはずなんですがね。そういや会談が始まる前から熱視線投げてたし、さてはこいつ……ショタコンか!?
ハーフいびりのためにエルヴィン少年の同伴を求めたのかと思ったら、実は自分の特殊性癖を充足するためだった、と。つまりはこういうコトですか。
困ったなぁ身分の高い変態は処理に困るんだよなぁ。エルヴィン少年は次々繰り出されるスイーツの暴力に目を白黒させている。まいったな高度なハーフいびりもセットか?
「なにを考えているかは知らないけどね、私にそういう趣味はないよティエス卿。だいたい考えてもごらんよ。私からすれば、大体の者はショタかロリになってしまうんだよ?」
「その概念ってそんな相対的な評価だっけ?」
ウィエルサードが崩していた相好をじとりとしたものに変え、唇を尖らせて抗弁する。どうでもいいけどさらっと思考盗聴するんじゃねーよ! 俺の幾重にもわたる強固なプロテクトをさくっと突破してんじゃねー!
「いやあ、まあこれでもエルフの長だからね。私としては、この私をもってしても表層しかなぞれない君の防諜術のほうが脅威だよティエス卿」
「さようで」
ウィエルサードは勝ち誇ったような顔をして胸を張った後、半笑いになって付け加えた。おれはへッと吐き捨てて、気持ちエルヴィン少年をかばう位置に体をよじる。
「なんにせよ、ウチのもんに変な色目を使われると迷惑なんでね。やめてもらいたい。こいつはちょっと訳ありでな」
「わかった、わかった。まったく、無粋な人だね君は」
ウィエルサードはソファに深く背をもたれさせると、ヤレヤレとばかりに肩をすくめて見せた。
「この世界で俺以上に粋な奴なんていねーよ」
「そうかい、ずいぶんな自信だこと。まあでも、エルヴィン君を預けるならそれくらいは強い人でないとね。さ、つまらない話は終わりだ。少し作りすぎてしまったからね、出来ればこれを全部食べつくすのを手伝ってほしい」
ウィエルサードはそういうと、自身もケーキに手を付け始める。俺は妙な引っ掛かりを覚えたが、気にせずお菓子パーティーを続行することにした。そろそろミッティに蹴られすぎて脛が砕けちまいそうだったしな!