「D型だ! スプリガンズ全機はD型で統一! 急げよ、敵さんまっちゃくれねぇぞ!!」
「「「「ウス!!!!」」」」
急ごしらえの整備区画は、露天に陣幕を張っただけの簡素なものだ。「野生の後継者」に賛同しなかった氏族連中が皆この統合府要塞に集結したものだから、本来の軍施設などはとっくにキャパオーバーしてしまっている。王国軍に割り当てられたのは本来であれば市民公園であった場所だ。市民の憩いの場であった緑の芝生広場は戦時徴用され、強化鎧骨格や作業車によって千々に踏みにじられてしまっている。
おやっさんことダディ・ペイラーは、怒号に近い声量で指示を飛ばしながらも戦後の公園機能の回復を思って同情の念を抱いた。いわゆる現実逃避であるから、そのような儚い寂寥感は5秒後には消えていたが。
「おやっさん! ガメッツィード=サンから追加資材来ました! テンⅡ用の外装が20セット!! あと、客人も!!」
「客人だぁ!? 誰だこんなクッソ忙しいときに!!!」
ターレットトラックを運転しながら叫ぶエリックに、ペイラーは今度こそ怒声で応えた。ひぇーと縮こまるエリックの後ろから、ひょいと降りる人影がある。
ペイラーはそれを見止めて、思わず怒気が引っ込んだ。その人物は
「やぁ整備班長=サン。ずいぶんとお忙しそうじゃないかい」
「ガメッツィーゼ=サン直々のお出ましとは恐れ入るぜ。見ての通り忙しすぎてな、茶の一つも出せねぇぞ」
「なに、構わないさ」
森域一の規模を誇る大商会にしてゴブリンのまとめ役である女――ガメッツィーゼ・ガメッツィーは、手にした派手な装飾の扇子を口許に当てて笑った。その華美ないでたちは、このような誇りと油にまみれた場所にはあまりにもミスマッチだ。
「……あいつは本当に飛んだんだね」
「なんだって? もっとデカい声で言ってくれなきゃ聞こえねぇぞ」
「なに、独り言さね。アンタはアンタの仕事をしてればいい」
「とは言われてもな。正直、あんたほどの大物がそこにいるだけで気が散っていけねぇ」
「邪魔だ、といいたいようだね?」
ピリッとした雰囲気が一瞬漂う。エリックが遠巻きにこちらを見てあわあわとわかりやすいジェスチャーをしている。バカ野郎見物してる間があったら作業しろ。ペイラーの鋭い眼光に射抜かれたエリックはたまらずターレットトラックから飛び降りて荷下ろしに走った。
ペイラーは盛大に嘆息してから、至極面倒くさそうにガメッツィーゼを見た。ピリ付いた雰囲気はいつの間にか霧散していた。
「ありていに言っちまえばそうなる」
「ひどい言いようだねぇ。王国人ってのはどいつもこいつも口が悪い。さすがは簒奪者の末裔さね」
「支援には感謝するがね。悪いがアンタと歴史談義をしてる猶予はねぇんだ。すまねぇな」
「構わないと言ったはずだよ。見たいものも見れた。アタシもお暇するとするさ。邪険にされて気分のいいもんでもないからねぇ」
ガメッツィーゼはくつくつと笑うと、本当にくるりと踵を返した。気を害したような素振りはなかったが、果たしてどこまでが本心かもわからない。
ペイラーは訝しむような口で尋ねた。
「そいつは結構だが、わざわざ見物に来た意味はあるのか?」
「愚問だね」
ガメッツィーゼは足を止めると、くるりと上半身だけ振り返った。口許に扇子を当てたままで表情こそわからなかったが、勝ち誇ったような微笑を浮かべていることは雰囲気でわかる。
何が、とペイラーは聞こうとして、その機先をつぶすようにガメッツィーゼは続けた。
「アタシは森域一の商人さ。モノの良し悪しなんてのはね、一目見れば理解っちまうもんさね」
「……そいつはすげーや。それで、ウチの連中の働きっぷりは、あんたのお眼鏡にはかなったのかい?」
ペイラーの問いに、ガメッツィーゼは甲高くアハハと笑った。
「せっかく仕入れた商品を、無駄にはしないどくれよ」
踵を返したガメッツィーゼのヒールが、鉄板床をカツカツと叩く。扇子だけをひらひらと振って去っていくその後姿を見送って、ペイラーは今日いちばんの深い溜息を吐いた。
「ったく、ああいうのの相手はハラグロイゼ卿か隊長さんにやってもら和にゃ困る」
「ホントっすねー」
いつの間にか隣に立っていたエリックの頭に一撃を入れてから、ペイラーは再び深い溜息を吐いた。
「――ったく、さっさと帰って来いよ、隊長さんよ」