ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-15 ティエスちゃんは危機一髪!?

「幕、取りまーす!」

 

「慎重に作業しなさい、機体に傷をつけないように!」

 

 作業を見守るティエスちゃんだ。シャランの野郎が陣頭で指揮を執って、あの大荷物の荷ほどきをしている。作業員たちが恭しく取り払ったヴェールの下から、大型トレーラーの荷台二つ分はあるその巨大な構造物の姿があらわになった。

 それはぱっと見たところ、巨大な円柱に見える。1本当たりの全長は15メートルほどで、直径は3メートルほどだ。全体が白で塗装され、末端部には市松模様のラインが一周まわっている。それが計4本。真新しい塗装面が整備区画の照明をぎらぎらと照り返して、随所に施された注意書き(コーションマーク)と併せて、どこか怪しげな威圧感を振りまいている。

 

「待たせたわね」

 

 その円柱の束をバックに振り向いたシャランが、にやりと不敵な笑みを浮かべた。しかし俺はそんなことよりも、円柱に視線が釘付けだ。この形状、この塗装、このディティール。末端部の形状こそシートで厳重に被覆してあって確認できないが、おそらくこいつは――

 

「ちょっとティエス、聞いてるの!?」

 

「おいおいおい、お前これオイ」

 

「あばばばばばばばばばばばば」

 

 自分の話を無視されたことが気に障ったのかシャランが詰めよってきたが、俺はその肩をガッと掴んでぐわんぐわんと前後に揺らした。シャランの間抜けな悲鳴が響く。おっとうっかり激しくゆすぶりすぎた。あやうくムチ打ちにしちまうところだ。俺はすこしだけ冷静になって、シャランの方からぱっと手を離した。

 

「おっと、すまん。ついびっくりしちまって」

 

「首がもげたらどうすんのよ……。それにしても、ふーん、わかるのね」

 

 シャランは首をさするながら俺を恨めしげに見て、しかしわずかに口の端を吊り上げた。そうでなくては、とか思ってそうな顔だ。へっ、舐めるなよ。この世界の連中よりは、俺はこいつに詳しいつもりだぜ。前世(むこう)の博物館で食い入るように解説を読みこんだからな。

 シャランは気を取り直すように咳ばらいを一つすると、大威張りするように胸をそらした。

 

「これはX2ATS。アンタに新世界を見せるモノよ」

 

「X2ATS……試作2号機A型ティエス・スペシャルってコト?」

 

「うぬぼれんじゃないわよ」

 

「んだよ違うのかよ」

 

 一蹴されてしまった。俺は拗ねた。

 ちなみに今更だが、この世界にはこの世界特有の文字のほかにアルファベットとアラビア数字が常用されている。またぞろ昔の転生者が広めたんだろうが、まあ便利だからねアルファベットとアラビア数字。なお伝来してきた仏教の影響で寺院関係者には漢字もそこそこ読めるやつがいる。平仮名・片仮名とは違ったタイプの崩し仮名が普及してて面白いぞ。ちょっと話がそれたな。

 

「それで、なんでここにロケットブースターがあるんだよ。教えはどうした教えは」

 

 シャランが運んできた荷物は、どう見たって宇宙ロケットのブースターだった。H2Aとかレッドストーンとかソユーズとか、概ねあんな感じのやつ。実際(ぜんせ)の宇宙機のそれに比べると半分くらいの大きさだから、どちらかというと大陸間弾道ミサイルとかの類にも見える。まぁ本質的には似たようなもんだ。ロケットが完璧に動作すれば、あとは惑星に着地するか、間違った惑星に着地するかの違いくらいしかないしな。

 問題は――。

 

「……ほんとに一発でわかるのね。あんたの論文だって、あくまで理論段階だったでしょうに」

 

「紙に書き起こした分はな。あとはだいたいここに詰まってんの」

 

 おれは自分のさらっさらの金髪をかき上げて見せた。シャランは胡乱げな目を向けた。なんだよぅ。

 

「というか、聞き捨てならねーな。あの論文は王宮(うえ)からの圧力で破却させられたんだぞ。禁忌(タブー)がどうとかで。おかげで卒業研究が一からやり直しになったんだ。なんで今更」

 

「その王宮から特別に許しが出たのよ」

 

「なんで???????」

 

「知らないわよ。イースにでも聞いてみたら?」

 

 あいつが口を割るわけがないだろうがよ。ベッドに誘ったって俺がヒンヒンさせられるのがオチだ(全戦全敗)。

 森域のクーデターごときを王宮がそこまで重く受け止めている? 実際、連中が使ってきたエヴィロンスや転移装置なんかは脅威ではあるが、とはいえそれはあくまで森の中だけの話だ。一歩でも王国の領土に踏み込めば、王国の正規軍なら数にものを言わせて真正面からひねりつぶせる。いかに人材をエヴィロンスでかさ増しできるったって、生産力の問題はどうしたって付きまとうんだ。じゃあ暗殺謀殺裏工作だ! となれば、陸軍情報部が黙っちゃいない。表からも裏からも、森域の総力を結集したって、万に一つも勝ち目はないのだ。

 じゃああれか、森域が帝国に呑まれて緩衝地帯が消滅し、国境線が大接近することをおそれている? 確かに帝国は強国だ。兵・装備のどちらをとっても質も量も王国に比肩する大国である。100年前に北方の旧コルーン共和国領を併呑して以降めっきり領土的野心を見せなくなった帝国だが、そろそろしびれを切らしたとしてもおかしくはない年月だ。100年もあれば人間はほとんど代がわりしちまうからな。穏健派と急進派がそっくり入れ替わるなんてことも珍しいことじゃない。「野生の後継者」が帝国からの支援を受けている疑惑がある以上、王国(ウチ)の首脳陣が危機感を持つのも頷ける話ではある。ただ、あの時――研究中止を言い渡されたときのにべもなさを考えると、それだけで一度封印した研究を解禁するかと言われると――

 

「えい」

 

「あいたっ」

 

 いつの間にか顎に手をやって考え込んでいた俺の額を、シャランのデコピンが弾いた。正直痛くも痒くもなかったが、思考の沼に入り込みかけていた俺を引き上げる助けにはなる。シャランは腰に手をやると、ふんすとひとつ鼻を鳴らした。

 

「人が説明しようって時に自分の世界に入るな。ったく、昔から変わんないわねその悪癖、直しなさい。それに、さっき言ったことをもう忘れてるようだけど」

 

「あ? なんだよ」

 

「余計なことに脳みそ使ってないで、あんたは勝つことだけを考えなさい」

 

 むっ。悔しいがその通りだ。国家中枢の権謀術数なんて畑違いもいいところ、俺にはさっぱりわかんねーからな。なので昇進とかしたくないんスよ聞いてますエライゾ卿?

 俺は大きく溜息をついてから、誠に、誠に業腹ながらもシャロンの言い分を認めた。

 

「……確かにな。この件についちゃあオメーの言うとおりだよ」

 

「あら、珍しく素直じゃない」

 

「まぜっかえすな。……それで? こいつをどう使うのか、お前さんの御高説を賜りたいところだね」

 

 俺がジト目で睨むと、シャランは勝ち誇ったような笑みを浮かべて、意気揚々と言い放った。

 

「簡単な話よ。これであんたを強化鎧骨格ごと、「野生の後継者」の本拠までぶっ飛ばすわ」

 

 マジでぇ????

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