「特別編成選抜中隊、敬礼ッ!」
「おう、おはようさん。全員よく眠れたか?」
即席会議室で居並ぶ部下からの敬礼に鷹揚に返すティエスちゃんだ。早朝、暁光は森の木々に遮られていまだ薄明。だというのにみんなしゃっきりした顔をしていて大変結構である。ハンスがあくびをかみ殺している以外は、という注釈こそつくが、来るXデーに否が応にも緊張が高まっている。ハンスは終わったら腕立て100回な。
「細かいブリーフィングについては後で副官のほうからさせる。俺もこのあと機体の最終チェックにいかなきゃならんからな。なので今回のこれは、まあ決起集会みたいなものだと思ってほしい」
「どっちが秘密結社かわかりませんな」
横合いから副官がまぜっかえして、即席会議室をにわかに笑いの風が吹き抜ける。程よく緊張もほぐれているようでなお結構。しすぎず、しなさすぎずのバランスは結構重要だ。こういう大ごとの前だと特にな。それはそれとして副官もあとで腕立て100回な。
俺は話をつづけた。
「本来ならハラグロイゼ卿から激励の言葉を賜るはずだったが、卿はご多忙につき臨席叶わなかった。なので! 僭越ながらこのティエス・イセカイジンが、貴官らに激励の言葉を贈る!」
おお、と会議室がどよめく。リアクション豊富で大いに結構。盛り上がってほしいときに盛り上がってくれるオーディエンスってマジで貴重だな。ここでみんなシラーっとした顔してたら俺は思いっきり作戦に引きずってたからな。杞憂ですんでよかったぜ。俺はニッと口角を吊り上げた。
「まずは副官お前だァ!」
俺がエアマイクを片手にビシッと副官を指さすと、副官は「えっそういう感じ?」とでも言いたげな顔で自身を指さした。そういう感じだよ!
「ピーター・フック小隊長。貴官には中隊全体の指揮を預ける!」
「は、了解であります! 可及的速やかにご返却致したい所存!」
「返すなら完品で返せよ。一人でも欠員が出たら受け取らんからな」
「これ本当に激励でありますか……? 脅迫では?」
「お前に発破をかけるならこれが一番だろ。励めよ」
「かないませんな。了解であります!」
副官がビシッと敬礼して応える。マジで今回は本当に頼りにしてっからな。いつも頼りにしてるけども。部隊のみんなを頼むぞマジで。お前くらいにしか託せないんだからな。俺は敬礼を返した。
「次! トマス・ロコモ小隊長!」
「ハッ!!」
「貴官には要人警護の陣頭指揮を任せる。警護部隊と連携を密にし、
「了解であります。この老骨、身命に賭けて……は、ならんのでしたな」
トーマスはナイスミドルな顔面を二ッと悪戯っぽくゆがめて、まっすぐな目でこちらを見た。俺もニッと口角を吊り上げた。
「もちろんだ。老骨に鞭打ってでも生き残れ。死ぬならタタミの上にしろ」
「フッ。あいにく、森域に骨をうずめるつもりは毛頭ありませんのでな」
「結構だ。帰ってきたらマッサージをしてやろう。励めよ」
「了解いたしましたッ!」
トーマスもまた敬礼して応える。たのむぞ~~~~。ここで万一にも
「次! ニア・テッテンドット小隊長! ハンス分隊長!」
「えっ、ちょっとなんで私たちはひとまとめなのよ!?」
「というかしれっと俺昇進してません? なんかやっちゃいました?」
とたん、ニアからの抗議とハンスからの困惑の声が届いた。俺はニアを無視して、ハンスの疑問には答えてやった。
「戦時任官というやつだ。ハラグロイゼ卿からの許可も取り付けてある」
「そりゃまた、ありがたいことですけど」
「ちょっと、ナチュラルに無視すんじゃないわよ!」
ニアがキャンキャン吼えているなあ(なごみ。それはそうと、ハンスはまだ納得のいっていない顔だ。
「指揮系統のあれやこれやでな。森域統合軍と共同作戦するにあたって、舐められないための措置だと思っとけ。階級に見合った戦働きを期待する」
「……っス。了解しました!」
ハンスがビシッと敬礼する。おっ、さっそく分隊長の自覚が出てきたかぁ~~良いぞォ。ただし!
「ただァし!!」
俺が声を張り上げると、敬礼していたハンスと喚いていたニアが、同時にびくりと硬直する。声に籠った威圧効果をチョイッと高めたからな。風魔法のちょっとした応用だ。俺は続けた。
「ニア、ハンス。お前らにとっちゃ、はじめての戦争だ。魔物退治とはワケが違う。人間相手に切った張ったやるってのは、思った以上にストレスだ。たとえ強化鎧骨格に乗ってようとな」
「う……」
「……ッス」
ニアとハンスが、思い出したかのように小さく体を震わせた。怖いか、怖いだろう。たとえ鎧を身に纏おうと、心の弱さは守れないのだ。……だが、それでいい。ハイになって後先考えず突っ込んでいっちまうよりも、ちょいビビってるくらいがちょうどいいんだ。
「ま、少し脅かしすぎたな。要するにだ。調子には乗るな、されど過剰にビビることもするな。心のバランスを保て。フォースはいつも共に在る」
「……フォースってなによ?」
「俺にもよくわからん。結局なんだったんだろうなあれ」
「ハァ?」
食わず嫌いして結局見ずじまいだったEP7~9でもしかしたら説明あったかもだけど、今更見る機会もないしなぁ。小説も未読だったし……後悔先に立たずやね。あ、ちなみに俺はEP1が一番好きです。クワイ=ガン・ジン推し。
「とにかくだ。逸るな、逃げるな、副官の指揮に従って動け。そうすりゃ、今回の戦争は生き延びれる。いいな?」
「「了解ッ!」」
うん、いい目になった。結構結構。とりあえず単騎で敵のネームド武将とか、数百の軍勢とかにぶち当たるようなことがなけりゃあ十分生き残れるだろう。それくらいの腕とセンスはある。俺みたいな一騎当千ではなくても、一騎当十くらいはあるユニットだ。……死ぬなよ、マジで。俺は敬礼で返した。
「次! ハナッパシラ・イキリマクッテンネン臨時小隊長!」
「ハッ! ………………臨時小隊長???」
ハナッパシラ君は威勢よく答えてから、捻れるだけ首を捻った。気持ちはわかる。臨時小隊長ってなんやねんって思うよな。俺もそう思う。
「貴官には、ティエス・イセカイジン中隊長の代理として親善試合に出場してもらう。無論素性は隠すが、念のための特殊戦時任官だ」
「は、拝領します! ……それで、臨時小隊長というのは、具体的にどういう……?」
「制度上は小隊長と同等の権限を持つが、まああくまで肩書だけ、期間限定の昇格だと考えろ。無論、この戦働き次第によっては「臨時」が外れる可能性は大いにあるが……とはいえ、功名心に焦って無茶はしないように。お前の動きが部隊全体の動きに影響するということは、忘れるな」
「よく言うわよいっつも一人で突っ走るくせに」
「なんか言ったか!?」
「何も言ってません!」
途中でニアの茶々が入ったが、そのわずかな間にハナッパシラ君は覚悟を決めたようだ。良い目をしやがる。さすがはイキリマクッテンネン家の男児ってか。……マジで家名が悪いな。ここ真面目なシーンなんですけど!
「ったく、まあいい。とにかく、お前も戦争は初めてのチェリーボーイなんだ。功を焦って死ぬなよ。ズニノール閣下にあわせる顔がなくなる」
「しかと、心得ました! 国の名に、父の名に恥じぬ戦いをします!」
うんうん、いい気焔だ。焼き芋焼けそうなくらいメラメラしている。若いっていいわねぇ。俺は思い出したように続けた。
「そうそう、親善試合だけどな。優勝以外の結果は聞きたくねぇから。頑張れよ」
「り、了解……!」
とたんに梅干を十個ばかり口にぶち込まれたような顔になったハナッパシラ君が、それでもびしりと敬礼する。なあに、俺は心配してねぇよ。お前さんなら今の肩書から臨時を外すくらいの活躍はしてくれるだろうさ。ニアとハンスのフォローを頼んだぞ。俺は敬礼で返した。
「次! エーリカ・テッペ小隊長!」
「応!」
うーん頼もしい返事。さすがお姉さまだぜ。俺は後方彼氏面で大きく頷いた。
「貴官には、ピーター小隊長の直下についてもらう。ただし、貴官の部隊については貴官が指揮をとれ」
「ム、それでは指揮系統に乱れが生じないか?」
「ご指摘ごもっとも。だが心配は無用だ。事前にピーター小隊長には、補充部隊は補充部隊として一個のユニットで運用するように言い含めてある」
「まあ、昨日の今日では連携もままなりませんからな。お互い、慣れた塊で動いたほうが良いでしょう」
「なるほど、了解した」
副官のナイスアシストな口添えもあり、エリカは委細承知したようにどっしりと頷いた。
「中継役のお前には負担をかけるが、頼んだぞ」
「フ、任せろ」
キャーお姉さまカッコイイ! 抱いて!! そのちょっとラフな感じの気心知れた奴だけに向ける敬礼は長身イケメン系美女がやるとズルいって。反則! 反則です! 俺は敬礼で返した。
「次! ハッカク分隊長、レクタン軍曹、トライア軍曹、サクラ伍長、ドデカゴン戦士長!」
『ハッ!!』
名を呼ばれた5人が完璧に唱和した敬礼を見せる。うお、ウチのとは真面目さがちげーな。どっかの誰かさんみたくひとまとめにされて怒る様子もない。俺は続けた。
「すまんが、俺は諸君らのことを何も知らん! だが、あのエーリカ・テッペが引き連れてきた勇士というだけで、十分信頼できると考えている! その信頼に見合う戦働きを期待する!」
『サー・イエスサー!』
うーん気持ちがいい。これだよこれ。ウチはなんというかこう、ここぞというとき以外の統率が微妙なんだよな。軍隊というよりは仲良し部活動みたいな? 気心が知れすぎてるんだよな。
まあそこ行くと補充部隊の皆さんは完全な外様なので打ち解けてないだけってだけかもしれんが、まあこれくらいの硬さは残ってたほうが良いだろう。スパゲッティも芯が残るくらいに茹でたほうがソースと絡めた時にちょうどいい硬さになるしな。ん~アルデンテ! 俺は敬礼で返した。
「以上をもって、諸君への激励の言葉とする!」
「敬礼ッ!」
副官の号令にあわせて、会議室の全員が一糸乱れぬ動作で敬礼する。壮観だ。一枚の絵にして飾っときたいくらいだぜ。
決起集会はこれにて終了、解散! ……と思ったが、いけね。一つ大事な話があるんだった。
俺は全員が休めの姿勢をとるのを待って、口を開いた。
「そして最後に一つ。今回の作戦を遂行するにあたり、我が中隊に特別な部隊名とコールサインが与えられた。いつまでも特別編成選抜中隊じゃ格好がつかねーからな」
おおーっ、と会場がどよめく。良い反応だ。期待のこもった目がこちらに向けられている。やっぱ特別なコールサインって憧れるもんな。わかるわかる。
俺はうんうんとうなずいてから、口を開いた。
「新部隊の名前は――」
少し溜める。ごくり、と皆がかたずをのむ音が聞こえる。ドラムロールを用意できなかったのが惜しいぜ。会場の一体感は最高潮だ。俺はニィッと笑って、その名を告げた。
「スプリガンズ。それが俺たちの新たな名前だ」