ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-28 ティエスちゃんは最終調整中

「ウオオ敵の攻撃!! ここでインド人を右に!」

 

『何を考えている!? 高速航行中に舵を弄るな!』

 

「仕方ねーだろ直撃するよりゃマシだ!!」

 

『……失速している! こちらに制御をよこせ!』

 

「ユーハブ!」

 

『アイハブ……軌道修正完了、巡航速度回復』

 

 

「ふぅ、とりあえず形にはなって来たか」

 

『……おい、何を勝手に休んでいる。コクピットに戻れ』

 

 一息つくためにコクピットから這い出し、大きく伸びをするティエスちゃんだ。ふぅ。すっかり昇りきった朝のひかりが整備区画に差し込んでいる。コクピット筐体内から響く咎めるような声は、この際聞き流すことにした。

 朝の決起集会が終わってからかれこれ2時間の間、俺は実に30回を超えるフライトシミュレーションを行いアマツカゼの慣熟訓練に精を出していた。新しく統合制御インテリジェンスに組み込まれたオティカの慣らしはどうしたってしておく必要があったからな。ぶっつけ本番はぶっつけ本番だが、シミュレーターだけでも出来る限りの準備はしておきたい。

 キャットウォークに据えられたコンソールでデータの調整をしている技研スタッフと目があい、軽く会釈を交わした。シャランは最終調整に入って早々持ち上がった厄介な問題をスピード解決し、そのまま眠るようにぶっ倒れた。シャランが格納庫で倒れました。倒れるまで仕事するんじゃねーよまったく。今は世界樹に宛がわれた個室にぶち込んで休息をとらせている。

 

「人間には休息も必要なんだよ」

 

『30分前に5分間の小休止を実施した。休息は十分のはずだ』

 

 まったくにべもない。俺が肩をすくめると、技研スタッフも苦笑を浮かべていた。

 彼はシャランの代わりに最終調整役に就いた技研スタッフのピロリンさん。シャランが連れてきただけあって名前のわりに超優秀なので、今のところ特に問題は発生していない。

 俺は依然として苦言を呈するオティカに向き直って応えた。

 

「固いこと言いっこなしだぜ。それにこの2時間の甲斐あって、今や俺たちは長年の相棒みたいに息ぴったりだ。本番も期待してるぞ」

 

『不愉快な評価だ。お前の無茶苦茶な操縦に付き合わされるオレの身にもなれ』

 

「俺の操縦についてこれてるんだから、オメーはすごいよホント」

 

 実際、互いの癖を掴み切れてなかった最初の30分は墜落ばっかりしていたが、今では完璧なフライトが実現できている。飛行中の煩雑窮まる操作は全部オティカが肩代わりしてくれるおかげで、俺にかかる負担がかなり減っていた。いまなら居眠りしていたって目的地まで飛べるだろう。いや、さすがに居眠りはしないがね。それくらい飛行中は暇になりそうだ。リリィ姫と雑談デッキを構築しておく必要があるかもな。

 しかし、今後まかり間違って国際ロケット便が就航した暁には、一機に一台オティカ・タイプの時代が来るだろう。ハカセは特許料でウハウハ、ハカセを抱え込んだ王国も税収増でウハウハだ。とらぬ狸の皮算用である。

 タバコが吸いたい。

 

『……コクピット内は全面禁煙だ』

 

「わかってるよ、ったく。愛煙家にはつらい時代になったもんだぜ」

 

 俺は首をこきこきと鳴らすと、コクピットに滑りこんだ。逃がさないとばかりにハッチが自動で閉まる。さては束縛したがるタイプだなオメー。重い男は嫌われるぜ?

 姫の()()()が終わるまで、予定では1時間。決勝戦は正午の開始だから、あと3時間はある。3時間しかないというべきかもな。実証試験ができない以上、シミュレーター訓練だけでも完璧に仕上げておかねーと。

 

「……試験もなんもしてない試作兵器で一発勝負、燃えるシチュエーションではあるよなぁ」

 

『理解に苦しむ。発奮するような状況ではないと思うが』

 

「残念ながら同意見だ。こういうのは他人の頑張りをスナック片手に見てるくらいがちょうどいいんだよな」

 

『??』

 

「当事者にはなりたくねぇってコト」

 

 手指をワキワキと動かして、関節のコリをほぐす。ぽきぽきという子気味良い音が響いた。操縦桿を握る。身体が拡張される慣れた感覚の端っこに、介在する他者の存在感を感じる。無機質でありながら有機的なざらりとした感触。オティカだ。

 マン・マシーンインターフェイスが俺の感覚とオティカの感覚を同期させるこの瞬間ばかりは、何度やっても慣れそうにない。拡張された身体にない部位……ロケットブースターやらサブアームやらを直感的に操作するために必要な手順だってのはわかるんだが、やっぱ流行らねぇかもしれないな、オティカ・タイプ。

 

『……無駄なことを考えるな。フィードバックが汚染される』

 

「他人の考えてることがわかるっての、あんまりいいもんじゃねぇよな。やっぱ人類の革新とかって幻想だわ」

 

『知らん。シミュレーションを開始するぞ』

 

 オティカの開始宣言にあわせ、カメラに映るピロリンさんがOKサインを出す。とたんに、静かだったコクピット内が発射直前の喧騒に包まれた。感覚欺瞞、何度味わってもすげー技術だぜ。前世のVRなんてメじゃない臨場感だ。俺は操縦桿を握る手に力を込めた。

 

『カウント省略。リフト・オフ』

 

「アマツカゼ、発・進!!」

 

 背後で轟音が轟く。びりびりという振動が体の芯を揺らし、強烈な重力加速度に体組織が軋みを上げる。浮遊感はあまりない。

 

『……それは、毎回言う必要があるのか?』

 

 オティカの呆れたような声がコクピット内の轟音に紛れる。

 良いだろ、様式美ってヤツだよ。

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