ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-32 ティエスちゃんは最後の休息②

3. 来客

 

「あっいたいた。おーい中隊長―!」

 

「んおっ、エルヴィン少年!?」

 

 アマツカゼの前でいるはずのない人物に声を掛けられ、戸惑うティエスちゃんだ。お前世界樹に避難しとったんじゃ……少年の隣でニンニンしているエルフ忍者を認めて、俺はすべてを察した。

 

「お前な……あんまりウィエルサードに迷惑かけんじゃないよ。あとから貸し借りの話になるんだから」

 

「ごめん。でも出撃するって聞いたから」

 

 エルヴィン少年はバツが悪そうに頬を掻いた。一応、自分がどれだけ無理を言っているかの自覚はありそうだ。仕方ない。今回ばかりは許そう。俺は盛大に嘆息して、操縦服のグローブ越しに少年の頭をポンポンと撫でた。

 

「ま、ちょっくら遠出にはなるがな。死にゃあしねーから安心しろ。レイフィールの姫さんだって載せてるわけだからな」

 

「別に中隊長が死ぬかもとかは心配してないって。むしろ姫様に失礼はたらくんじゃないかのほうが心配だ」

 

「言ってくれるじゃねーの」

 

 強がって見せる少年の黄緑色の髪をガシガシと撫でると、普段は抗弁するエルヴィンも暫しされるがままに任せた。そりゃ不安よな。ティエスちゃん動きます。

 

「拙者もナデナデシテー」

 

「アンタにも世話かけたなニンジャ。首ねじ切られたくなかったら黙ってろ」

 

「ひょえー! おっそろし!」

 

 エルフ忍者はおどけたようにふるまうが、その面頬に隠された鋭い眼光がチラチラとアマツカゼをうかがっている。産業スパイめ、見せもんじゃねーぞ。

 

「これでその、行くのか」

 

 エルヴィン少年は忍者と俺とのやり取りに苦笑してから、おもむろにアマツカゼを見上げた。複雑な感慨のこもった声色だった。

 

「格好いいだろ。複座型アーゼェンレギナ高速航空投射強襲仕様+試製概念実証型ロケットブースターX2ATS装備+OTIKA――長いから、俺は「アマツカゼ」って呼ぶことにした」

 

「ユーサクの船? あれ、最後は座礁しちゃうんじゃなかったっけ」

 

 エルヴィン少年はここでも地味な博識さを見せつけてくる。前世の日本人が全員古事記を熟読しているわけではなかったように、この世界の人間すべてが創世記を諳んじられるわけじゃない。いわんやアマツカゼの知名度などは、古事記で例えればアメノタヂカラオくらいなものだ。あの天岩戸をこじ開けときくらいしか出てこないフィジカル系サポートタイプの神様ね。

 

「まあそうだけど、主役を送り届けるって目的はきちんと果たしたろ。こいつも結局、向こうに着いたら使い捨てだからな。復路の燃料は積んじゃいないんだ」

 

「帰りはどーすんだよ」

 

「敵の転移装置を奪うつもりだが、上手くいかなかったらまぁ徒歩だわな」

 

 エルヴィンはうげぇ、という顔をした。実際行き当たりばったりもいい作戦である。とはいえ、野生の後継者を叩ききれば設備を接収できるから、復路が完全な徒歩になるってことはないだろう。気楽なもんだぜ。

 

「せっかくだし、本当はコクピットにあげてやりテーところなんだけどな。ちょっと出撃前でバタバタしててできそうにねー。すまんな」

 

「いや、いいよそんな気を使わなくても。大変な時に押し掛けたのは俺なんだし」

 

 エルヴィン少年はそう言ってから、ちらりとエルフ忍者をうかがいみた。こいつの目もあるし、という言外のアピールだろう。賢いね。エルフ忍者はそれに気づいていながらも、どこ吹く風だ。

 

「そうかい。じゃ、整備区画の入り口まで送るわ。ニンジャ、世界樹までの護衛、くれぐれも頼んだぞ」

 

「モチのロンでござるよ。何かあったら拙者の首が飛びますので」

 

 整備区画の入り口までの道すがら、ははは、と笑うエルフ忍者を少年はすごく胡散臭そうな顔で見た。まぁ実際大分胡散臭いからな。ニンジャルックで普通に現れるとか舐めてんのか。忍べや。

 ま、とはいってもウィエルサード直々に少年の警護を任されるだけの実力者だ。心配はいらんだろうがね。

 とうとう入り口に差し掛かった時、エルヴィン少年はとてももどかしそうな顔で俺を見上げた。

 

「中隊長、その、こういう時、どういうこと言えばいいのかわかんねーんだけど……」

 

 どうやら、餞の言葉を選び損ねているらしい。まあ、この辺は経験だもんな。俺はエルヴィンと目線を合わせるために屈むと、操縦服の内ポケットから部隊章を取り出した。

 

「エルヴィン従士、本作戦に際して、新たな部隊スプリガンズが結成された。こいつはその部隊章だ」

 

 ちなみに俺が土魔法でちゃちゃっと人数分作った。布ワッペンにしたかったんだけど時間がなくてね、なんかプラのような石のようなつるっとした質感の部隊章だ。デザインも正直詰め切れていない。

 俺はその階級章を、エルヴィン少年の胸にそっとつけてやった。

 

「もちろんお前もその一員だ。コールサインはガンズ13。イカしてるだろ」

 

 スプリガンズの13人目の構成員だから、ガンズ13だ。この世界にゃキリストはいねーからな。13に不吉な意味はない。えっ某ロボットゲーのコールサインと被ってる? 知らんなぁそんな未来のことは(2022年転生者感)。

 

「これ……」

 

 エルヴィン少年は胸の部隊章をまじまじと見つめ、指で数度弄って感触を確かめた後、強い意志の乗った目で俺を見た。良い顔じゃねーか。俺はにやりと笑んだ。

 

「ガンズ1からガンズ13に重要な任務を言い渡す。世界樹にて待機し、自身の身を守ることを最優先とせよ。決して死ぬな。復唱!」

 

「ガンズ13了解! 世界樹にて待機します! 自身の身を守ることを最優先! 決して死にません!!」

 

 エルヴィン少年は、見様見真似の敬礼をした。おうおう、最初の頃よりゃ随分様になってんじゃねーの。敬礼を返す。

 

「それとな、少年」

 

 俺は折っていた膝を戻して、んーッと伸びをする。少年が俺の目線を追うように顔を上げた。

 

「はなむけの言葉だが、こういう時は「幸運を(グッドラック)」でいい。それで俺らは無限にがんばれちまうからな」

 

 俺がビシッとサムズアップする。エルヴィン少年はすこしだけ迷ってから、同じようにサムズアップをした。

 

幸運を(グッドラック)、ティエス中隊長」

 

「おうよ」

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