「おーう、けぇったぞ~~」
「おかえり。あら、エルヴィン君は?」
「置いてきた。この先の戦いについてこれねぇからな」
「そ。まあ、妥当な判断ね。ふぅ」
エルフとの茶会から帰ってきたティエスちゃんだ。瓦礫の片づけをしているニアが額の汗をぬぐう。バリケードつくったりしたときの名残だな。まだ整備区画の中はしっちゃかめっちゃかだ。みんなちゃんと働いてるようで感心感心。
「そうそう、お客さんが来てるわよ」
「客? ……そいつぁ、もしかして
アレ、と指さしたのは整備区画の一角を占拠している大荷物のことだ。あんなん出る前は無かったからな。戻ってきてからこっちずっと気になってたんだよね。
「ン? あー、そうみたい。なんかアンタの知り合いだって言ってたけど」
「知り合い?」
誰だろ。あんな荷物を持ってくるような知り合いに心当たりはねーぞ? 基地の連中だったらそんな言い方はしねーだろうし。
「とりあえず行ったら? 即席会議室にいるから」
「オーケー、ありがとな。おめーも適度に休憩入れろよ……っと」
「きゃっ!」
俺があいさつ代わりにケツを撫でると、可愛らしい悲鳴とともに鋭い平手が飛んだ。野戦服越しじゃ感触も分かんないんだが、まぁここは甘んじてライフで受ける。バチィーンと見事なまでの快音が響いた。整備区画中の目がこちらに向くが、その発生源が俺たちだとわかるとすぐに興味は失われた。またやってんのか、みたいな目だ。へへ、またなんだ。悪いね作業中に。
俺は赤く手形のついた頬をさすりながらキメ顔で言った。
「恐ろしく速い平手……俺でなきゃ見逃しちゃうね」
「なら避けなさいよ」
「ヤだよもったいない」
「さっさと行け助平! バカ!」
「へへへ」
俺はキーキーと声を上げるニアにへらへらと手を振って、気持ちも軽やかに整備区画を歩く。心の栄養補給というやつだ。セクハラ? まぁ固いこと言うなって。今は同性だ。関係ない? そうね。
整備班の皆がめいめいに作業に励むのを横目に、俺はノックもなく即席会議室の敷居をまたいだ。ハラグロイゼ卿がいないのは知ってたしな。客も俺の知り合いらしいし、そこまでかしこまることもない。さて、あんなデカブツをもってきたのがどこのどいつか、顔を拝んでやるとするか。
「お、来たな」
俺の入室に真っ先に気付いて振り向いたのは、背の高い操縦服姿の女兵士だ。キリっと整った顔立ちは、それに乗っかってる笑みも併せてかなりキマっている。男にも女にもモテるタイプの顔だな。なるほど見知った顔だった。
「ム。その声はもしやわが友、李徴子ではないか?」
「いや誰だよ。……これこの間もやったな」
「だな。また会えてうれしいぜエリカ。こないだぶりだ」
その女、エーリカ・テッペの差しだした手を握り、旧交を温めるように笑う。しかし、疑問は残る。エリカが客だというのなら、ニアもあんなふうなふわっとした言い方はしないはずだ。森域に来る道中で会ってるんだからな。
えっ、忘れてた? いやいや、さすがにそれはありうるかもしれんな……。俺はニアの抜けたところについては十分信頼していた。まぁ一旦それは置いとくとしても、だ。
「それでどうしたよ。国境警備隊のお姉さまが統合府くんだりまで」
「お姉さまはやめろ。……その、兵が見ている」
いやーん恥じらっちゃってかーわいい! ……それはそうとそのセリフはちょっと死亡フラグっぽいのでやめてもらっていいですかね。勝利の栄光をどうのこうのとか言うなよ? あ、いやあれは言ったやつは死んでないか。
「すまんすまん、それで、どうして統合府に? まさか試合の見物に来たわけじゃないんだろ?」
「ああ。エーリカ・テッペ小隊長以下5名、追加の要員としてこれからはお前……いや、ティエス中隊長殿の指揮下に入ることになった。よろしく頼む」
エリカの惚れ惚れするような敬礼が、会議室にびしりと鳴り響いた。それを合図に、脇に控えていたエリカの部下たちも続く。なるほど追加の要員か。エライゾ卿におねだりの手紙を出したのも無駄じゃなかったな。俺も負けじと、教本に乗るような完璧な敬礼で答える。
ひぃふぃみぃ……6人ね。なるほど、貴重な増員だ。全員が操縦服を着てるってことは、強化鎧骨格乗の数が単純に倍になるってことだ。これはデカい。やれることの幅が大きく広がる。
「おう、こき使ってやるから覚悟しとけ。んで、外のアレについても説明してくれるんだろうな?」
「うむ。それについては、専門家の方から話をしていただこう」
俺は会議室の外についと視線を滑らせた。エリカはうむ、とうなずき、半歩体を横にずらす。今まで国境守備隊の面々に隠れて見えなかったが、奥のパイプ椅子にも何人か腰掛けていたようだった。そのうちの一人がスッと立ち上がって、俺のほうを向いた。
「まったく、客を待たせすぎじゃないかしら? ティエス・イセカイジン中隊長さん?」
気の強そうな口許と、それに反比例するように怜悧な目。それに見合うような棘のある口調、剃刀のように鋭い雰囲気……見覚えがあるなんてもんじゃない。お、お前は――!
「シャラン……シャラン・アプリコット!?」
「バカね、今はマースカルトよ」
そういって、終生の宿敵――シャランはふふんと笑った。