ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-2 ティエスちゃんは自由の身

「ぷぃ~~~~! シャバの空気は最高だぜぇ~~~~~」

 

 あっさり釈放されたティエスちゃんだ。へへへ、コネと国家権力は使いどころだぜ。

 

「まったく、次からはこういうことのないように頼むよイセカイジン卿」

 

「はい……誠に申し訳ございません……」

 

 背後から突き刺さった声に、俺はくしゃっと萎れた。空気を入れたビニール袋を液体窒素に突っ込む実験あるだろ? あんな感じ。

 ハラグロイゼ卿は今日も素敵なハンサムスマイルだが、今日ばかりはニヤニヤという擬音が似合う。一番弱みを握られたくない手合に弱みを握られてしまった。どうやって挽回しようか。戦働きしかねぇか。

 

「でも、今回に限っては中隊長のやらかしってそんなにない……んじゃないですか?」

 

 めずらしくエルヴィン少年のフォローが横合いから飛んでくる。やさしい。ちょっとときめいちゃうかも。しかしハラグロイゼ卿に意見できるとか将来は大人物になるわ。

 ハラグロイゼ卿はエルヴィン少年の頭にポンと手を置き、やさし気な口調で答えた。

 

「確かに。エルヴィン君の言う通り今回はイセカイジン卿の落ち度はほぼないと言ってもいい。遊漁の許された区画でのことだったし、魚人の居住エリアからも大きく離れた場所でのことだった。過失は極めて小さく、卿の言う通り誤認逮捕、不当逮捕に近いといえるね。だからこそ、こうしてすぐに釈放してもらえたわけだ」

 

 でしょぉ~~~。俺は笑顔になった。

 

「だが、イセカイジン卿は王国軍の士官であり、親善試合の出場者であり、さらには賢狼の姫の護衛騎士でもある。そのような立場の人間が、このタイミングで警察の厄介になるというのはひどくよろしくない。たとえ誤認逮捕で、瑕疵がないとしてもね」

 

 俺は一瞬でしわしわピカチュウに逆戻りした。上げて落とすのは本当にきついのでやめてほしいんだ。ドS貴族め、笑みを深めていらっしゃる。

 

「えぇ……それ、だいぶ厳しくないですか?」

 

「実に厳しい。しかしよく覚えておきたまえエルヴィン君。我々の世界では、隙を見せたほうが悪いのだ。実のない罪の擦り付け合いなどというのは、王宮では日常茶飯事なのだからね。君はそういう常識を知っておく必要がある」

 

「うへぇ……」

 

「そう嫌な顔をするものではないよ。ま、そういうわけだから。なので今回は、過程はどうあれイセカイジン卿が悪いということになる」

 

「ずびばじぇん」

 

 もうやめて! ティエスちゃんのライフはZEROよ!

 とはいえハラグロイゼ卿の言葉はいちいちごもっともなので、俺はまたしおしおと小さくなった。あの腐れ腹ペコ魚人め、どう料理してくれようか……趣味で極めた暗殺術をそろそろ披露する頃合いかもしれねぇ。

 

「……とはいえ、私人としては同情もする。災難だったね、イセカイジン卿」

 

「はい……まったくであります……」

 

 おかげで素敵な余暇が丸々一日パァになった。ご多忙のハラグロイゼ卿を召喚したことで要らぬ貸しを作った。瑕疵もないのに経歴に瑕がついた。んも~~~~~森域一帯を灰にしてやりたい気分だぜ。

 

「まあ、そう気を落とさないことだイセカイジン卿。この埋め合わせは近いうちに果たしてもらうとしよう」

 

「はい……微力ながら……粉骨砕身の覚悟で……ん?」

 

 ちらり、と視界の端に人影をとらえる。おれは今ほどまでのしおしおモードを一気にスイッチして、ハラグロイゼ卿とエルヴィン少年を背に庇う位置にごく自然に移動した。

 

「客人かね?」

 

「どうでしょう。殺気は感じませんが」

 

 ハラグロイゼ卿が囁くように、変わらぬ優雅さを保ったまま尋ねる。なるほど鉄火場に慣れていらっしゃる。俺は探るように、剣呑な目を件の人影に向けた。

 

「――ティエス・イセカイジン殿とお見受けいたす」

 

 その容貌はひどく風変わりで、前世(むかし)でいうところの宇宙服に近い。一種のホラーみすら感じる。ゴポゴポとあぶくが混じったような実に聞き取りづらい声で、それは確かに俺の名を呼んだ。

 抑揚の少ないフラットな声音から老若男女を推し量るのは、かなり難しい。強いて言えば、近いのはオティカだが……はっきり言って、特大の不審者だ。

 俺は警戒の色をあらわに誰何した。

 

「いかにも。そういうお前さんは何モンだい?」

 

 いつでも魔法で剣を抜けるようにしておく。じわりと粘ついた緊張感が、両者の間に満たされていくのを感じる。

 謎の怪人が、やおら腰を深く落とした。来るか、俺は土魔法で即席の剣を生成する。相手がどれだけの手練れかはわからないが、俺相手に一人で仕掛けてくるような奴だ。よっぽどの向こう見ずでなければ、かなりの使い手だろう。

 ハラグロイゼ卿とエルヴィン少年の位置は把握している。うまいもので、ハラグロイゼ卿は実に護りやすい位置にいてくださって大助かりだ。これも慣れの賜物と思えば、やはり上位貴族なんてモンにはなりたくねーな。

 などと、一瞬物思いに耽って、隙を作る。相手が仕掛けやすい、垂涎の隙だ。そして誘蛾灯のごとき罠、フェイントでもある。果たして、敵は動くか。

 

「この度は――」

 

 動いた。腰を落とした踏み込み。しかし、俺は動けないでいた。即席の剣を構えたまま、相手の動きを見ているしかできない。すわ妖術か? いや違う。困惑だ。これは、この動きは――。

 

「うちの倅が、大変申し訳ありませんでしたッッッッ!!!」

 

 DOGEZAだ。

 

 

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