ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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わくわく! 入院編
1-1 ティエスちゃんは叱られる


 

「入院ですね」

 

「はぇ?」

 

 あんまり唐突だったせいで変な声出ちゃったティエスちゃんだ。現在診察中。

 俺と対峙した診療室の主は、少々険があるものの、じゅうぶん美人に分類されるツラをピクリとも動かさず、その上に乗せた角ぶちの眼鏡だけを小さく直した。天井のパネルライトがギラリと反射して、その吊り上がったまなじりはレンズの向こうに隠れて窺えない。

 

「手術もします。基地司令殿にもお話して、問答無用で休職してもらいます。覚悟の準備はしておいてください」

 

「しゅじゅちゅ」

 

 噛んだ。恥ずい。なんでこっちでも言いづらい単語なんだ手術。カトリーヌに改名しろ。

 俺がそんなふうに益体もなく赤面している間にも、女医は表情一つ変えず、つらつらと述べ立てた。どこか前世で聞いたような節回し(フレーズ)に、俺はひどく困惑した。

 

「いや、いやいやいや。どっからどう見たってピンピンしてるだろ! 目ン玉ついてんのか!?」

 

 俺がそうまくし立てると、女医はそこで初めて表情を動かした。とはいえこめかみにピクリと青筋を立てただけだ。あとは何も変わらないので、逆に妙な迫力がある。

 

「ヒェ」

 

 俺は気圧された。

 

「――これを見てください」

 

 女医はそのこめかみに静かな憤りを湛えたまま、一枚のフィルムを差し出してきた。俺は先程の勢いはどこへやら、おずおずとその大判のフィルムを受け取り、見る。

 

「あー、これは?」

 

 そのフィルムに映し出されていたのは、小柄な女性の全身骨格だった。プレゼントだっていうなら趣味が悪いことこの上ないな、と半笑いになりながら、俺は女医に尋ねた。

 

「レントゲン写真です。被写体はあなた」

 

 女医は抑揚少なく言った。ちなみにこの世界にはもちろんレントゲン博士なんて存在しないし放射線の類も発見されていないので似たような別物だが、便宜上レントゲンとする。その方がわかりやすいしね。女医はクルクルシュピンと無駄に洗練された所作で差し棒を伸ばした。

 

「ここ、わかりますか。一度折れた後、無理な整復で歪んでしまっていますよね」

 

 女医がさした位置に目をやると、確かに右の大腿骨が変な形でくっついている。俺には思い当たる節があった。昨日のミノ助との戦闘でポッキリ逝ったのを、エーテルをいじってその場で接いだところだ。確かにちょい焦っていたから、少し雑になってしまった感は否めない。俺はバツが悪くなったが、それでも往生際わるく反論を試みることにした。

 

「う……いやまあ、そうかもしれんけどさ。痛みもないし……それに先生、人間には215本も骨があるんだぜ? 一本くらい――」

 

「35本です」

 

「は?」

 

「大小、新旧合わせて35本……単純な算数で全身の2割に近い本数の骨に無謀な整復跡があります。今は問題ないかもしれませんが、今後甚大な影響をもたらすのは火を見るより明らか。よって今のうちに、異常のある部分の骨をすべて叩き折って整復しなおします。――ティエス中隊長殿」

 

 女医はひと息でそういって、顔面に薄い笑みを張り付けた。背にぞわりと水が走る。

 

「は、はい」

 

「いかにあなたが優秀な魔法使いで、大学の次席卒業者で、万物の素たるエーテルを自在に操り、またそれを許されているとしても」

 

 ずいぶんな誉め言葉のはずなのに、褒められている気がぜんぜんしない。コワイ。

 女医はずいと顔を寄せた。俺はついと背を反らした。

 

「あなたは軍人であって医者ではない。多少は(・・・)人体の構造にもお詳しいようですが、そもそも、その行いがエーテル取扱者に許可されている職分の、範疇を逸脱しているということは、お分かりですね?」

 

「アッハイ」

 

「手術は必ず受けていただきます。入院もだ」

 

「アッハイ」

 

 薄ら笑顔の圧が凄い。魔物を相手するのとは別ベクトルのプレッシャーに、すっかり委縮していた俺にはもう、かくかくと首を縦に振ることしか許されていなかった。

 

「結構」

 

 女医は俺から顔を放し、そう短く言って晴れやかな笑みを見せた。それは恐ろしいほどに美しい特上の笑みで、俺は心底戦慄した。

 

 そんなわけで、俺の1か月入院生活が幕を開けたのだった。

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