ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-10 ティエスちゃんは手当てされる

「あっ、ティエス中隊長~~!」

 

 即席会議室を出たら呼び止められたティエスちゃんだ。呼び止めたのは……げぇっ。

 

「そんな露骨に嫌な顔しないでくださいよー。傷つくじゃないですかぁ~」

 

「もうその擬態意味ないと思うんですが」

 

 思わず敬語で返す。俺を呼び止めたのは看護士こと、ミッティ・エライゾだ。マジでどう接したらいいかわかんないんだよなぁこの人!

 戦闘中は洋物スパイガールよろしくぴちぴちの眼福ラバースーツみたいのを着てたと思うんだが、今は王国陸軍の標準野戦服の上から割烹着みたいな前掛けという医官のいでたちだ。

 

「いいんですぅー。今は医官としてのミッティですので~」

 

「左様で」

 

「なので、今はティエス中隊長のほうが階級上なんですから。そんなにかしこばらないでもいいんですよ~」

 

「そうは言ってもなぁ」

 

 さっき観光局のやつらにバリバリ指示出ししてるところ見ちゃったしなぁ。観光局なんて言ってるけど、中身はバリバリのスパイ組織のエージェントだからね? MI6とかCIAとかデンデケデンデーンみたいな曲が似合う連中だからね。そいつらを当たり前のように指揮下に置いてるあなたは何者ですかって言うね。

 

「やだなあ~。あの人たちとは偶然連携がうまくいっただけで、全然畑違いですからね~ホント」

 

 うっそだぁ~~。陸軍情報部の人間じゃないにしても、絶対ほかの諜報組織の人間だろ。おおかたエライゾ領軍の公安部ってとこじゃないか? 臭いでわかる。

 まぁ、わざわざ藪をつついて蛇を出す様なウカツをすることもなし、俺は力いっぱい怪訝な目を向けるにとどめる。ミッティはニコニコしている。こわい。

 

「整備班の連中にけが人が出たって聞いたが、無事そうか?」

 

「そうですね~、ちょっと深めの切り傷と打撲ってトコですね。ハンス君とニアさんを援護するのに無理をしちゃったみたいで」

 

「叱るに叱れない感じだな、功績を考えると」

 

 実際、場をおさめたのはほとんどニアとハンスだ。副官やトーマスも剣の腕はそれなりだが、さすがに生身で強化鎧骨格を斬れるかというと難しい。俺とか素知らぬ顔ですぱすぱ切ってたけど、あれって実はかなり高等テクだかんね。俺が編み出した三十五の秘剣の一つ、アーマーブレイカーだ。刃と接触した面を水魔法で柔らかくしてるからあんなにスパッと切れるわけよ。まぁそれはいいとして。

 じゃあ俺が処理しきれなかったエヴィロンスはどうしたかというと、俺がゲルベロッサとタイマン張ってた間に、ニアとハンスが強化鎧骨格に乗り込んで蹴散らしたわけだ。同じ強化鎧骨格同士なら、そりゃ大きいほうが勝つのが道理ってもんよ。

 どうも負傷した整備員ってのは、ニアとハンスを迎え入れるときにバリケードに生じる隙を埋めるため、果敢にもロングレンチとバールのようなものでエヴィロンスに立ち向かったらしいのだ。いやほんと、死ななくてよかったぜ……。

 

「職人としての今後に影響出るような怪我じゃないんだろ?」

 

「そうですね~。その辺は心配いらないかなーって。ただ、どうしても作業効率は落ちちゃう感じですねー」

 

「そりゃ仕方ない。痛手ではあるけど、この機会だ。養生させるよ」

 

 とりあえず、職を失うような怪我はしなくてよかったぜ。いや、命失ってないだけ上等ってのはわかるんだけどな。俺だって人間だから欲ぐらい出るってもんよ。あとでニアとハンスにフォローもいれとかないとな。そう抱え込む奴らじゃないが、不安の芽はつんどくに限る。ったく、考えることが山盛りだ。中間管理職のつらいところだぜ。

 

「ティエス中隊長って、思いのほか真面目ですよね~」

 

「んだよ、思いのほかは余計だろうが」

 

 俺が責任者のあれこれで懊悩していると、ミッティがくすくすと笑った。馬鹿にするような色はないが、一言余計だよ。俺は唇をとんがらせた。

 

「そうでしたそうでした。じゃ、ティエス中隊長。おてて出してくださいね~」

 

「おてて?」

 

「怪我、してるでしょー」

 

「……バレてたか」

 

 こんなん唾つけときゃ治らぁ。俺は焼けただれた掌を握りこもうとして、諦めて差し出した。まぁ普段の剣の振りとだいぶ違ったからな。俺のことをよく観察してる奴なら気付くか。

 

「なんで隠そうとするんですー?」

 

「いやぁ。あの程度の相手に負傷するとか恥ずいじゃん?」

 

「えー、子供っぽーい」

 

「うるせー。心はいつまでも少年なんだよ」

 

 そんな気の抜けたやり取りをしている間も、ミッティは俺の掌をじっくり診察している。その単眼鏡にあってるね。でしょーみたいなふわっとした女子トークなども交えて、ミッティが出した結論は以下のものだった。

 

「壊疽を引き起こす毒みたいですね。毒自体は熱に弱いので、傷口を焼いたのは英断でしたよ~。あのまま毒が血中内に入って体中に回ってたら死んでましたねー」

 

「こっわぁ~~~」

 

 俺はぶるりと震え上がった。エグイって! 剣に塗ってあったのとかバラまいてたのも同じ毒ならだいぶヤバくない? 畜生ロボットには効かないからって厄介なもん持ち込みやがって。すぐに現場作業してる連中に通達しねーと大惨事になりかねんぞオイ。

 

「あ、心配しなくても現場には通達済みですよ~。除染も終わってますし、二次被害はないかと~」

 

「有能~~~!」

 

 俺はミッティを褒めたたえた。ハグしてよしよししてやりたい気分だ。かわいこちゃんめ、今夜は寝かさないぞぅ。

 

「あ、私そっちのケはないので~」

 

 やんわりと断られた。まぁよく考えたらこの女エライゾ卿のご息女だもんな。おいそれと手ェ出したら俺の首が締まる。その場のノリだけで生きるのは慎んだほうが良いな……。

 俺が内省している間に、ミッティは手際よく処置を終えていた。軟膏を塗ってガーゼ貼って包帯巻いた感じ。うーんちょっと大げさじゃない?

 

「明日の朝には包帯取れますから、それまでは外しちゃだめですよ~。お薬出しときますねー」

 

「……了解。世話かけたな」

 

 俺の訴えかけるような目を笑顔で封殺して、軟膏のパックを俺の負傷していない手に置いた。敵わねぇなあ。

 

「おだいじに~」

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