「こいつは……なかなかに壮観だな」
「まったく、昨日の今日で飛ぶとかよ。隊長さんはいつでも無理を言いやがる。一応できる範囲で調整はしたが、テストはほとんど出来てないぞ」
「ま、最悪実地で合わせるさ。あと今回は俺じゃなくて技研の連中じゃねぇかな無理言ってんのは」
「なによ、文句あるわけ?」
ないです。お色直しされた愛機(予備機)を見上げるティエスちゃんだ。横に立つおやっさんが自慢げに鼻の下をこすり、逆サイドのシャランはいつもの皮肉気な顔面に獰猛な笑みを浮かべている。両者とも目の下の隈がひどいことになってるな。俺が半日爆睡してた時も不眠不休の作業をやってくれていたってこった。整備班の連中は今何轍してんだろうね。これ終わったらしっかり身体休めてくれよ。お前らがいなくなるのはマジで国の損失だからな。
ん? 宇宙無い話はどうなったかって? なんかすげーあっさり流されたよ。あーはいはいその話ね、気を付けてね、くらいのノリで流された。ほんと拍子抜けするレベル。あっさり過ぎて後が怖いぜ。他言したら首が飛ぶんだろうなぁ(物理)。
まあいい。人に言わなきゃいいだけの話だ。とりあえず針の筵に座り続けなくてよくなったことを喜ぼう。ハラグロイゼ卿的には野生の後継者が動くタイミングのほうがはるかに重要だったみたいで食いつき凄かったしな。
というわけで、俺は急遽明日搭乗することになった愛機を見物に来たってワケ。
スカイブルーとライトグレーのスプリッター迷彩が施された巨大なブースター4基を新造のバックパックユニットを介して背中に据え付けられたアーゼェンレギナは、これまた突貫でくみ上げられた特製のハンガーに固定されている。いつになくメカメカしい装いで実に格好いいな。突貫工事だったから接続部がまだまだ洗練されていなくて、色々なコードや配管が飛び出しているのが逆にイイ。本体のほうにも手が入っていて、空気抵抗を軽減させるために取り付けられた装甲カウルのせいでいつもより着ぶくれしているが、これもまたフルアーマーって感じでいい味を出している。敵中での孤軍奮闘を想定されているだけに、背中の兵装担架が増設されて積めるだけの武器を積んでいるのも実にロマンだ。まさに強襲突撃機、というフォルムがそそられるぜ。
「ちょっと急に早口になるのやめてよ気持ち悪いわね」
「おっと口に出してたか」
「あと、装甲カウルの耐久性はあまり期待するなよ。一発もらったら砕けると思っといてくれ」
おやっさんから釘を刺される。まあ突貫だからね。仕方ないね。とはいっても、俺に匹敵するレベルの土魔法が使えるおやっさんが生成したアーマーだ。期待するなと言われても期待しちまう。それに、こいつはこの世界初の空戦戦力だぜ? 対空砲火とかそもそも存在しないんだから楽勝でしょ。……なんかいまフラグが立った音がしたな。
「おーけー。気を付ける」
「……わかってるとは思うけど、回避のために大きく推力偏向するくらいなら装甲カウルと引き換えに突破しなさいよ。バランスを崩して墜落するよりはましだわ」
「了解。ったく、難しい注文ばっかり付けやがるぜ」
「でもできるでしょう、あんたなら」
「できらァ」
俺はニッと笑った。まあ要するに、いつも通り臨機応変に柔軟に対処すりゃいいってこったろ。任せとけよ。俺のアドリブ力をいかんなく発揮してやる。
「うし、そんじゃあコクピットの調整するぞ。隊長さん、来てくれ」
「おう。わかった」
おやっさんがえっちらおっちら
整備区画の照明に照らし出されたコクピットは、ロケットブースターの管制装置を積んだおかげで従来の2倍ほどの奥行きがある。従来の強化鎧骨格に搭載すると背中からコクピットブロックの一部が露出する感じやね。それを保護するためのバックパックユニットでもあるわけだが。
「ん?」
俺は明るみになったコクピットに、違和感を覚える。なんだろう、いつもと違う。もちろん、先に言ったとおり管制装置を積んでるから内装は異なっているのだけど、こう、もっと根本的な……。
「複座……?」
そうだよ、シートが二つあるんだ。いや、正確にはシートの背もたれが途中からかぎ状に折れてる感じなんだが、身長5メートルしかない強化鎧骨格で複座をやろうとすればこういうデザインになるだろうな、という感じのシート。下側の席に座ってるやつは上側の席に座ってるやつの股座から顔を出す感じだ。言われて機体の外観を観察してみると、装甲カウルのせいでわかりにくいが多少胴長になっているのがわかる。わからないのは、なんでこんなもんを搭載しているのかという動機だ。
「おい、おやっさん! こいつはいったいどういう……!」
振り返って、タラップを上がってきたおやっさんに問いかける声が、途中で途切れる。おやっさんと一緒に上ってきた人物を見て、一瞬で察しがついてしまったからだ。
「……よろしくお願いいたします。ティエス卿」
慣れない操縦服に身を包んだリリィ姫が、深々と頭を下げた。