ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-14 ティエスちゃんは知己に会う③

「シャラン……シャラン・マースカルト!?」

 

「……わざわざ言い直す必要あった?」

 

 驚き屋のティエスちゃんだ。ククク、俺はネタバレをおそれない(おんな)……ウィキペディアで内容を全部調べてから映画館に行っても新鮮な驚きを得られるタイプの人間だ。いやあんまり関係ねーな……。

 

「まぁまぁ、これも礼儀というかなんというか」

 

「どんな礼儀よ。相変わらずふざけたことしか言わないわね」

 

「うるせーなー」

 

 シャランはフンと鼻息ひとつ、腕組みして俺を見下すような姿勢をとった。まぁ俺のほうが背が高いから全然見下ろせないんだけどな! ザマミロ。シークレットブーツでも履いて出直してくるんだな。

 

「というかそもそも、なんでお前こんなところに居やがるんだ。非戦闘員は帰ったほうが良いぜぇ、近々この街は戦場と化すんだからよ」

 

「知ってるわよ。だからわざわざ来てやったんじゃない」

 

「はァ~~~~~~???」

 

 これが漫画だったら伸ばし棒が上のコマにまで突き抜けてたところだ。訳が分からんな。シャランの戦闘力は正直カスだ。見た目通りの膂力、見た目通りのスピードしかない。わざわざ戦争に首を突っ込んでくる意味が――いや、そうか。

 

「国技研が絡んでんのか」

 

「そう言うコト。正確には国技研(ウチ)も巻き込まれた側よ。いい迷惑だわ」

 

「おめーと意見が合うときってのは大概ろくでもねぇ時だよな……外の荷物のこと、説明してくれるんだろうな」

 

「当然でしょ。言ったじゃない、そのために来たって」

 

 シャランは獰猛な笑みを見せた。これは睡眠時間が足りてない顔だ。よっぽど強行軍な開発スケジュールだったらしい。養生しろよな、そろそろお肌の曲がり角なんだからよ。

 しかし、なんというかあれだな。今のシャランはぎらついている。こないだ見舞いに来た時みたいなフニャフニャママじゃねえ、つくつくにとんがった昔のシャランに近い雰囲気だ。ハードワークは人格を変えるらしい。くわばらくわばら。

 

「そういやお前、シスコくんはどうしたんだ? 実家に預けてきたのか?」

 

「……イースが手を回してくれやがったわ。シスコ、泣いてなきゃいいんだけど」

 

 イースってのはイーサンボンドのことだ。我らの可愛い後輩にして観光局=王国陸軍情報部の若きエースである。あいつ、最近姿を見たり見なかったりすると思ったらちゃっかり暗躍してやがったか。

 つまり、シャランは目に入れてもいたくないレベルに溺愛している息子を人質にとられていると。許せねーなーオイ。エリカも思うところがあるのか苦い顔をしている。そうだよな、こいつも母親だもんな……。

 

「なによその目は。やめてよね、あんたに同情される謂れはないわ」

 

 俺がいたたまれない顔をしていたのだろう。シャランはフンと鼻を鳴らして切って捨てた。そして、びしりと人差し指を俺に突き付けてくる。強い視線が俺を射抜いた。

 

「あんたは、とにかくこの戦争をさっさと片付けることだけ考えてればいいのよ。どうせ頭のデキじゃ私にかなわないんだから、要らない思考に脳のリソースを使わないで、もったいない」

 

「なんだとぉ……!」

 

「なによ、事実でしょ」

 

 俺はむかっ腹を立てた。シャランはそれすらもこともなげに切って捨てた。ぐぬぬ。

 実際、頭のデキでは圧倒的にシャランに軍配が上がる。でもさあそれって大学の首席次席を争うレベルの話なんだワ。自分で言うのはなんか鼻につけてるようでアレだけど、俺の脳みそって実は国でもトップ層に入るレベルで優秀でぇ! ……やめようマジでこれは自分で言うことではない。

 そういう内省で何も言えないでいると、シャランは勝ち誇ったように微笑む。なんとも人をイラつかせる微笑みだ。思えば、大学入学しょっぱなの試験でビリをとったとき、俺を奮い立たせたのもこのクソむかつく微笑みだったか。

 そして、少しばかり笑みの種類が変わる。俺が言葉を発するより前に、シャランが口を開いた。

 

「これでもね、あんたの腕は信頼してんのよ。ティエス」

 

「お? お、おう」

 

 なんだ、ツンデレか? やめろよお前いま人妻なんだから。俺が照れるやら困惑するやらしているすきに、シャランは即席会議室の戸口に立っていた。振り返り、俺の顔を見る。着いてこれるか、とでも言いたげな、挑発的なまなざし。

 

「ついてきて。説明をするわ」

 

「説明って、なんの」

 

「決まってるでしょ」

 

 シャランは肩越しに、親指で外の荷物を指した。その姿が、妙にキマっている。

 

「あんたに新世界を見せてあげる」

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