ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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4-51 ティエスちゃんは産地直送

「さて、そうだな。あまり回り道をしてもなんだし、本題から行こうか。まず……『この言葉はわかるかな?』」

 

『……ああ、わかるよ』

 

「???」

 

 極厚ステーキを器用に切り分けながらのぶっこみに、久々に純粋な日本語を話したティエスちゃんだ。この空間で姫だけが急に意味不明な謎言語で喋り出した俺たちを見て困惑している。すまんけど、機密保持だ。我慢してくれ。アイコンタクトを図ると、姫は困惑しながらも頷いてくれた。

 

『うん、よかった。わたしも()()()の言葉は日本語しかわからないからね。後はそうだな、英語も一応、簡単な受け答えくらいはできるけども』

 

『そりゃまた、ずいぶん達者なことで。どこで覚えた?』

 

『説明書を読んだのさ』

 

 この野郎、答える気はないってか。

 

『まぁ、その辺はわたしの質問に答えてくれれば、後で話さないでもない。時間があればね』

 

『オーケーだ。なんでも聞いてくれ』

 

 アマリエルは薄切りにした極厚ステーキ(矛盾だ……)をお上品に口許に運び、嚥下してから続けた。

 

『まず、君はいつの時代からきたのだろうか』

 

『令和4年』

 

『レイワ……知らない年号だな。西暦に変換してくれないか』

 

 年号だってことはわかるんだな。こいつ、どこまで知ってるんだ?

 

『西暦だと、2022年だな』

 

『……そうか。あちらではまだ、15年しか経っていないのだね』

 

 アマリエルは遠い目をした。はるか昔の記憶を思い出しているような顔である。しかし2022年の15年前というと2007年か。その年に何があったっていうんだ? 俺はいぶかしみながらも厚切りステーキにかぶりついた。うわうまいなコレ。肉が柔らかいから歯だけでかみ切れるんだ。良い肉使ってんなぁ。

 

『次の質問だ。君はどこから来た?』

 

『日本』

 

『それはわかる。君は"チルガワ"という地名にゆかりはあるか? 千の流れの川、と書くんだが』

 

 漢字まで知ってるのか。しかし千流川、千流川ねぇ……。

 

『聞いたこともないな。さすがに全部の市町村までは記憶してねぇよ。せいぜい県庁所在地くらいだ』

 

『そうか……クリュウ・ワールドゲートが開いたわけではないのだな。カガセ・セカンドの守りが破られたわけではない、ということか。それにしては妙にエヴィロンスが騒がしい。エルディオルに確かめる必要があるな』

 

 わあ! 急に知らない単語をいっぱい出すな! 無名世界観かおめーは!?

 

『ああ、すまない。君には意味の分からない話だったな。場を乱すようなことをしてしまった』

 

『そういう心惹かれる独り言は俺のいないところでやってくれ。首を突っ込みたくなるだろうが』

 

『首を突っ込んでくれても構わないのだぞ? その首が抜けなくなるだけで。わたしも秘密を共有できる友人が増えることは喜ばしい』

 

『やめろやめろ俺を誘惑するな。俺は平穏無事に生きていきたいんだよ』

 

『ははは、それは無理だろう。君は言うならば、主人公だからな。ある程度物語に決着がつくまでは、君が自然と人を惹きつけてしまうように、トラブルもついて回るだろうさ』

 

 だまれっ魔女め! 俺に呪いをかけようとするんじゃねー! こんな嫌な「きみも主人公になれる!」ってある!?

 俺はグラスをグイッと飲み干して、激情をついでに飲み干す。平常心、平常心だ。相手のペースに乗せられるな。

 

『さて、質問の続きだ。君の暮らしていた地域に、竜や山狗の伝説は残っていたかな。またはそれにちなんだ地名、寺社仏閣などがあるか、ということなのだけど』

 

『竜の伝説なんて、日本じゃいちばんポピュラーな部類だろ。うちの近くにもあったよ』

 

『なるほど。ふむ』

 

 アマリエルは俺の返答に対して、少し考えこむそぶりを見せた。なんだってんだ。ちなみにその最中もひょいぱくと料理を口に運ぶことは忘れない。意外と食いしん坊さんか?

 

『君は、どうやってこのミルナーヴァにやって来たかを覚えているかな』

 

『ミルナーヴァ?』

 

『この世界の名前だよ。知らなかったかな?』

 

 いや知らんがな。そもそも世界の名前ってなんやねん。前世にはそんなもんなかったぞ。名前がついてるってことは、世界は二つ以上ないとおかしいわけで、しかも観測できてないといけないわけだ。普通は名前なぞつけようがない。というか世界ってなんだ? 概念が崩壊する。助けてブッダ!

 

『知るわけないだろ。まだ遠い昔、遥か彼方の銀河系で……とか言われたほうが納得できるってもんだ』

 

 物理法則の違いとか魔法はほら、フォースみたいなもんだと思えば……流石にファンにぶっ殺されそうだな。アマリエルは苦笑気味に微笑んで、ゆるゆるとかぶりを振った。

 

『残念だがそれはない。何しろミルナーヴァにはまだ、宇宙が存在しないからね』

 

「えへぇ!?」

 

 ヘンな声出た。冒涜的な真実を知ってしまったあなたはSANチェック1d20/1d100。姫も突然俺が発狂したので驚いている。ゴメンだけど気遣う余裕はない。

 いや宇宙ないってなんやねん。助けてブッダ!! じゃあなにか? 天の光はすべて星じゃなくて天球(スカイドーム)にマッピングされた紛い物(テクスチャ)だってことか? 足の下は象と亀が支えてるってコト? 助けてブッダ!!

 しかし、うーん。アマリエルの言葉を鵜呑みにしていいとは思わないが、言葉通りだったと仮定するならば、だ。今の今までうっすら存在していた「違う銀河系の有人惑星」説が息を引き取り、これで別世界説がほぼ確定してしまった。インサニティ、インサニティだよこれは。

 アマリエルは俺の混乱しているさまを肴にグラスを傾けた後、あからさまにわざとらしくハッとすると、ぺろりと舌を出していった。テヘペロ。

 

『おっと、これは公にはしていない"設定"だった。すまないが、ここオフレコで』

 

『こ、こいつ……!』

 

 こ、こいつ……!

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