ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-11 ティエスちゃんは検分する

「お~う、ハカセ。どうだ、首尾のほうは」

 

「あっ、ティエス卿」

 

 実況検分に立ち会うティエスちゃんだ。一通り傷を手当てしてもらった俺は今回の襲撃者たちのなれはてが転がされているエリアに足を運んだ。

 虎ロープを張って簡便に区分けされたエリアには、自爆装置を処理できたエヴィロンスの残骸が整然と並べられ、調査が進められているところだった。一部ブルーシートがかぶせてあるのは損傷がひどい個体か、もしくは完品に近い個体だろう。後者は王国へのお土産用だな。シャランあたりが泡を吹いて喜びそうだぜ。けけけ。

 さて、整備班に交じってあーだこうだ論じていたジャスティンに声をかける。魚っぽい顔してるから一目でわかるな。

 気付いたジャスティンは議論相手の整備員に一言断ると、こちらに駆け寄ってきた。遅れて敬礼した整備員に答礼してから、俺はその整備員も手招きした。

 

「それで、どうだ。首尾のほうは」

 

「ダメですね。エーテル伝導脳が無事な量産型からデータを抜いてみたんですが、ろくな情報はありませんでした。情報を持ってそうなゲルベロッサ・クローンのほうは内装がすべて焼き切れてしまっていて、解析は不可能かと…………ハカセ?」

 

「天才発明家なんだろ。なら、ハカセだ」

 

「この人、たまに人にテキトーなあだ名付けるんで気にしないほうが良いっスよ」

 

「はぁ……?」

 

 まぁそういうことだ。良いだろ、ハカセ。まぁ俺も博士号もってるから博士なんだが、そういうことじゃねぇんだよな。わかる?

 それはそうと整備員のエリック君にも素敵なあだ名を考えてやらないとな。マスク・ド・オウガとかどう? ちと長いか。

 

「いいんだよこまけぇことは。それで、ゲルベロッサ・クローンだったか? それってあれだろ、俺が討ち取った」

 

「はい。便宜上そう呼んでいます。見ますか?」

 

「おう。そのために来たんだしな」

 

 俺はジャスティン改めハカセの後に続いて虎ロープの内側に入ると、ブルーシートの被せられた個体の前で止まった。こうして中途半端に隠されてると死体袋みたいだよな。モルグって感じ。やだやだ縁起の悪い。

 人型ってのはそれだけで結構な心理的効果を生むもんだな。どっちも物言わぬ躯になってしまえば、それらはたんぱく質のかたまりか金属のかたまりかの違いでしかなくなっちまうわけだから。

 

「これです」

 

 博士がシートをめくると、下から現れたのはそこかしこが焦げたり溶けたりしている人型だったものだ。これはちょっと微グロ注意かもな。アムロでも失神しそう。そっちのビグロじゃない? まぁ、そうね。

 

「わかっちゃいたが、随分損傷がひどいな」

 

「ティエス卿が爆発を内部に圧しとどめてくれたおかげで、外装の損傷はそこまでではないのが救いですかね」

 

「毎回思うんですけどしれっと凄いことやりますよね、ティエス中隊長」

 

「へっ、だって俺だぜ?」

 

 エリック君の賞賛とドン引きが半々といった具合の賛辞にドヤっておく。愛想笑いが上手になるのは宮仕えの悲しさである。エリック君のそれにも磨きがかかってきたな。

 それでも確かな敬意のようなものは感じるので、よしとする。魔法チョットワカル人間からすると、今回俺のやったことがいかに離れ業めいているかが理解できるのだろう。

 まだ年若いがエリック君も整備班選抜チームに選ばれているだけあって、これで熟練の水魔法使いだ。「俺、この戦いが終わったら認可とるんだ……」とか言ってたので今度の戦争で死ぬかもしれない。死なせるかよバカがよ。結局こいつら整備班の命も俺の肩に乗っかってるわけで、ホント肩が凝って仕方ないぜ。いい整体師どっかにいないもんかね。

 

「えーと、よろしいでしょうか。まずこちらをご覧になっていただきたいんですが」

 

 そんな俺たちを尻目に、ハカセが解説を始めた。俺も引き締めて、ハカセの差した部位を観察する。頭部だな。死人にこんなこと言うのもアレだが、なんともいけ好かねぇ面をしてやが……ん?

 

「お気づきになりましたか」

 

「ああ。面頬の下を見せてくれるか」

 

 ゲルベロッサの顔面は爆発の影響をさほど受けなかったのか、奇麗なままだ。目をかっぴらいて悶死した表情で固まってるのは不気味だが、まぁロボットだしな。そんなに不思議じゃない。人相を隠すために口許を面頬で隠していたのだが、どうにもこう、違和感がある。なんというか、顔の上半分と下半分で表情がリンクしてないというか……。

 その疑問は、ハカセが面頬をはずしたことで氷解した。

 

「顔の下半分が……ないみたいだな」

 

 その素顔は、びっくりするほどつるりとしていた。オティカや他のエヴィロンスと同様に。おそらくは、のっぺらぼうに顔が貼り付けられている感じなんだろう。なんとも悪趣味だ。

 

「はい。それに、顔の上半分も表情固定です」

 

「えっマジで!?」

 

 全然気づかなかったんだけど! あれ、瞬きとかしてなかったっけ!?

 

「こちらを」

 

 俺の動揺を感じ取ったのか、ハカセが取り外した面頬を俺に提示してきた。差してるのは……鼻のあたりか?

 

「ここに小さな穴があるのが見えますか。これはどうやら、投光器のようなのです」

 

「投光器? サーチライト的な奴か?」

 

「いえ。どちらかといえば、プロジェクターでしょうか。どうもこの穴から映像を投影して、表情を作っていたようなのです」

 

「プロジェクションマッピングってことォ!?」

 

 ハカセはあいまいに頷いた。おそらくプロジェクションマッピングなんて概念がこの世界にはないからだろう。それでもこちらが理解したことだけはわかったって感じか。

 

「じゃあつまり、アレか。野生の後継者共は、人間を騙せるほど高精度で、機械的な表情再現方法を持っていない?」

 

「そうなります。なので、市井に擬態エヴィロンスが紛れているという可能性は、除外してもよいのかな、と」

 

「一応ウチらでも調べてみましたけど、生体部品を使ってる部位はないみたいっスね。顔面のパーツもラテックスっぽいですし。結構偽装としてはとってつけた感じっていうか、窮余の策って感じっス」

 

 ハカセの推論を、エリック君が補強する。うーむ、とはいえ可能性が完全にゼロとも言えないだろうから、警戒だけは必要だな。俺は腕を組んで唸った。

 

「しかしゲルベロッサのやつ、腕を斬られるまで自分のことを生身と疑ってなかったよな。これだけとってつけたような偽装なら、じきに自己矛盾起こして死んじまいそうだが」

 

「実際、彼の自爆も原因はそれでしょうね。おそらく、長期的な運用は期待していないのでしょう。……ひどい話ですが、任務の直前に何らかの方法で人格を形成させ、任務修了時、もしくは矛盾に気づいた瞬間に自爆スイッチが入る仕掛けになっているのではないかと」

 

「なんとまぁ、敵ながら同情するぜ」

 

 一度きり、使いきりの命とはね。腹の中に爆弾抱えて鉄砲玉よろしく片道切符か。可哀想なゲルベロッサ・クローン。悲しいモンスターすぎて泣けてくらぁ。

 まぁ言っといてなんだけど敵だし別に同情はしないが……とりあえず許せねーな野生の後継者め。

 

「その、エーテル伝導脳だったか。字面からしておそらくエヴィロンス・シリーズの自律稼働の肝だと思うんだが、既存の人物の人格をコピーすることは可能なのか?」

 

「エーテル伝導脳は、もともと人間の思考パターンの模倣再現です。適切なデータがそろっていれば、技術的には可能かと」

 

「技術的に可能、ってのは不可能の言い換えだって聞いたことあるぜ?」

 

「そうですね。どれほど膨大なデータを用意すれば人格の完全再現ができるのかは、僕にもわかりません」

 

 ハカセは肩をすくめた。だよなぁ。

 

「オティカはどうなんだ?」

 

「彼はもともとエーテル伝導脳ですからね。データを丸コピすれば量産は可能です。もっとも、彼は嫌がるでしょうが」

 

 なるほどね。とりあえず頭の隅には留めておこう。

 

「OK。仕事中に呼び止めて悪かったな。とりあえず現段階でわかったことだけでも良いから、1時間後までにレポートにまとめといてくれ」

 

「1時間後っスか。鬼っスね」

 

 エリック君が相当に苦い顔をする。無理言ってるのはわかってるんだけどすまんね。下手するとこのまま戦争になだれ込むかもだから、時間がねぇんだわ。コトが済んだらおっぱい触らせてやるよ。

 

「いや、俺妻子持ちなんで……」

 

 なんだよお固いなぁ。それはそれとしてまた口に出てたか。悪癖だなぁ。ハカセはそんなやり取りに苦笑している。仲いいなぁとか思ってそうな顔だ。ばっかおめぇ俺は基本的にみんなと仲良しだかんな。

 

「ティエス卿は、このあとは?」

 

「世界樹でエルフとお茶会してくる」

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