ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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4-54 マ改造の夜

「おやっさん! 3番から12番までのサーボ交換終わりました!」

 

「ショックアブソーバのシリンダーですけど、これ意外と帝国製のままのほうが良いパターンじゃないっスか?」

 

「バカヤロー! クレーンの下に入ってんじゃねぇ!」

 

電源呪符(パワースペル)の出力は頭打ちですね……いや、理論上は可能でしょうけど、これ以上上げたらキャパシタが爆発しちゃう」

 

「ねーここにおいてた外装資材どこやったー!?」

 

 わいわい、がやがや。話し声と、怒号と、重機の唸る音が反響するここは、王国軍に貸与された整備区画である。日はとっくに沈み、森域全体を深々とした闇が覆う午前零時。しかしこの整備区画には煌々と灯りがともされ、まるで日中さながらの活気があった。やけくそともいう。

 整備班長のダディ・ペイラーはいったん作業の手を止めると、首から提げているタオルで額の汗をぬぐった。

 

「よーしお前ら! 一旦作業やめ! 休憩だ!」

 

『ウーッス!』

 

 ペイラーの号令に、整備員全員が唱和で返した。キリのいいところで作業を切り上げたものから、ぞろぞろと整備員詰め所に足を運んでいく。みな色濃い疲労の色が隠せない様子だったが、それ以上に誰もかれもが目をぎらつかせ、口の端を吊り上げ狂笑の貌である。やけくそである。今現在で整備隊は96時間連続勤務継続中だ。そうもなる。

 

「ったく、こっちは戦争する準備なんてしてきちゃいねぇんだぞ……」

 

 危なっかしいな、とペイラーは思う。やる気が満ち満ちているのは結構だが、ああも血走った目で作業をされると、どうしても整備不良や事故や労災という言葉が頭にちらついてしまう。これだから管理者は嫌なんだと独り言ちて、はやいとこ医官に頼んで疲労をPONと飛ばしてもらわんとな、と考えるなどする。なぁに風魔法のちょっとした応用だ。あの医官ならいともたやすくやってのけるだろう。

 なお、長めの休息をとらせるという選択肢は、今はない。このような小休止がせいぜいだ。何せ時間も人員も足りない。

 しかしそんな超過重労働中であるというのに、皆が皆、異様なまでの活気に満ちていた。それはひとえに、とある計画……というか、ある種の意趣返しに夢中なためである。

 彼らが粘つくような視線を向ける先は共通だ。それは言うまでもなく、ティエス・イセカイジン専用テンチュイオンⅡである。今はブロックごとに分解され、外装も剥がされフレームがむき出しになっている。整備隊員たち――ペイラーも含め――は、このつぎはぎだらけの機体を多角的な視点から抜本的な性能向上を図る大改造……つまり、マ改造に躍起になっているのである。ちなみに納期は明日の朝まで。時間にして7時間もない。バカの所業だ。

 

「ご苦労さま、ペイラー卿」

 

 どうすっかな、と後頭部をがりがり掻いていたペイラーに、呼びかける声があった。聞きなじみのある声である。振り返れば、整備区画の入り口に一人の美丈夫が立っている。ワリトー・ハラグロイゼ伯爵。実質的な王国派遣組のトップである。

 ペイラーはすぐさま駆け寄ると、びしりと音のなるような敬礼をした。

 

「こんなところまでご足労頂き恐縮です。ハラグロイゼ様」

 

「なに、構わないさ。私もこれで男だからね。強化鎧骨格にはそれなりの以上の興味はある」

 

 優雅に礼を返しながら、ハラグロイゼは笑う。なお、ティエス機のマ改造プランを快諾したのもこの男である。デスマーチの元凶と言っていいだろう。ペイラーは半笑いになるのをかろうじて堪えた。

 そんな貴族然とした男が、両手にビニール袋を提げている姿は何ともミスマッチだ。ペイラーの視線に気づいたハラグロイゼがくすりと笑う。

 

「うん、差し入れだ。ミッティ女史謹製の水薬(エナドリ)と、後は軽食だね。どうだい、進捗のほうは」

 

「ありがとうございます。助かります」

 

 実にタイミングのいいことだ。とペイラーは半笑いになった。これが予測のたまものなのか監視のたまものなのかは、ひとまず考えないこととする。

 

「あまり芳しくはありませんね。作業自体は終わるでしょうが、当初目標の60%程度の性能向上にとどまりそうです」

 

「ドワーフの技術も取り入れているのだろう?」

 

「ええ。部下たちにとってもいい刺激になったかと。ただ、いましばらくの時間と予算を頂けると……」

 

「弁解は罪悪と知りたまえ」

 

 ハラグロイゼにぴしゃりと言われ、ペイラーは肩をすくめる。ずいぶんと重い言葉だったが、雰囲気からしてその本来の重さを感じさせるほどではない。冗談だというのはすぐにわかった。

 

「予備機のほうの調整はどうかな」

 

「そちらについては抜かりなく。中隊各機のメンテナンスは完璧です」

 

「ん、結構」

 

 ハラグロイゼは満足そうにうなずく。

 

「心配していたわけではなかったが、テンチュイオンの改造にかかずらうばかりではないようで安心したよ。今後のことを考えれば、必要となってくるのはテンチュイオンではなくアーゼェンレギナだ」

 

「承知しております。……連中、いつ頃仕掛けてくるんでしょうね」

 

「そう遠くはない。おそらく個人戦の決勝か、それを待たずして、といったところだろう。ミッティ女史やリリィ姫も同意見のようだ」

 

「それはなんとも……難儀ですな」

 

 ペイラーの苦みばしった声に、さすがのハラグロイゼも苦笑する。彼とて、別に戦争がしたくてたまらないわけではないのだ。

 

「そのためにも、イセカイジン卿にはせいぜい英気を養ってもらわねばな」

 

「今頃呑気に鼻提灯でしょうな。まったくうらやましい」

 

「ま、その分ことが始まれば存分に働いてもらうさ。……引き続き作業のほう、悪いが頼むよ」

 

「ハッ! おまかせください!」

 

 ペイラーが敬礼すると、ハラグロイゼは満足そうに笑んでから踵を返した。やがて彼が整備区画から退出するのを見届けたペイラーは、長い溜息をはく。向こうがフランクすぎる故忘れそうになるが、本来は雲上人だ。たった数分話すだけでも気疲れがある。

 まったくこの忙しいのに、余計な疲れを増やすんじゃないぜ。ペイラーは胸中でのみ毒づいて、ハラグロイゼの持ってきた水薬の栓を抜いて煽る。柑橘系のフルーティな芳香でも誤魔化せない薬くささが口腔内を蹂躙し、飲み込むことを本能が拒否する。なまじ中途半端にフレーバーがついてるのがより厄介だ。いやがらせだろうか。

 しかしそれを何とか我慢して嚥下してしまえば、その不快感と反比例するようにすっかりと疲れが消えうせた。頭の仲がやけにクリアーになって、今なら何でもできそう万能感とな活力が湧いてくる。やべークスリじゃねーか。あまりの覿面な効能に、安全とわかっていても副作用を心配してしまうペイラーだったが、その辺のあれこれもついでに全部飲み込んで、整備員詰め所へと足を運んだ。

 

「おまえら! ハラグロイゼ様から差し入れだ! こいつで一服したら、スパートかけるぞ!」

 

『ウーッス!』

 

 夜は短し、気張れよメカニック。

 

 

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