「…………」
『…………』
『…………』
コクピット内の沈黙が重く感じるティエスちゃんだ。目の前で頽れていくチャドラのヤーラ・レイアークを黙々と見物中。いや計器類やら何やらがピロピロ鳴ってくれているから間がもってるけどこの雰囲気はきついって!!
『……撃っちゃいましたね』
姫様が口調に虚脱感をにじませながら言う。なまじ大きい声出した分、幕切れがあっけなさ過ぎて……って感じだろうか。いたたまれねぇよォ。
「…………レイダースって知ってる?」
神速の抜き撃ちだった。銃口からオゾンの煙を立ち昇らせるレールガンをスーパーアーゼェンレギナの右腕に構えさせたまま、俺は半笑いで尋ねた。
『知らん。何か関係があるのか』
「いや、シチュエーションがドンピシャでさぁ……」
さっきの状況、剣での勝負を挑んできたアラブの剣士を彷彿とさせて、うっかり撃っちゃった。つまり俺がインディ・ジョーンズってワケ。そもそも隙だらけだったしな。モーションパターンは良いのを使ってるんだろうが、それを呼び出してる本人に戦闘センスがなさすぎだぜ。量産機のほうがまだ歯ごたえあったぞ。
……しかし、やべーな。今になって後悔の念が湧く。確かアイツ実質「野生の後継者」のナンバーツーだろ? 生け捕りにすれば貴重な情報を絞れたかもしれない。
しかし良いこともあった。指揮官機というかコントロール元だったチャドラのヤーラ・レイアークを落としたことで、周囲の量産型達はその動きを大きく鈍化させた。ラッキー。コントロール不能になったら全機自爆するとかいう仕掛けじゃなくてホント助かったぜ。五分五分くらいの賭けだったな。まあ怪我の功名ということにしておこう。
「あー、姫様? その、積もる話もあったかもしれませんが」
『……構いません。切り替えていきましょう』
バツ悪く姫を仰ぐと、少しの沈黙の後に姫は毅然とした態度で応えた。敵とはいえ顔見知りが死んだんだ。心中いかばかりか。それでも色々のみ込んでくれたらしい。ありがたいことだ。
『量産型の動きが鈍っている、今が好機です。具申します、ガンズリーダー。今こそ城門をあけ放ち、レイフィール城へ突入しましょう』
「姫様……!」
「ふふ、いけませんよ。今はガンズゼロです」
そういって姫はふふんと鼻を鳴らした。ちょっとカッコよ過ぎるな。俺は大きく頷いた。
「そう来なくっちゃ。そうと決まればさっそく中に――」
俺は城門前に展開している木偶人形と化した量産型たちを手早く処理して、その城門を見上げる。幅10メートル程度、高さは30メートル程度あるのだろうか。強化鎧骨格に乗っててもデカいと思うレベルだ。
そしてその重厚な門扉は、固く閉ざされている。
「――推したら開きますかね。あるいは敲いてみるか」
言ってはみたが、無理だろうな。通常のアーゼェンレギナより強化されてるって言っても、これだけの質量差をどうこうできるほどの膂力はこの機体にない。門を敲いて開けてもらうというわけにもいかないだろう。何せこちらは敵である。
『…………ガンズリーダー、城門の脇に通用門があるのは見えますか。そう、右下です。破壊してください』
「何か考えが?」
尋ねながらも、姫の指示に従って視線を動かす。なるほど、確かに人間用のサイズの門が脇にあるな。普段はあっちを使ってるってことか。俺はそれを照準して、迷いなくレールガンの引き金を引いた。俺が土魔法で生成した金属塊が電磁投射され、その爆発的な加速と質量でもって通用門を引き裂く。ブースター爆撃で傷一つつかなかった城の外壁と違い、通用門の材質は常識の範疇らしい。それを見越してのことか。
ガチャリと、後席からシートベルトを外す音がした。
「……荒事が終わるまで、シートベルトはそのままにしといて欲しいんですがね」
『城門を開放するには、内部のコントロール・ルームから王族権限でコマンドを打ち込む必要があります。――わたくしもスプリガンズです。少しは役に立たせてください』
「じゅうぶんお役に立っておいでですがね」
主に移動中の暇つぶしとかで。俺が半笑いになるのに合わせて、リリィ姫――いや、ガンズゼロというべきか。彼女もまた、短く笑む。
「まったくお転婆ここに極まれりだ。ついて行って差し上げたいのはやまやまなんだが、俺はこいつのお守りをしなくちゃならんのでね。――オティカ」
『心得ている』
俺は口角を上げながら言って、機体前面のコクピットハッチを開放する。爆発の影響か、吹きすさぶ風がコクピット内を駆け抜けた。
がこんと、背部武装プラットフォームが展開し、中から黒い人影が姿を現す。とたんに、操縦の負荷がぐんと増した。
「ガンズゼロ、オティカを護衛につける。城門の開放は頼んだぞ」
『ええ、お任せください』
「オティカ、待ちに待った姫のエスコートだからって、張り切りすぎるなよ」
『心得ているといった。お前こそ、くだらないミスで撃墜されてくれるなよ。オレがいなくなって、操縦の負荷は増しているはずだ』
「心配にゃ及ばねーよ。お前のサポートが手厚すぎて腕が鈍っちまうから、そろそろ一人でやりてぇ気分だったしな」
『フン』
オティカは少しだけ愉快そうに笑うと、バックパックから跳躍した。頭部ユニットを一度蹴って、コクピットハッチに着地する。姫は難儀しながら上席から立ち上がって、オティカの手を取った。大丈夫かな……ちょっと心配になる。
「お前ら、死ぬなよ」
『はい』
『任せろ』
姫が決意のこもった顔で言い、オティカが無機質な顔面に自信をみなぎらせて頷いた。俺は操縦桿から腕を離して敬礼する。二人もそれぞれ敬礼をしてから、オティカは姫を抱えてハッチから跳躍した。
「さぁて……」
ハッチを再び遮蔽し、破壊された通用門から城内に突入する二人を見届けてから、振り返る。
指揮系統の乱れによって動作が鈍っていた量産型共が、最適化されたように足並みをそろえ始めていた。
兵装ウインドウに目をやり、稼働時間を確認する。どちらも余裕があるとは言えない状態だ。継戦限界はそう遠くない。ここからどれだけ消耗を抑えて敵を捌き切れるかは、まぁ腕次第と言ったところだろう。
燃えるシチュエーションじゃないか。
「耐久戦と行こうか。かかってこいや、鉄くずども!」
電池切れのレールガンを投棄。代わりに両の腕にどでかいレーザーガトリングを装備させる。積み込んできた火器はこいつで打ち止めだ。せいぜい派手にやろうじゃないか。
殺到する数百の量産型を前に、俺はガトリングの砲塔を高速回転させながら獰猛に笑んだ。