『……気に入らんな』
「あん?」
さて、明けて翌日は準々決勝となる第4回戦ということで、昨日みっちりフィッティングした新型をお披露目するティエスちゃんだ。相手はドワーフの最高戦力と名高い鉄塊戦士団長、カッチ・カチカチカ。またぞろギャグみたいな名前だこと。
試合が始まっても微動だにしないカッチの強化鎧骨格は、帝国内でライセンス生産されているテンチュイオンⅡではなく、おそらくドワーフが独自開発した機体だろう。体型が違いすぎるからな。標準的な成人男性をそのまま拡大したようなテンチュイオンと違い、目の前の機体の背は低くずんぐりとしている。厚い装甲で着ぶくれした全身や、太く長い腕と短い脚という様相は、どこかゴリラを彷彿とさせるシルエットだ。サディスファクションだか燃えるアクションだか知らないが、とりあえず初めて相手するだけあって警戒するに越したことはないだろう。得物の長柄のハンマーなどから見たところゴリゴリのパワー系だが、しかしあの人工筋肉の弾ける音が聞こえそうなムチムチの大腿部などは、きっと馬鹿にならない瞬発力を生むに違いない。
「どうした、かかってこねーのか」
しかし、それが先ほど一言呟いて以降うんともすんともなのはなんとも困る。あまりに自然な棒立ちは見るからに隙だらけなのだが、それが誘っているようにも見えてこちらもうかつに動けない。できうる限りの調整をしたとはいえ、今の愛機は以前のそれほど癖を掴めていないのが実情だ。あまりうかつなことはできない。できるのはせいぜい口八丁だが、それも向こうが無口なせいで空振りくさい現状だ。
うーん、最初はかたずをのんで見守っていた観客たちも、こうもにらみ合いが長引けば飽きてくる。ちらほらブーイングも聞こえるほどだ。しかたねぇ。リスクはあるが、こっちから仕掛けるか。俺は大太刀の鞘を払った。テンチュイオンは王国のアーゼェンレギナにくらべて、こういう重量のある長い得物を振り回すのに適した調整がなされている。イーグルと陽炎の違いみたいな感じだ。せっかくだし、という好奇心で武器も森域風にして見たのだが、思ったよりもバランスとりづらいなこれ。失敗したかもしれん。
『まさかとは思うがな王国の。そんなへっぴり腰で、儂の『ゴリラ』を相手取るつもりか?』
「おう、そのまさかよ。てかマジでゴリラって名前なのかそれ。いい機体だな」
『ふん、見る目はあるようだ。無謀ではあるがな』
ゆらり、とカッチのゴリラがハンマーを構える。恐ろしく滑らかな動きだ。機体の重量感をまるで感じさせない。機体もすごいが、乗り手もかなりの使い手だ。俺は少しばかり気合を入れなおした。
「無謀かどうかは、やってみなきゃわからんさ。
『儂がつまらんといったのは、まさにそこよ! せっかく、儂もおぬしのレギナと死合えると意気込んで、老骨に鞭打ってここまで勝ち上がってきたというのにだ! なんだその機体は! テンチュイオンⅡではないか! 舐めとんのか!? しかも下級戦士用にデチューンされたモンキーモデルときた! なぁ舐めとんのかなぁおい! そりゃあ? 王国の人間が手に入れようと思えば? それしかないのは致し方ないとはいえだ? しかしだな、儂はおぬしとドンカッツめの死合いを見て、年甲斐もなく大興奮したんだぞ! 何を隠そう、ドンカッツめの強化鎧骨格を仕立てたのは儂の工房よ!
「お、おう」
カッチはふんすと鼻息を吹かすと、それから一息の間にめちゃくちゃ早口でまくし立てた。さっきまでの寡黙キャラはどこに行ったんだよおい。熱量がすごいんだよな。俺がちょっと気圧されるレベルだよ。さてはこいつ……オタクだな?
「とりあえずこいつが立って歩いて飛んで跳ねてそーれとんぼ返りー! できるのは、うちの整備班長の腕がいいからだよ」
俺はその場で奇妙に軽妙なステップを踏み、最後にガッと地を蹴って宙に舞うと、締めくくりに空中一回転して華麗に着地して魅せた。フフフ、よく動く。みよ王国軍の技術力を! そして何より俺のテクを! 俺はドヤった。
『す、すっげぇーーー!! マジで匠じゃねぇかこんど紹介して!』
「いいよ~」
うふふ、アハハ。さてそろそろ試合すっか。縮地の要領で踏み込んだ俺は大太刀を閃かせると、隙だらけオブ隙だらけになっていたゴリラの頭部ユニットを奇麗にすっぱり切り飛ばした。ぽーんと放物線を描いて石舞台に落ちた無骨な頭部が、ぐしゃりとひしゃげる。振りぬいた大太刀の刃が、物質的な限界を迎えて微塵に砕け散った。パラパラと舞う刃金のかけらが陽光にきらめく中、一瞬、会場の時間が止まった。
露出した操縦席で、目が点になっているカッチと目が合う。何が起こったかわからない、といった顔だ。完璧な不意打ちである。俺はにやりと笑って、機体のマニュピレータ―をVサインにした。
『――勝者、ティエス・イセカイジン!』
直後、割れんばかりのブーイングが観客席から降り注ぐ。うるせぇ、勝てばよかろうなのだ。