ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-27 ティエスちゃんは名付ける

「演説ごくろーさま。ずいぶんな盛り上がりだったじゃない」

 

「ま、俺のマイクパフォーマンスにかかればね。軽い軽い。ドームだって沸かして見せるぜ」

 

「ドームを沸かす……?」

 

 会議室から出た足で機体の調整にやってきたティエスちゃんだ。現在会議室では副官が詳細なブリーフィングをやってくれている。もう全部あいつだけでいいんじゃないかな。シャランが不審な目を向けてくる。そういや現世(こっち)にはドームリサイタルとかの文化なかったな。いけないいけない。

 俺は気を取り直して、こんこんと機体の外装版を小突いた。

 

「それより、どうだこいつの調子は」

 

「できうる限りでは万全。ほぼ完ぺきな仕上がりよ。誰が調整したと思って……うわあっ!?」

 

 シャランはふふんと胸を張って、そのままそっくり返ってふらりとキャットウォークから落ちそうになる。強化鎧骨格は世のロボットとしては低身長だが、落下すれば十分怪我をする高さだ。最悪死ぬ。

 お前疲れすぎだ馬鹿!!! 俺はあわてて踏み込み、シャランの小柄な体を抱きとめた。軍人やっててよかった。鍛えてなかったらあの反応速度は出せなかったな。

 

「………………あ、ありがと」

 

「お前マジで気をつけろよバカ、あわや現場猫案件じゃねーか!」

 

「ちょっと、至近距離で怒鳴らないでよ!」

 

 ほぼほぼ密着していた体をグイと押しのけて、シャランは憎まれ口をたたきながら白衣の乱れを直した。お前な―ホント、ホントマジで気をつけろよな。作戦開始前に労災出て士気がた落ちとかホント笑えねぇから。あとシスコくんが泣くから。お前の旦那にどんな顔して報告すりゃいいんだよ。

 

「わかった、わかったわよ。そうね、これに関しては完全に私が悪いからそうまくしたてないで」

 

 おっと、また思わず声に出ていたようだ。とはいえ本人も反省しているようだし許してやるか。あとでヒヤリハットの報告書書いとけよ。

 

「とりあえず、最終調整が終わったらお前は一回ぐっすり寝ろ。世界樹に部屋を用意してもらってるから」

 

「そうさせてもらうわ……流石に今回ばかりは根を詰めすぎたみたい」

 

 シャランは額をおさえ、ふぅと重量感のある溜息をはいた。

 技研の皆さんや整備班の連中には中隊長権限でローテ休憩の徹底を厳命したが、一部の潰しがきかない職人については超過労働を目溢ししている現状だ。何しろ時間がなかったからな。シャランもその枠に入る。俺が飛んじまったらもうお役御免だから、あとはゆっくり安全な後方で寝ててくれ頼むわ。

 

「そういえば、聞いたわよ。新部隊名」

 

「ン、ああ。スプリガンズな。どうよ、我ながらイケてるだろ」

 

「ま、あんたのセンスとしては悪くないんじゃない?」

 

 なにお~~う? 食って掛かろうとしたが、自分の家名のことを思ってそっと矛を収める。いやちゃうんスよ。これは事故みたいなものでぇ……。

 

「スプリガンって言うと、アレでしょ。創世記の」

 

「そ。古フェンヴェールの王に長年仕えてきた老兵集団スプリガンからいただいた。ホントはほかにもこまごま意味はあるんだが、だいたいはそれ」

 

 スプリガンという概念はこの世界にもある。意味は違うんだが、これも転生者の持ち込んだ概念が紆余曲折あって固着した結果だと思うんだよな。「宝を護って嵐を呼ぶ醜い小妖精」が、こちらでは「風の王に仕えた老兵」に意味が変わっている。ほら、なんとなく符合するっしょ? まぁ俺は民俗学は専門外だから迂闊なことは言えんがね。

 ともあれ、そんな謂れもあるのでハラグロイゼ卿はすんなり採用してくださった。創世記はいわゆるこの世界の神話だ。部隊とか兵器の名前を神話からとるのってやっぱ万国共通で憧れるよね。シュペールラケルタアンビデクストラスハルバードみたいな。いやあれは神話関係ないか。

 

「そういや、こいつのベットネームって決まってたっけ」

 

「この子? 特に決まってないけど」

 

 俺たちが取り付いているこの機体は、もとは王国制式量産機のアーゼェンレギナだが現在は特殊な装備が山盛りになっている。区別のためには名前が必要だ。特に捻りもなく全部繋げると「複座型アーゼェンレギナ高速航空投射強襲仕様+試製概念実証型ロケットブースターX2ATS装備+OTIKA」とかになんのかな。これはこれでかっこいいけどちと長いし、これがこれと一発でわかるような明快でかっこいい名前というのが欲しくなるのが人情というものだ。

 その意を汲んでか、シャランはハァ、と小さく呆れたように溜息をはいた。

 

「……下品なのはだめよ」

 

「わーってるって。さすがにそこでふざけるほど俺は馬鹿じゃねーよ」

 

「家名で遊ぶような奴が何言っても信用無いわね」

 

 それを言われると痛いんスよ~~~。

 俺は胡乱げな目を向けてくるシャランにたじたじになりながらも、コホンと咳ばらいを一つついて仕切り直した。

 名前については、もう思いついてんだよね。

 

「アマツカゼ、ってのはどうだ」

 

「アマツカゼ?」

 

 シャランが怪訝な顔をする。暫らく何かを思い出すような沈黙があってから、ああ、と手を打った。思い至ったか。

 

「確か創世期の、最後のほうに出てきた」

 

「そう。赫き輝星を決戦の場に送り届けた空駆ける船。その名前から頂いた」

 

 創世記の最終盤、悪神・黒き輝星は世界を闇に包んだ。最終決戦の地である闇の中心まで主人公である赫き輝星を送り届けたのが、輝星とともに戦場をかけてきたユーサクの操る空飛ぶ船、アマツカゼだ。アマツカゼは最後座礁してしまうが、それでも赫き輝星を万全の状態で戦いの地に送り届け、勝利に貢献した。そういう逸話だ。

 

「あれ、最後壊れちゃうでしょ。縁起悪くない?」

 

「ロケットブースターはもとより使い捨てる想定なんだ。おあつらえ向きじゃない?」

 

「う~~ん……」

 

 シャランは顎をこねくり回した。ま、十分悩んでくれや。そもそもシャランの一存、俺の一存で決められる話でもないしな。ハラグロイゼ卿に意見具申するときに賛同者がいたほうが心強いな、くらいのもんだ。

 シャランはしばらく悩んだ後、大きく溜息をついた。そんなにため息ばっかついてるとせっかくの幸せが逃げるぞ。もったいない。

 

「いいわ。それで行きましょう。ほかに良い案も浮かばないしね」

 

「よっしゃあ! すぐハラグロイゼ卿に具申してくるわ!」

 

「あっ、ちょっと最終調整!!」

 

 そういうことになった。そういうわけなので今からお前の名前はアマツカゼだ。よろしく頼むぜ!

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