「やぁ、来てくれたか。早々の呼び出しで悪かったね。次にゆっくり話せるのはずいぶん後になりそうだったから、これほどせっかちになってしまった。さあ、掛けてくれ」
「は、この度はお招きにあずかり――」
「ああ、そういう堅苦しいのは今は良いよ。私は確かに王だけど、治める国はもうないからね」
けらけらと笑うアマリエルに対しどう接すればいいのか測りかねてるティエスちゃんだ。愛想笑いは宮仕えの悲しさってか。亡国の王ジョークはちょっと重すぎるんで受け流しで。
ここは森域統合府にもほど近い個室のある料理屋で、テーブルには主催であるアマリエルと、主賓である俺の分のカトラリーに加え、リリィ姫の用意までがなされている。出席のお返事は(返しようもないので)特に返してないはずなんだがな。とりあえず座っちゃお。
「では失礼してっと」
「うん、そのくらいフランクなほうが話しやすいというものだ。さて、レイフィールの。貴方もお座りなさい」
「はい、失礼いたします」
今回、ツレはリリィ姫のみである。個室のサイズ的にね。ライカ君は部屋の外で、うちの隊の連中は店の外で警戒中だ。
姫が着席したのを確かめて、アマリエルが手を二回パンパンと打ち鳴らす。すると目の前の大皿には料理が現れ、グラスにはなみなみと琥珀色の液体が注がれた。見事な魔法の手並みだが、この料理屋からすりゃあたまったもんじゃないだろうな。食品衛生とかもろもろの意味で。
「まずは一献――と、洒落込みたいところなのだけどね。あいにくと私はアルコールを受け付けない体質だから、ソフトドリンクで失礼」
どうやらこの琥珀色のシュワシュワ、ジンジャエールらしい。まぁ俺としても酒癖は悪いほうという自覚はあるからな。願ったりである。リリィ姫は――そもそも飲酒できる年齢なのか?
「いえ、小官も勤務中ですんで」
「それは都合のいいことだ。では、乾杯といこう」
「何に乾杯を?」
「ふむ。それでは、ステキな出会いに!」
アマリエルは豪快に、リリィ姫はためらいがちに、そして俺は平常運転で杯をぶつけ合う。チィンという澄んだ高音が響く中、俺はためらい一つなくグラスの中身を干して見せた。甘くておいしい。
「ほう、いい飲みっぷりだ。おや、レイフィールの。炭酸のきついのは苦手だったかな?」
「い、いえっ。そんなことは」
リリィ姫もこくこくとのどを鳴らす。まぁ普通は色々警戒するよな。立場的にも。だから俺が一気に飲み干して見せる必要があったんですねー。それにしたって無理はよくないぞ、炭酸を一気に飲むとげっぷが出るからな。淑女たるもの細心の注意をげぇーっぷ。
「おっと失礼。少しはしゃぎ過ぎました」
「フフ。いや、構わないさ。噂通りの曲者だねイセカイジン卿は」
「ははは、いったいどのようなうわさが飛び交っているのやら」
マジでいったいどんな噂が流れてんのか気になるところではあるが、まぁいったんそれは脇に置く。それよりナチュラルにイセカイジンを異世界人のイントネーションで呼ぶのやめてくれませんかねー!
「さて、今宵は積もる話になる。せっかく用意させたのだし、料理を食べながらと行こうじゃないか」
「は、はい! ご相伴に――」
「あー、姫様はどうかそのままで。一応小官、姫様の護衛騎士ですから。料理の取り分けもお任せください」
今日のリリィ姫は妙に浮足立ってあせあせしているので、とりあえず座っていてもらう。もちつけ。アマリエルが森域にとってもそれなりに顔が利く身分の女だというのはわかるが、リリィ姫がアマリエルに向ける視線はなんというか、なんだ? 推しのアイドルに向けるそれに近い感じがするんだよな。憧憬の念ってやつ? いつもはそれなりに取り繕えている外聞が、今夜はまるでダメダメな感じなので見てておっかないんだよな!
言ってる間に前菜っぽいサラダを小皿に奇麗に取り分けているあたり、俺ってできる会社員だよなホント。
「小器用なものだねイセカイジン卿。感心するよ。さて、では私もひと働きと行こう。唐揚げにレモンを……」
やめろーーーー!!!!!