「押さないで、列に並んで! 毛布はいっぱいあるから……あっ、ダメだよ一人一枚までだって」
「うるせぇ! 半端モンのガキが指図するんじゃ……うお!?」
だん、と五体が床に叩きつけられる音が喧騒の中にあって響く。
都市である統合府一帯が要塞化されるにあたり、ではそこで生活を営んでいた者たちがどうするかというと、要塞内部に設けられた一般市民用のシェルターに避難することになる。元来内戦の絶えなかった森域では、有事が起こった際の避難訓練なども徹底していて、「野生の後継者」決起より1時間と待たず、十万余の避難民の収容を完了していた。ティエスがその光景をもし眺めていたらば、前世の頃の夏冬の有明を想起したかもしれない。
とはいえ、総体として秩序立った行動を取れているとして、その末端までが秩序立っているかと言えば否であるし、いわんや、相対するのが黄緑まだらの髪をした子供であるならば、このように舐めた態度を取るものも現れるというものだ。そもそも森域の人間というのはナチュラルボーン蛮族である。なので、舐めた態度をとったものへの仕置きが苛烈になるのもまた、むべなるかな。
「ニンジャさん、その辺にしといてあげて。パニックになられても困るし」
「りょ」
身の丈3メートルはあろうかというモクレンを放り投げた直後とは思えぬほど軽い言葉を返す
「手荒にしてごめん。あんたは体が大きいから、一枚じゃ足りないのはわかるよ。でもまずは、避難してるひとら全員に毛布を配らないといけないだろ。毛布に余裕はあるからさ、配り終わったら絶対、あんたに毛布が行くように手配する。今はそれで収めてくれないか?」
倒れ伏すモクレンの男はエルヴィン少年を見て、次いでニンジャを見てから、舌打ちを一つして立ち上がると、未だしゃがんだままのエルヴィン少年を見下ろしたまま答えた。
「……わかった。余ったら一番に届けてくれよ」
「一番かどうかは保証できないけど、必ず届けさせるよ」
「チッ」
モクレンの男は捨て台詞よろしく舌打を残して踵を返す。それを見送って、エルヴィンは立ち上がりつつ胸を撫で下ろした。
「もの好きですね、エルヴィンさまも。こんな仕事は職員に任せておけばいいのに」
ニンジャが面頬の裏に表情を隠しながらも面白がるよな風情は一切隠さない様子で言った。エルヴィンは堪えきれずため息を吐いた。
「あのさ、その様付けやめてくれないか?正直むず痒いっていうかさ」
「とは言われましても、ウィエルサード様の正式なお客人ですからね。私にも体面というものはありますし」
「体面……?」
それで……? エルヴィン少年は大いに首を傾げ、ニンジャはドヤ顔した。ドヤドヤ。こいう無敵かよ。エルヴィン少年はため息をついた。
「とはいえそういうご身分ですから、ある程度のわがままが利くわけで、ね?」
「う」
ニンジャの言葉にエルヴィンは言葉を詰まらせる。実際、安全な場所にこもってただまんじりと待つこと耐えがたく、ウィエルサードにその旨訴えたところこの仕事が振られたわけだから、権威の傘を着ていると詰られても何も言い返す言葉がなかった。
「やっぱ邪魔かな、俺」
「まあ、子供というだけで侮られますからね」
エルヴィン少年は盛大に肩を落とした。おまけにこの髪である。ティエスやウィエルサードのおかげでいつものメンツから誹りを受けるようなことは無くなったが、一般市井から見ればエルヴィンの髪は裏切りの証だ。
「はぁ〜〜、色々、わからされちゃうよな」
エルヴィンは最後に盛大なため息を吐いて、それを区切りとして顔を上げ、避難民対応に戻っていく。列はまだまだ長い。一度仕事を請け負った以上、それを中途で投げ出すという択はエルヴィン少年にはない。ニンジャはその姿をニヤニヤと眺めながらも、その実、その姿勢にはつよい好意を寄せていた。これもティエスの薫陶だろうか。
「ンだガキコラボケ!!」
「おっと」
舌の根も乾かぬうちのトラブルに、次はもう少し派手にやるか、とニンジャは風のようにかき消えた。