ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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1-17 ティエスちゃんは面談中②

「提案……?」

 

「そう。お前さんがこの場にもうしばらく留まれて、お袋さんは大金を手にし、尚且つ誰の顔にも泥を塗らず、お前さんの足掛かりにまでなる。お前さんにとっちゃ非常に都合の良い提案だ」

 

 きっと悪い顔をしてるティエスちゃんだ。引き続き面談中。エルヴィン少年は訝しげな視線を寄越している。そんなうまいはなしがあるもんかって顔だ。あるんだなあそれが。

 

「少年。お前さん、俺の従士になる気はあるか?」

 

「従士?」

 

「そう。貴族軍人が侍らせる小姓で、小間使い。騎士見習いともいうけどな。まぁ雑用係だ」

 

 エルヴィン少年は少しだけ怪訝な表情で視線を下げたが、はっとしたように顔を上げた。察しがいい。

 

「お、気付いたな」

 

「マジでそれ、アリなのかよ?」

 

「それってどれだ。説明してみ」

 

「だから、ええと……つまりあんたは士官だから騎士で貴族で、従士を連れてても問題なくて、おれは育ちが悪いから武者修行って名目にすればメンツもたつ……ってコト?」

 

「マジかよ100点だよ」

 

 俺は手をたたいてフスヒューとクソ下手な口笛を吹いた。なんだこいつ天才か? ホントに十歳そこらのガキかよ。もしかしなくてもいい拾いもんだったんじゃねーの? マスターがさりげなくコーヒーのお代わりを持ってきた。いいタイミングだ。

 

「とはいえ俺も辺境の怪物退治とか、森域に出向いたりとかもあるからな。この町を離れることも多いし、何より危険だ。それについてくる気概と覚悟があるなら、もう少しだけモラトリアムを伸ばしてやることができる」

 

「モラト……なに?」

 

「お前が母ちゃんと暮らせる時間を伸ばしてやれるってコト。とはいえ、成人がリミットだろうけどな。少年、今何歳?」

 

「10歳だけど」

 

「つまりはあと5年ばかり、親離れするための時間をやるってことだな」

 

 俺は淹れ直されたコーヒーに砂糖を4本入れて、その香りを楽しむようにカップに口をつける。エルヴィン少年は難しい顔でテーブルを見つめていた。マスターが彼のカップにも新しいコーヒーを注いでいる。おい兄貴としてなんかいう事ないんか。非難めいた視線を送ってみると、彼は営業スマイルで緩やかに首を横に振った。こいつ〜〜。

 

「あんたには……」

 

「ん?」

 

 エルヴィン少年は顔をあげ、こちらを諮るような目で見ながら聞いた。

 

「あんたには、なんかメリットあるのかよ」

 

「俺の?」

 

 エルヴィン少年は頷く。なるほど、上手い話しすぎてまだ疑ってるか。上等だ。

 

「あるぜ。なけりゃこんな話、もちかけやしねーよ」

 

「どんな」

 

「まず、手当がつく」

 

 俺はドヤ顔で人差し指を立てた。

 

「従士ひとりあたり、月10万マギカ。これには従士の給料も含まれてるんだが、まあお前さんにやるこづかいなんてさほどいらんだろ」

 

「おい!」

 

「へっ、こっちにゃ労基も税務署もないんだ。文句は立派になった後から言いな」

 

 エルヴィン少年がくってかかってきたが、軽くいなす。まあ生活費とかはこっち持ちだから、そんなに懐が潤うわけじゃないけどな。むしろ最初のうちは赤が出るかもしれん。俺にも見栄というものがあるので、そういうことは黙っておくがね。この国、軍人は免税だし。

 俺は2本目の指を立てた。

 

「次に、宿舎の部屋がちょっと良くなる。家賃は据え置きでな」

 

「部屋が? なんで」

 

「なんでってお前、今までの一人部屋じゃお前の寝る場所がねーからだろ」

 

「えっ、あんたと住むの? 一緒の部屋で?」

 

「ったりめーだろ、なんのための従士だよ。なんだ? おかーちゃんのところから通いでお勤めする気だったか? 残念だったな、実家に帰れんのは週末だけだ」

 

「いや、そりゃそうかもだけど……」

 

 エルヴィン少年はまごまごとした。週末しか実家に帰れないのが不満というわけではないだろう。そもそもその条件自体が破格なのは、頭のいい少年のことだしきっとわかっている。となると、あれか。第二次性徴的な。

 

「なんだよ。こんな美人のおねーさんと同居できんだぞ? もっと嬉しがれよ。照れてんのか?」

 

「いや、俺みたいな子供をエロ本で釣ろうとする女と暮らすのはちょっとなって」

 

「んだよー、良いじゃねーか。一大ジャンルぞ?」

 

「意味わかんねぇ」

 

 まぁ前の世界の話だしな。わかったらそれはそれでこっちもいらん疑いをかけなきゃいけなくなる。俺はわざとらしく嘆息して、それから3本目の指を立てた。

 

「んで、3つ目な。なんならこれが一番でかいメリットなんだが」

 

「なんだよ」

 

 俺はコーヒーを舐めて少しだけ間を作った。

 

「王国軍情報部……こいつらに貸しを作れる。ロクでもねぇ連中だが、味方になるなら心強い」

 

「それが一番でかいメリットなのかよ?」

 

「そりゃでっけーよ。こいつら、この国でいちばんのスパイだぜ? その気になったらどんな情報でも引っ張ってくるし、外交工作から破壊工作までなんでもござれだ。お前さんも、こいつらだけは敵に回すんじゃねーぞ」

 

「ちょっと待てちょっと待て、え? なんでそんなやべー奴らが動いてんだよ。俺の親父って……」

 

「俺もそこまでは聞いてねーけどな。まあ、それなりにやんごとなき御方だろう」

 

「マジかよ……」

 

 エルヴィン小年はなかなかに頭のいいガキだ。事態の重さをわかってしまって、今更ながらソワソワしている。まあ、エルフまじりの娼婦を賈うような貴族なんて普通に考えれば木っ端の貧乏貴族だろうしな。そんな重鎮がかかわるような話とは思うまい。

 

「ま、そんなとこでな。どうする少年?」

 

 俺は未だ衝撃抜けきらぬエルヴィン少年に対して、最後の問いかけをする。ここで踏ん切れないようなら、まあ、そこまでの話ってことになる。さぁ、どうかね?

 エルヴィン少年は短い間に百面相を見せ、そして最後に絞り出すように言った。

 

「あんた……いや、ティエス中隊長殿の下で、勉強させてください」

 

 少年は殊勝にもあらたまって頭を下げた。俺は鷹揚に頷いた。

 

「よろしい」

 

 そういうことになった。

 

 

 

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