「おげぇ~~~」
三半規管がぶっ壊れ気味のティエスちゃんだ。とりあえず何とか着地もできるようになったのでシミュレータ地獄からは解放されたわけだが、時刻的にはすでに早朝と言っていい頃合いだ。森域の木々に遮られてお天道様こそまだ顔を出していないが、既に空の一部は白みがかっている。
しかしなんつう一日だよマジで。朝に刑務所から出て昼にゲルベロッサと戦い、夕方にエルフのところでお茶して夜はずっとシミュレーターだ。濃密ってレベルじゃねぇぞタイムテーブルどうなってんだ。
とりあえず俺はいざって時に備えて体を休めるよう暇を出されたが、シャラン含む技研の連中とウチの整備班はこれから機体の最終調整だそうだ。パワフルすぎんかね。過労で死ぬなよ俺の責任になるから。
「う~~~い、けぇったぞぉ~」
貸し与えられているホテルの一室に入るが、しんと静まり返っており返事はない。エルヴィン少年もさすがに寝てるか、とまで考えて、そういえばあいつおばあちゃんちにお泊り中だったことを思い出した。
……いや、実際にウィエルサードに続柄を聞いたわけじゃないけどね。どう見てもお婆ちゃんでしょあれは。エルヴィン少年も難儀な星の下に生まれてきたもんだ。
「エルヴィンえもん、きみが帰ったら、部屋ががらんとしちゃったよ……」
シャワーを浴びる気にもなれず、俺は軍服を適当に脱ぎ散らして下着だけになると、ふかふかのお布団に倒れ込んだ。とりあえず●RECしてきたエルフNINJAは叩き落した。自慢じゃないが、俺の射撃の腕と寝つきの良さはのび太君にも引けを取らないぜ。軍人たる者いつ何時でもすやすやできるようじゃないとやっていけないからな。それにしたってエルヴィンえもんは語呂が悪すぎるだろスヤァ。
俺は淵に吸い込まれるように眠りに落ちた。
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『やぁ』
「うわああああああああああ!」
気が付いたら目の前にアマリエルがいた。それも俺の顔を下からのぞき込むような形で、やけに至近距離である。俺は恐慌した。
『そんなに喜んでくれるとはね。少しややこしいことをした甲斐があったというものだよ』
「よよよ、喜んでねーし!」
普通に恐怖の悲鳴だよ! 俺は飛びずさってファイティングポーズをとろうとして――ぐるり、と天地がひっくり返った。うわぁ、なんだ攻撃か!?
『おっと、慣れないうちはあまり激しい動きをしないほうが良い。じき踏ん張り方もわかるようになる』
「はァ!?」
『水の中にいるようなイメージだ、ティエス卿。ひっくり返ったままでは話しづらいだろう?』
アマリエルはけらけらと笑いながらこちらを観察している。とりあえず害意はなさそうだ。こんな無防備な状態で仕掛けてこないんだから。
何が何だかわからないが、俺は言われたとおりに手足をばたつかせてみる。なるほど、確かに水の中にいるみてーな感覚がある。となれば、水中ででんぐり返しをするときの要領で――っと。
『おお、流石だねティエス卿。鮮やかなものだ』
「うるせー、魔女め。いったい何がどうなってやがんだ?」
落ち着いて悪態をつける段になってようやく、周りを観察する余裕が生まれた。とはいえ、景色と言えるようなものは何にもない。ただ真っ黒な空間がずっと続いているだけだ。とはいえ正面のアマリエルの姿ははっきりと見えるので、無明の闇、というわけではないらしい。
『ここはまぁ、いうなれば君の夢の中さ。すまないね、楽しい夢を見ている途中だったというのに、割り込んでしまって』
「さらっと怖いことを言いやがる」
そういえば、確かにさっきまで俺はキレイどころのチャンネーを侍らせて延々と花いちもんめをやる夢を見てたはずだ。……楽しい夢かあれ? 認識しちゃうとホラーになるタイプのやつじゃね??
俺は深く考えないことにした。
「それで、魔女さんよ。俺の夢くんだりまで何しに来やがった? 住居不法侵入だぞ」
『夢の中が住居に当たるのかは司法の判断に任せるとして、なに、少しばかり助言と警告にね』
「助言と警告ゥ? 神様みたいなことを言いやがる」
『まあ実際、この力は私の中に残っている神の残滓による権能だけれども。その辺の事情、聴きたいかな?』
「全然聞きたくない」
絶対厄介ごとに巻き込まれる奴じゃん。お前は知りすぎたパターン入っちゃうって。ダメダメ、断固拒否。俺は胸の前で大きくバッテンを作り拒絶の意をあらわにした。アーアー聞こえなーい!!
『そうか、それは残念』
アマリエルはペロッと舌を出しててへっと側頭部を小突いた。生のテヘペロだ! このタイミングでやるジェスチャーか!? とはいえ元が美人なのでそう言うあざといジェスチャーも絵になるな。俺は怖くなった。
『さて、時間もあまりないからサクッと行こう。まず助言だが、ウィドーは親善試合の決勝で勝負がついた瞬間に事を起こすつもりだよ』
「まってまって情報がデカい。どこソースよそれ」
急に何!? ウィドーってのは賢狼人の王だよな、姫の親父で、野生の後継者の首魁の。
それがマジなら対策も立てやすくなる。テロ屋が厄介なのはその神出鬼没さであって、予め出てくるのがわかってるなら抑止もたやすい。それがマジ情報ならだけども。
『ウィドー本人の口から』
「は???」
『ティエス卿も
「清廉な男がクーデターなんて起こすかね?」
『クーデターなんて、清廉さがなければ出来ないことだと思うよ。私はね』
まぁ一理あるか。一理あるか? 個人の感想ですと言われちゃそこまでなんだが……。
『次に警告だが、高度50キロメートルより上にはいかないように。世界からはみ出してしまうからね』
「あー、例の宇宙無いってヤツ」
『いかにも。世界の境界に触れた瞬間、物体はエーテルに還元されてしまうからね。気を付けるように』
「さっきから怖いことしか言ってねぇなコイツ……」
とりあえず、そこまで高度を上げる必要は今回はないので無用の心配だと思うが……わざわざこんなこと言ってきたってことは、何かあるんだろうなぁ……
「なあ、あんたもしかして、未来とか見えてる?」
『いや、それは私の領分ではない。近いことはできるけれどね。そういうのは、
「ウチの王様がそうだってのかい?」
『フフ、さてね?』
アマリエルは小さく笑むと、ふと何かに気づいたように顔を上げた。つられて俺もその視線を追うが、特に何があるわけでもない。フェレンゲルシュターデン現象やめろや。
『おっと、そろそろ時間切れだ。これ以上この力を使っていると、カガセに
「ルビでごまかすなよとんでもねぇ漢字じゃなかったか今!?」
『ハハハ。ま、そういうことだ。武運を祈るよティエス卿。それではね、ハバナイスドリーム!』
「ちょ、ま」
アマリエルが哄笑とともに消える。それを追うようにして何かひどく光るものが黒い空間を焼き尽くして――。
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窓から強く差す西日の刺激で、俺は目を醒ました。