「よーし、A班集合!! アジャストやるぞ!」
「「「ウス!!」」」
ガメッツィーゼが去ったことで気勢を取り戻したペイラーが号令を飛ばし、整備区画は一層慌ただしくなった。A班はペイラーを筆頭に、選抜された整備隊員の中でもいっとう水魔法の達者な者たちで構成された班である。
ガメッツィード商会から提供されたテンチュイオンⅡ用の外装パーツは、そのままでは当然アーゼェンレギナには装着できないから、加工が必要になる。熟達した水魔法使いの整備士にかかれば、装甲材の性能を落とさずに
「B班は引き続き換装作業を続行で! 怠けてたらおやっさんが怖いぞォー!」
「「うぃーっす」」
「うーん反応が違いすぎる。一応班長なんだけどなぁ、俺」
いっぽう、資材搬入を終えたエリックは肩をすくめつつB班に合流し、換装作業に移る。みんな仕事はきっちりやっていたので、多少の態度の悪さは不問とした。この場に来ている整備隊員はペイラーを除けば良いほうに同レベルで、A・B班の班分けも技量の差ではなく得意とする傾向の差でしかない。自分におやっさんほどのカリスマがないことはエリックもよく理解していた。
「ん?」
そのB班の中で、ひとりだけ手が止まっている人間がいることにエリックは気が付いた。エマだ。
ツールバッグを脇に抱えたまま、整備区画の端に佇む機体を見上げていた。
ハンスの機体だ。D型換装の順番待ちで、まだ手がついていない。傍目から見れば、次の作業手順でも思案しているように見えるが……その目にはまた、別の色があるようにも見える。
注意しようかとも考えたが、野暮だな、とエリックは思いとどまった。マリッサが近寄っていくのが見えたからでもあった。
「エマ姉、次の工程のリスト出てる?」
マリッサの声に気づいてエマが振り返る。多少の間があったことをマリッサは見逃さなかったが、とりあえず表情には出さずにおいた。それくらいの気配りはできる女だった。
「……ごめん、ちょっとぼーっとしてた。ダメだよね。……リストはここ」
「ふーん」
マリッサはリストを受け取りながら、さらりと続けた。
「増加装甲、4積みする?」
エマは答えなかった。口を開きかけて、閉じた。
「エリックに頼めば、融通してくれると思うよ」
「……それだと、逆に重すぎてハンスくんの特性に合わないわ」
苦笑交じりに返ってきた言葉に、マリッサはニヤけるのを精いっぱい我慢した。エマとハンスの関係が秘密にできていると思っているのは当人たちだけで、周囲にはすでにバレバレだった。それでも直截的にそれについて言及しないだけの理性は、マリッサにもある。マリッサが理性を失うのは引鉄《トリガー》に指を掛けたときだけだ。
「ま、それもそっか。あいつ、機動で当てるタイプだもんね」
「……うん」
「いやーよくわかってらっしゃる。お熱いっスなぁ~」
そんなほのぼのした二人の会話に横合いから飛び込んできたのがエリックである。デカいスパナを肩に担ぎ、ニヤニヤと最高品質の余計な一言を添えて。
次の瞬間、マリッサのドロップキックがエリックの鳩尾にクリーンヒットした。容赦の微塵もない一撃に、彼は体をくの字に曲げて床を転がった。
「うごごご……も、もう少し、手心というものを……」
「うっさいなー。エマ姉、おやっさんにどやされる前にさっさとやっちゃお。あたしも手伝うからさ」
「でも、マリッサは確かエーリカ小隊長の」
「いーのいーの。そのへんは
「ンな無茶な…………いえ、誠心誠意前向きに検討いたしやす」
マリッサの右足に重心が移動したのを見て、エリックは早々に下手にでた。「それでいいのよ、それで」とマリッサが鼻を鳴らすのを見て、エマは可笑しそうにくすりと笑んだ。
「……そうね。じゃあお願いしちゃおっかな」
「まかせてよ。資材、そろそろ出来てるし取りいこっか」
「ええ」
エマはもう一度だけハンス機を見上げて、それから踵を返して歩き出す。マリッサがその隣について姦しい。
床で悶えていたエリックは二人が視界から消えるまで見送ってからむくりと立ち上がると、マリッサに一撃入れられた腹をさすった。
「いてて……ったく、加減ってもんを知らんのかねあいつは」
グッと伸びをして関節をこきこきと鳴らす。班員のメンタルケアも班長の仕事とはいえ、あんまり茶番やってると本格的におやっさんのお怒りが飛ぶので、エリックはそそくさと自分の持ち場に戻った。こいつが終われば、マリッサの分の穴埋めに走らなくてはならない。うかうかしている時間はない。
「ったく、班長ってのは損な役回りだぜ」
やれやれとばかりに、多少の自尊心を含んだエリックのボヤキは整備区画の喧騒の中に溶けていった。