ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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5-65 ティエスちゃんは空を舞う

『敵襲だ。5秒後に接敵(エンゲージ)

 

「ようやく来なすったか! 姫、戦闘機動に移行します。舌は噛まないように」

 

「はいっ」

 

 指をこきこき鳴らして操縦桿を握りなおすティエスちゃんだ。姫の緊張した――しかし緊張しすぎていない返事を背後に、光画盤(モニタ)を睨んで敵機を探す。

 ――いた。オティカがご丁寧にもマーキングしてくれたおかげで、すぐに発見できた。数は報告通り2.直線的な軌道で、こちらに接近している。噴射炎などは見えない。

 

「アイハブ! こっちに機体の制御を回せ!」

 

『不要だ。見ろ』

 

 交戦距離に入る。俺の要請を、オティカは却下した。いぶかしむより先に、敵機はアマツカゼ下方100メートルほどをアンダーパスし、彼方へと飛び去って行く。

 

『うおぉぉぉ!! 空は……!』

 

『我々鳥人のものだぁぁぁ……』

 

 件の強化鎧骨格から発せられたと思しき声が、ドップラーの尾を曳いて遠ざかっていく。

 俺は盛大に首を傾げた。

 

「……なんだぁ???」

 

電磁投射装置(リニアカタパルト)を使って投射されただけの強化鎧骨格だ。空中戦には対応できない』

 

「モノホンの人間砲弾ってワケぇ!? ……おいおい、上には上がいるなぁ」

 

『感心している場合か。第2射来るぞ』

 

 オティカの短い警告とともに、飛翔体の接近を知らせるアラートが鳴る。先ほどよりもだいぶ距離が詰まっているからか、今度は衝突コースだ。リニアカタパルトってそんな気軽に射角調整できるものでもなかろうに、よくやっている。

 そもそもリニアカタパルトってなんだよ。

 

『強化鎧骨格の銃砲を、そのままサイズアップしたようなものだ』

 

「理論は知ってる」

 

『先生の研究に、そういうものがあったはずだ。まさか完成させていたとはな』

 

「またハカセかぁ」

 

 あのインスマス、ドンだけ世界を技術革新すりゃ気が済むんだか。これからは王国の下でどんどん研究してもらわねぇとな。

 向かってくる強化鎧骨格をよく観察する。見るからに一般的なテンチュイオンⅡが、ウルトラマンのような飛行姿勢でカッとんでくる姿は、なんというか妙にコミカルで、しかしそれが片道切符の弾道飛行であるとわかれば、笑うに笑えない。

 

「オティカ、ぶっちぎれ」

 

『撃破しなくていいのか?』

 

「わかってて聞くな。弾を無駄にしたくねぇ」

 

『了解だ』

 

 オティカは実に素直にこちらの言い分を聞き入れると、背中のブースターに火を入れた。緩やかに弧を描いて地上へ向かっていた機体が莫大な推進力におされ、僅かに機首を上げる。それだけで、迫りくる敵強化外骨格との衝突コースを外れた。

 敵の頭の上を悠々とフライパスしてやると、慌てて進路を変更しようとした強化鎧骨格がソニックブームにあおられ、そのままきりもみをして落下していく。

 

「……とはいえ、何回も見せられたって飽きちまうからな」

 

 ふぅ、と息を吐いて、アームレストから急ごしらえの火器管制パネルを引っ張り出した。主に誘導兵器なんかを制御するためのパネルだ。

 

「リニアカタパルトの位置は特定できてるな?」

 

『無論だ』

 

「オーケー。誘導爆弾投下。目標、敵リニアカタパルト」

 

 うん、優秀。俺は火器管制パネルから、ロケットブースター下部に懸架している3基の対地攻撃用誘導爆弾のうち、1基をアクティブにする。優秀なFCS(オティカ)が目標地点をロックオンするわずかな時間を待ってから、操縦桿のトリガーを弾いた。

 

『投下』

 

 がこん、とロックが外れた振動が操縦席まで伝わる。爆弾一個分重量の減った機体が反作用で大きく浮き上がったが、すぐにオティカが修正した。

 枷から解き放たれた紡錘形のいかにも爆弾らしい爆弾は重力に引かれ、ひゅうひゅうと風を切って落ちる。無線の有効範囲内いっぱいオティカからの誘導を受けて敵のリニアカタパルトをとらえると、あとは重力加速のなすまま落下して、目標の約20メートル半径に落着。その質量で付帯施設を破壊した後、内部の電源呪符を意図的に暴走・オーバーロードさせ、周囲に爆炎と破壊を振りまいた。

 

『敵施設の無力化を確認』

 

「へへ、奇麗な花火だぜ」

 

 炎に包まれる森を眼下に、オティカが淡々と告げる。俺は軽口で応じてから、ちらりと姫を窺った。

 強化鎧骨格に乗っていたのがエヴィロンスではなく生身の鳥人であったことからも、敵施設には相当数の人間が詰めていたはずだ。今の爆弾一つでも、相当数の死傷者が出ているだろう。俺はそのへんもう慣れっこだからそんなに気にもならないが、姫は心配だ。派手な戦闘の裏には必ず人死にがある。その事実に気付かないままでいてくれれば楽だが、聡明な姫では難しいだろう。

 

「……」

 

 姫は目を伏せて、口を結んでいた。今の一瞬、トリガーひとつで大勢の人死にがあったことには当然気付いていて、それを軽く見るでもなく、重く受け止めすぎるでもなく、自分の中で咀嚼している。

 

「姫」

 

「わかっています。覚悟はしておりました」

 

 覚悟だけは本当に決まってるな、この人。とにかく、姫は心配なさそうだ。

 俺は小さく頷き、キリッと表情を引き締めて操縦桿を握る。

 

「こっからは完全に敵の勢力圏内だ。オティカ、対地警戒を厳に。気ィ引き締めていくぞ」

 

『無論だ。――オレは何度もそう提言してきたはずだが?』

 

「ごめんて」

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