「だーめーでーすー! ぜっっったいにダメですー!!」
「ティエス卿、伏してお願いします。どうか、わたくしも共にお連れください」
「うわーっ!! なにしてんスかーっ!?」
キャットウォークに両膝をついたリリィ姫を前に慌てふためくティエスちゃんだ。ちょっと顔を上げてもらえませんかねぇ!?
「どうしても、わたくしは、わたくしの手で父を糺さなければならないのです。ですから、どうか――!」
「とにかく顔を上げてください! そんなことされても無理なもんは無理ですよ!」
俺は悲鳴じみた声で言う。それでも姫は地に額をこすりつけるのをやめない。なに!? 森域ではDOGEZAが流行ってんの!? 一国を背負って立つような人間を傅かせるとか、俺には重いんだって!!
あっ、ライカ君! ライカ君からもなんとか言ってあげてよ! 俺は姫の後ろに控えていたライカ君に救援の目配せをした。姫第一主義なところのあるライカ君だ、きっと姫を諫めてくれるだろう。諌言してこその忠臣だ。
ライカ君と俺の視線が交錯する。彼はしっかりと頷くと、自らも地に膝をついた。
「ティエス・イセカイジン卿。俺からも、伏して頼む。姫の本懐を、遂げさせてやって欲しい」
お前もかーーーっ!?
どういう心変わりだよそこは止めるべきだろうが! こちとら下手すりゃ敵の本陣にたどり着く前に空中分解するかもしれねーんだぞ!? ヅダだよヅダ! いや欠陥機って言いたいわけではなくてね。
というか、これ、クーデターをくじいたら賢狼のツートップになるやつらに頭を下げられてるんだよな。勘弁してくれ!
味方は、味方はいないのか!?
「イセカイジン卿!」
あっ、下からハラグロイゼ卿が呼んでいるぞ。俺はキャットウォークの手すりから乗り出すようにして下を覗き込んだ。ハラグロイゼ卿が鷹揚に手をひらひらと振っている。
「どうも高いところからすいません! なんか言ってやってくださいよハラグロイゼ卿!」
「姫の言うとおりにしてあげたまえ!」
そういってハラグロイゼ卿はハンサムスマイルを浮かべた。あなたもかー!!
「み、味方は……味方はいないのか……?」
「今回ばかりは同情するぜ、隊長さん」
おやっさんが優しくポンと肩に手を置いた。おやっさぁん! やっぱ現場の苦労は現場の人間でしか共有できないっスよねぇーっ!
「ま、あんたの腕なら何とかなるだろ。姫さんのエスコート、頼んだぜ?」
そういっておやっさんはいい顔でサムズアップをキメた。アンタもかよ! 何回俺はぬか喜びから叩き落されなきゃならんのだ! 意趣返しのつもりか!? そうなんだろうなぁいつもごめんね!
「なんだなんだ、騒がしい」
「ったく、調整してるこっちの身にもなりなさいよね。気が散るでしょうが」
「エリカ! シャラン!」
騒ぎを聞きつけて、整備区画中の手の空いてる人間が寄ってきた。彼らはこちらの状況を一瞥すると、すぐに事態を察したようで一様にきれいな敬礼をした。加勢するつもりは一切ないらしい。覚えとけよ……!!
「ティエス卿、どうか……!」
「お願いします……!」
いまだ姫とライカ君は俺に傅き、お願いしますマシーンになっている。これ以上こんな格好させてたら国際問題だろうが……!
周囲からの視線が刺さる。俺のヤワなハートにぐさぐさ刺さる。ちょっと男子~、姫ちゃん泣いちゃったじゃ~んとなじる声が聞こえる(幻聴)。俺なんか悪いことしたぁ? わりとしてるな……。
進退窮まった俺は……折れた。
「わかりました。顔を上げてください、姫」
俺はクソでか溜息を長く長く吐いた後、姫の前に傅いて手を差し伸べた。顔を上げた姫と視線が交わる。強い目だ。本当に、出会ってからこれまで覚悟だけは決まり切っていらしゃる。俺は軍服のポッケからハンケチを取り出して渡した。そして、おでこを指すジェスチャー。キャットウォークのグレーチングの跡がくっきりだ。姫は少し照れたように俺からハンケチを受け取って、額をぬぐった。
「ティエス卿……」
「このティエス・イセカイジンが、姫を快適とはいいがたい空の旅へご案内しますとも。……とりあえず、道中及び到着後の
「ええ。すでにハラグロイゼ様にお渡ししています」
「あっなるほどね。でしたら、もう小官が言えることはなんもありませんなぁ」
本当に、準備のいいことで。俺は半笑いになった。……視線をライカ君に向ける。
「ってことで、本当に良いんだな?」
「ああ。……姫を頼む」
ったく、ちょっとの間に男の顔になりやがって。オティカと夜な夜な訓練してた成果がちょっとはあったみてーだな。
「保証はできねーぞ」
「……ああ」
ライカ君がしっかりと頷くのを確認して、俺は再びクソでか溜息をついた。ったく、なおさら死ねなくなっちまったぜ。もともと死ぬつもりはねーけどな。俺は腹いせに、ライカ君のおでこにデコピンをかました。
「っ!?」
「ったく、留守は任せたぞ。……よし、時間がねぇ。おやっさん、調整頼む!」
「おう、任せな」
俺はすっくと立ちあがると、面食らっているライカ君を尻目にコクピットに滑りこんだ。おやっさんも心得たもんで、すぐに作業に取り掛かる。
「ティエス卿、世話を掛けます」
「はいよ」
姫も少し遅れて、コクピットに潜り込んできた。手伝ってやって、上側の席に座らせる。どんくさいわけじゃないが、流石に慣れてないな。心配だぁ。
あれ、そういえばライカ君に並ぶ姫キチガイが姿を見せてないな。俺は首を巡らせて、後席の姫に尋ねた。
「そういえば、オティカは納得してるんです? まさか黙って置いてきたんじゃないでしょうね」
「フフ、もちろんオティカも納得をしてくれています。そうでしょう、オティカ?」
姫がなぜかコクピットの天井に語り掛けると、光画盤の一部が点灯してスピーカーから声が聞こえた。
『……納得したわけじゃない。だから、オレも共に行く』
点灯する光画盤には、「統合制御インテリジェンス/OTIKA」の文字列。と、取り込まれてるーーーーー!?!?