ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

196 / 215
5-56 老兵vs老兵②

 拳銃と刀で喧嘩をして、どっちが勝つと思う?

 

 そう聞かれて、たいていの人間は拳銃と答えるのではないだろうか。

 何せ有効な殺傷距離が段違いで、攻撃の動作もごく小さくて済むし、そのぶん手数を増やせる。放った銃弾が命中すれば、十中八九は相手を殺傷できる手堅さも評価ポイントだ。また、扱いが規格化されていて、習熟に掛かる時間も手間も才能も、刀よりずっと少なくて済む。そう言うイメージ。

 ただ実際のところ、拳銃の命中率というのは案外低い。動き回る標的を狙った時、2メートルの距離でもおおよそ25%、10メートル離れれば15%前後、25メートルも離れれば10%を切るというデータもある。もちろん訓練や射手のセンス如何によってはこの数字も上下するとはいえ、たまに現れる外れ値のような人間を除けば限度はある。命中率を手数で補おうにも、拳銃に込められる弾丸は多くても10~20発程度。そもそも胴体命中でも、臓器や太い血管を外せば致命傷にならないことも多く、銃創による死亡率は全体で4割を切る程度である。案外デメリットというか、苦手も多い武器なのだ。

 反面、では刀に利があるかといえばこれもまた疑問である。一般的に、刀や太刀の刃渡りはせいぜい60センチから90センチ程度。それで相手に有効打を与えようと思えば、必然、刃の長さよりも間合いを詰めないといけない。接近→攻撃→離脱というプロセスを必ず踏む必要がある以上、至近距離で銃撃を受ける可能性は決して無視してよいものではない。

 なので、結論としては。銃と刀で喧嘩をした場合、よほどへぼで、弾丸が明後日のほうにばかりとんでいくような射手でない限りは、銃のほうに軍配が上がるだろう。

 

 もっともこれは、あくまで使い手が一般人だった場合の話である。

 

 銃声が響く。口火を切ったのはトマスの先制射撃。同時にマケンも地を蹴る。鋭い踏み込み。静と動が一瞬でスイッチする。

 トマスの手にした短杖から閃光が迸る。正確無比なそれは一切の躊躇なく、マケンの眉間をめがけて飛んだ。しかも続けざまに3発。

 発射されたエネルギー弾の弾速などは人が感知できる埒外で、どんなに遅く見積もっても亜音速の世界。短杖の有効射程圏内——彼我の距離が50メートルを切っている現状では、およそ0.2秒もあれば着弾する。発砲を確認してから回避することは極めて困難だ。

 これで死んでくれないか、とトマスは痛切に思った。しかし同時に、そのような簡単な決着にはなるまいといういやな確信があった。

 

「ぬるいわっ!」

 

 残念ながら直感の示す通りになった。驚くべきことに——いや、驚くではないのかもしれない、0.2秒という猶予は、マケンという達人にとってはあまりにも長いからだ。

 マケンは手にした刀を翻して、エネルギー弾を真っ二つに切り捨てて見せる。しかも、トマスが放った3発全てを。稲妻のように鋭く、同時に流麗な剣さばきで。その絶技に、敵ながらもトマスは舌を巻く。

 

「非実体の魔法現象を斬るか!」

 

「おうとも!」

 

「さすがだな、マケン・ウルフマン!」

 

 言いながら、トマスは数度のバックステップで距離をとって射撃する。このまま距離を詰められれば、その後の展開はあまりにも一方的な物となるだろう。しかし。

 

「間合いが甘いっ!」

 

「ぐッ!?」

 

 その弾丸のすべてが切り払われ、まさに縮地ともいえる踏み込みで懐に入りこまれたとあっては、いかなトマスといえども驚愕の声を発した。

 刹那、下段からの逆袈裟に白刃が切り上げる。完全に剣の間合い。目にもとまらぬ斬撃。トマスはなすすべもなく胴を断たれ——

 

「ムぅっ!」

 

 ——てはいなかった。金属同士が衝突する甲高い音が響く。驚愕の——いや、これは多分に歓喜を含んだ——声を上げたのは、マケンである。

 弾かれるようにトマスが後ろに跳ぶ。これは意図的な物。マケンの攻撃の威力をうまく利用して、ひとまずの間合いを取ったトマスに負傷はない。何をしたのか。そう複雑なことではない。その手にした短杖で、マケンの斬撃を受け止め、いなしたのだ。

 トマスの使う短杖は、王国陸軍に正式採用されている拳銃型のもの。カタチこそオートマチック式拳銃そのものだが、機械的な構造はずっとシンプルで、それゆえ本体の剛性・耐久性も極めて高い。

 だからこうやって、剣を受け止めた直後に射撃をすることだって問題なくできるのだ。

 

「フンッ!」

 

 マケンはトマスの放った牽制射撃をこともなげに切り払うと、にやりと口の端を吊り上げる。獣面であってもありありとわかるその表情は、このような場には相応しくないほど楽しげに見えた。

 

「なるほど、銃拳術とは面白い。死合った甲斐があるというものよ」

 

「ふっかけられた側はたまったものではないんだがね」

 

 トマスは油断なく、それでも肩をすくめてみせる。マケンもまた、くつくつと肩を揺らした。

 

「クク、相手にとって不足はなし。構えよ、銃拳使い」

 

「お言葉に甘えて、そうさせてもらう。それと、ひとつだけ注釈をするならば——」

 

 トマスは懐からもう一丁の短杖を抜き取ってガンスピンすると、一丁を前に突き出し、もう一丁をこめかみの横で持つ独特な構えをとった。短杖(ピストル)を手にしていなければ、さながら中国拳法のようにも見える構え。

 奇妙な圧力を放つ構えを完成させたトマスが、静かに言った。

 

王国陸軍(われわれ)は、この武術を『ガン=カタ』と呼ぶ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。