「被害状況は」
「人員については軽傷3名、死亡無し。設備及び整備資材に多少の被害が出ましたが、我軍の強化鎧骨格及び運搬車については被害を出さずに済みました」
「フム、してやられたね」
「詳しい被害状況については後程レポートを上げさせます」
「頼むよ」
報告を上げるティエスちゃんだ。とりあえず平静を取り戻した整備区画の一角で、ぐちゃぐちゃになった机椅子をとりあえず直し、即席の会議室としている。
ゲルベロッサの自爆? あれはびっくりしたぜ。まぁ封じ込めは成功したけどな。ほかのエヴィロンスについても処理して転がしてるところだ。いま整備班が実況見分の準備をしてるよ。
ハラグロイゼ卿は珍しく頭を抱えると、副官の用意した紅茶のカップを傾けた。整備班の私物の安い奴だが、それでも様になるのだから美形というのは得だ。
「ふぅ。イセカイジン卿。君はつくづく大物を釣り上げてくれるね」
「はぁ……恐縮であります」
ハラグロイゼ卿の嫌味に、俺は半笑いで答える。俺はおいしい水産物を釣りに行っただけなんだよなぁ。なんで陰謀とかそういうのばっかり針に掛かるんだろうか。嫌になっちゃうよ。
「姫。あのゲルベロッサという男とは、面識が?」
ハラグロイゼ卿は同席していたリリィ姫に水を向ける。姫はためらいがちに頷いた。
「彼はもともと、前王に仕える近衛のひとりでした。剣の使い手と呼び声の高い人物で、賢狼人の中でも指折りの実力者だったのですが……」
姫は横のライカ君にちらりと目をやる。ライカ君は目を伏せて、しっかりと頷いた。だいたい察しがついたな……。
「父王ウィドーが王権を簒奪したとき、その手引きをしたのが、ゲルベロッサだったと聞いています。彼は前王を裏切り、勝ち馬に乗ったのです。もっとも王を護るべき職にありながら」
リリィ姫が奥歯をかみしめる音が、急ごしらえの会議室に響く。相当腹に据えかねているのだろう。しかし、すぐにその調子はトーンダウンした。
「……それでも、彼は賢狼人でした。赤い血の通った」
「あのような機械の体――エヴィロンスではなかった?」
「……はい」
ハラグロイゼ卿の些か直截な問いにうなずくと、姫は訥々と語り始めた。
「ゲルベロッサは、一時期わたくしの剣の指南役をやっていたことがありました。父が王位を奪う前のことです。決して清廉でも、優しくもない人物でしたが、それでもあそこまで酷薄な人物ではありませんでした」
「ほう」
「一度、立て掛けてあった真剣を興味本位から触って、倒してしまったことがあるのです。ゲルベロッサは私を庇い、傷を負いました。その時流れた血は、間違いなく赤かった……もう、十年は前の出来事ですが」
ほーんなるほどね、そんな因縁が。そりゃあ普段温厚な姫もあんな声出すか。口ぶりからして、剣の指南は真面目にこなしていたんだろう。時には身を挺して庇ってくれるような先生だったわけだ。闇に身をやつした様をありありと見せられてもなお、信じてたんやろな。
まぁそうは言っても、人間ってのは基本的に水と一緒で低きに流れる。ポロロッカできるような奴は実に一握りだ。姫の見る目がないわけではないと思うぜ。
俺は差し出口をはさんだ。
「姫、その……」
「わかっています」
俺が言い終わるより先に、姫はそう言ってうなずいた。さすが、強い人だ。クーデター返しを目論むだけのことはある。
思いつめたような様子はないのでほっとしていると、姫は決然とした口調で続けた。
「身体検査を急ぎましょう。ハラグロイゼ卿、そちらの医官のお力をお貸しいただきたいのですが」
ん? 身体検査???
「すまないね。なかなか話しづらい話題だ、そちらから切り出していただけて助かるよ。無論、王国としても協力しよう。下手をすると、我々は内側から瓦解しかねないからね」
「ええ。もしもわたくしがエヴィロンスと入れ替わっていたら、その時は――」
姫の射抜くような、それでいて懇願するような視線が、俺のものと絡む。森域人が時折見せる、覚悟ガンギマリの目だ。俺は内心で膝を打った。
ああーーーー! なるほど、それをすっかり失念していた!
そうか、そういう展開もあるのか。なんだっけ、なんかこんな映画あったよな。遊星からの物体Xだっけ。まああっちは異星生物の仕業だけど、こっちは同胞のやらかしだもんな。果たしてエグさはどっちが上だろうか。
俺はそんな内心をおくびにも出さず、これ以上ないシリアス顔でしっかりとうなずいた。
「――お任せください。護衛騎士として、その任、果たしましょう」
「ありがとうございます、イセカイジン卿」
リリィ姫は、安心したように笑んだ。