ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-8 ティエスちゃんは奇襲される③

「往生せいやぁッ!」

 

 依然として鉄火場なティエスちゃんだ。エヴィロンスの一体を踏み台に跳躍し、大上段からの振りおろしをゲルベロッサに見舞う。これで決まりだ!

 

「舐めるなよ、小娘(ガキ)が……!」

 

 ゲルベロッサは俺の渾身の振りおろしを、自身の短剣で受けとめきる。マジかよ!? 俺の片手が毒でダメになってるせいでスピードとパワーが落ちてるとはいえ、刃で受ければその刃ごと断ち切る剛剣だぞ!?

 野郎、インパクトの瞬間に力のベクトルをずらして衝撃を受け流しやがった。意外と強いぞこいつ!

 だが、それならそれでこっちもやり方を変えるだけだ。ならよ、これならどうだ?

 

「ムッ!?」

 

 ゲルベロッサが鍔迫り合いを解いて、大きく後ろに下がる。おいおい、気づかれたってコトォ?

 

「……まったく小癪な、魔法剣士はこれだから始末に負えない。剣士としての矜持はないのかね?」

 

「テメーにだけは言われたくねーな」

 

 俺は舌打ちをして、液体にしかけた刀身を再び固体に戻す。刀身を水魔法で液体化させ、相手の防御をすり抜けた後に再び固化させるこの技は、俺が考案した三十五の秘剣の中の一つだったのだが、ゲルベロッサは初見でその兆候を見て咄嗟に距離をとったのだ。なんだこいつ、かなり出来る。

 俺は剣を下段に構えながら、できるだけ下卑た笑みを浮かべた。

 

「おうおう、随分な使い手じゃねーか。なんでこんな暗殺者崩れに?」

 

「……ッ!」

 

 ゲルベロッサが踏み込む。痛いところを突かれたか? 素早い短剣での刺突を捌いた。思い刺突だ。剣が交わるたびに青黒い飛沫が舞う。おそらく刀身に塗りこめられている毒だろう。怨念が籠ってそうで嫌だね。認識できなければ毒にやられ、認識できれば毒に気を取られる。なるほど厭らしい二段構えだ。だがまぁ、そんな邪な剣じゃ俺には勝てんよ。

 俺は毒の飛沫を膨張させた空気のかたまりで弾き飛ばして、そのうえでピロピロと舌を出して煽り立てた。

 

「ヒヒヒィ! なるほどなるほど。お辛いよなァ? おおかた、騎士団長的なポストをライバルの剣士に奪われて、腐って闇に身をやつしたとか言うやつだろ? ……いや、それともお払い箱にされたかなァ? エヴィロンス(こいつら)がいれば、個人の半端な武技を誇る時代は終わるもんなァ?」

 

「黙れェ!!」

 

「オホホホホ! 図星だったみてーだなァ!!」

 

 所詮この世は暴力なのだ。個人の武技を誇る時代は終わる。だが、本当に抜きんでた連中はそういった潮流すらも跳ね返す。それができなかった時点で、ゲルベロッサは武芸者として半端ものなのだ。

 出過ぎた杭は打てないのさ。特に俺みたいな杭はよ。

 ……っと、いかんいかん、これ以上はどっちが主人公だかわからなくなっちまう。

 俺は今更ながらにキュッと顔を引き締めて、ゲルベロッサの怒涛の連撃をいなす。怒りで頭に血が上っても、その刺突は変わらず速く、重く、巧い。速さは特に一級品だ。純粋な剣技では、俺が片手だと瞬殺できないレベルである。これが剣術大会か何かなら、有効の一つくらいはとられていたかもしれない。

 とはいえ、これは試合ではなく死合い……さらに言えば、もっと純然とした戦闘行為である。戦いにルールはない。卑怯も辣韭もない。負けた奴が悪い。現にこいつも毒を使ってるしな。なので俺の無法もノーカンで頼むぜ。

 俺は連撃の僅かな間隙を見抜いて、ゲルベロッサのどてっぱらに横蹴りを叩き込んだ。ソールの下に生成した即席の鎧通しから確かな手ごたえが返ってくる。たとえ鎧を纏おうと、ぶち抜いちまえば無問題。鎧通しの運用法が違う? いいんだよ細かいことは。クロスボーンガンダムスタイルだ。

 

「ぐッ」

 

「逃がすかよ!」

 

 たまらず、といった具合に顔をゆがめて、ゲルベロッサは後ろに飛ぶ。距離を取りながら毒棒手裏剣をばらまくのを忘れない。腹に穴をあけられてまだそれだけ動ける元気があるのは称賛に値するぜ。

 俺は距離を詰めるように跳躍する傍ら、自分に向かってきた棒手裏剣をすべて叩き落とす。そしてそのままの勢いで、剣を逆袈裟に振り上げた。

 

「ギャッ」

 

 ゲルベロッサの短い悲鳴。毒の短刀がそれを握る手首ごと宙を舞う。どす黒い飛沫が弧を描いた。がらん、という硬質な音が、整備区画の床をゴロリと転がる。

 ゲルベロッサはその光景を見て、呆けたように動きを止めていた。俺も目を見張る。予想もしないものが、そこにはあった。

 

「な、なぜ……だ……」

 

 ゲルベロッサのうめきにも似たか細い声が、その口の端からこぼれる。困惑と怖れの入り混じった声音だった。一騎打ちの結果、敗れたことが信じられないのではない。そんなことはもはや、どうでもよいのだろう。彼は残った腕に構えていた棒手裏剣を、力なく取り落とした。

 その視線は、ただ、斬り飛ばされた自身の手首に注がれている。

 

「私が……私も……?」

 

 鋼色の切断面と、断線してスパークするケーブル、滴る黒々としたオイル……そのどれもが、俺には見覚えがあった。

 ぐらり、とゲルベロッサの体が傾ぐ。数歩たたらを踏んで後ずさった彼は整備用クレーンの支柱にどっと背中をぶつけ、そのまますべての力が抜けたようにずるずると頽れた。

 生気のすべてを喪失したようなゲルベロッサは、震えるように頭を左右に振る。自身がたどり着いてしまった、認めがたい真実を、それでも認めないとばかりに。その姿は、敵ながらひどく哀愁を誘った。俺は剣を下す。もうこの男に、抵抗するだけの気力は残ってないだろう。

 

「私も……エヴィロンスだった……?」

 

 ゲルベロッサが茫然自失に呟いた瞬間、その体は内部から炸裂した。

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