「うおおおおおお強烈な横G! ここでインド人を右に!」
『なんでそこで舵を!?』
制御を失った機体はきりもみ回転し墜落して大爆発。そのまま地面の染みになったティエスちゃんだ。ふぅ、シミュレーション終了。通算50回目の挑戦だがいまだに目的地に着弾すらできてませんねぇ!
「というかこれ無理じゃない? 無理ゲーだってこれ」
『無理じゃない。前回の結果よりだいぶスコアが伸びているもの。アンタならやれるわ』
「そうやっておだててさァ!」
現在俺が座っているのは、今回のシミュレーション用に技研が開発した専用のコクピット・ブロック、その検証機だ。なんかそのまま強化鎧骨格に載せることもできるらしく、今は本番機のほうを整備班が技研の連れてきた技師と一緒に俺の機体に載せ替え作業中である。ご苦労様です。
『じゃ、51回目開始するわよ』
検証機の外でずっとデータとにらめっこしているシャランは、シミュレーションのタイムキーパーと並行してロケット制御周りのプロセスを俺用に最適化している。脳みそ二つあんのかな? いや脳みそは二つあるか。とんでもない神業だ。なので俺としても文句が言えねぇ。
「そもそも、このロケット制御、強化鎧骨格の操縦系と相性悪すぎるんだよ。人間は背中にロケットなんて生えてねぇんだから」
『サブアームだって生えてないでしょ。うだうだ言ってないでとにかく勘を掴みなさい。じゃあ51回目、カウント省略。リフト・オフ』
「うおおおおおおおおおおおお」
シャランの無慈悲な宣告に少しだけ間をおいて、背後のロケットブースターが点火した爆音と衝撃がびりびりとダイレクトに俺の五感を刺激する。
もちろん実際に点火しているわけじゃない。そもそも俺がいま載ってるのはあくまで検証用のコクピットブロックで、ブースターはおろか手足すらついていないただの箱だ。
じゃあなんでこんな頭のおかしくなるような爆音と衝撃に苛まされているのかといえば、王国製強化鎧骨格には標準搭載されている訓練モードのちょっとした応用である。マン・マシンインタフェースからのフィードバックと感覚欺瞞をフル活用して、ここまでの臨場感を作り上げているのだ。おかげで訓練にも身が入るってもんよおぅわぁ!!
『ティエス機爆散。ちょっと、さっきよりもスコア落ちてるわよ。余計なこと考えないで制御に集中しなさい』
「そうは言うけどなぁ!」
やってんだよなぁこっちはなあ。でもこれマジで頭おかしくなるんだって。安定翼の制御とか人力でやるもんじゃねぇって!
あと毎回墜落するのマジでタマヒュンなんだって。もうタマないけどさァ。精神に悪いんだよホント。VR鉄骨渡りで背中押された人みたいのを毎回味わってんだぞ俺は!
俺は不平不満を垂れた。
「これさぁ、空力特性もっとちゃんと考えて安定性増すようにできねぇの? こう、補助翼とか増やしてさァ」
『生憎だけど、あんたの言うところの「空力特性」ってのは全くノウハウがないのよ。だから大推力でかっ飛ばすしかないの。お分かり?』
「脳筋ン~~」
まぁ俺の研究ってあくまで宇宙開発用ロケットであって大気圏内飛行能力についてはさっぱりだったからな……もうちょっと多角的に研究しとけばよかったぜ。まさかこんな形で跳ね返ってくるとは。トホホ。
『なんとでも言いなさい。52回目、始めるわよ』
「くそがよ……やってやらァ!」
とはいえ、俺も元はゲーマーの端くれ。たった50回程度の試行で音を上げるほどやわじゃねぇ。俄然燃えてくるってもんよ。
俺はレバーをぎゅっと握りしめ、数秒後に襲い来るであろう衝撃に備えた。
『リフト・オフ!』
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ということで弾道飛行完遂RTAはーじまーるよーしてから136回目のシミュレーション。俺は遂に、目的地までの飛行を達成した。へっ、さすが俺、やればできる子だぜ。眼下に迫る目的地のマーカーを見ながら、ブースターの切り離しシーケンスを開始する。
「よおし燃焼終了。ロックボルト開放。ブースター1番2番、イジェクト!」
ボン、と背後で爆発音がして、俺をここまで運んできたブースターニキが弾け飛んでいく。そして重量バランスその他もろもろが大きく変化した結果――。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
きりもみ回転した機体は制御を失い、俺は地面の染みとなった。ガメオベラ。
……これより着地訓練を開始する!