「ぷぃ~~~~~……」
青白い煙を盛大に吐き出すティエスちゃんだ。現在タバコ休憩中。職務規定? 知らんなガハハ。
肺に溜まった煙を吐き切ってから、光画盤に映る風景をちらりとうかがう。周囲には青い残骸が幾重にも折り重なっていて、まるで空か海のようだ。
これ全部量産型レイアークの成れの果てやね。向かってくる敵は全部平らげて、無人の荒野に動く者は俺ばかり。へへ、オティカの助力がなくてもこれくらいはできるんすワ。ちょーっと無駄にバッテリー食ったかもだけどその辺はご愛敬ってことで。
周囲の安全はちゃんと確保してるので安心してほしい。さすがのティエスちゃんでも鉄火場の真っ最中にタバコ休憩なんてしませんよ。ええ。
「……いやぁ、絶景かな。まさにこの世の地獄って感じだ」
案外地獄なんてこの世にしかねーのかもしれねー。俺は半笑いになった。そこかしこで火の手も上がっている。燃料が燃えているというよりは、機体の内装系の可燃個所が燃えている感じでそんなに火勢はない。
おおかた、レーザーに貫かれたときに引火したんだろう。そもそも強化鎧骨格は内燃機関ではなくバッテリー駆動だ。そのバッテリーこと
今回携行性を優先してガン積みしたレーザー兵器は、電源呪符にチャージされた圧縮エーテルを光エネルギーに変換して高度に増幅・収束し、照射するものだ。デカいレーザーポインターみたいなもんだと思ってくれていい。まぁ熱線が当たれば人間なら蒸発するし、強化鎧骨格くらいの装甲なら貫通するけどな。殺人光線だ。嵩張る弾を持ってこなくていいから遠出にはぴったり。実弾に比べてちょっとパワー不足なところがあるのが玉に瑕ってところかな。
歩兵の携行している杖から出るエネルギー弾とはまたちょっと仕組みが違うんだが、まぁそれはどうでもいいか。
「すぅーーーーーーーーーーーー」
お守り代わりにもってきた最後の一本を、根元まで吸い切る。空の旅は初めてだったからお祈りもしたが、これからやるのは一騎打ち。慣れた仕事だ。もう御守りも必要ねーやな。
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~」
たっぷり味わった煙を、名残惜しくもすべて吐き切る。疲れのたまった脳がこう、一気にクリアになるような感覚があるな。さすがに俺も100人斬り(実数は知らん。100より先は数えてない)は堪えた。機体も結構ガタガタだ。
本体の目立った損傷こそないが、関節には結構負荷が溜まってる感じで、ステータスチェックが時折ワーニングを吐く。ま、即座に破損するってほどではないがね。バッテリーも結構減ってるが、ハカセが大容量化してくれたおかげで最大可動でもまだまだ動く。
「右のサブアームはだめだなこりゃ」
ステータスウィンドウで唯一真っ赤に染まっているのが、背部プラットフォームの右サブアーム1番だ。だらりと垂れ下がったままで、うんともすんとも言わない。後ろの敵を斬ろうと思ってサブアームに剣を握らせて鍔迫り合いさせたら普通にパワー負けしてこのざまだ。いけると思ったんだが、俺もまだまだ成長の余地はありそうやね。
俺は灰になってしまった煙草を土魔法で作った即席携帯灰皿に押し付けると、灰皿ごとダストシュートに放り捨てた。
胸元のジッパーを上げ、ヘルメットをかぶり直す。
「さーて、っと。姫様たちの仕事が終わる前に、こっちも準備だけしとくか」
まだ門は開かない。結構時間経ってるけど大丈夫かなぁ。連絡手段もないし信じて待つっきゃないけどね。
手元のコンソールにコマンドを打ち込んで、エンターキーを叩いた。バックパック・ユニットと背部プラットフォームの境界がボフンとオゾン臭い煙を吐く。両者の接続が解除された。
重力にひかれてプラットフォームの残骸が地に落ちると、スーパーアーゼェンレギナはずいぶんと身軽な姿になる。
「……バトル漫画の主人公みてーだな」
あの、クソ重いパワーリストとかをボトボト落として身軽になったぜ……ってするやつね。まさか自分がすることになるとは思わなかったな。
「さて、武器は……」
武装のステータスを開いてちょいちょいと弄る。とりあえず飛び道具は全滅。残ってるのは持ち込みの剣が一振りと、さっきそこで拾った剣が一振り。手斧が二本。槍が一本か。まぁこれだけあれば足りるだろう。そのへんから拾い放題とはいえ、あまりたくさん持って行って身動きが取れなくなるのもダセえしな。
「あとはこいつをどーするか」
目の前に他の武器とは一線を画すデザインの剣を二振り並べる。一つは闘技場でハナッパシラ君がぶんどった分、もう一つはさっき俺がぶんどった分だ。たしかチャドラはレイ・ブレードとか言ってたっけ? ヘキサギアかよ。
まぁ、名前に恥じない破壊力とクソバカ燃費を兼ね備えてるらしいが、ちょっと持て余しそうなんだよなぁ。
「……………………よし、持ってこう」
「そんな得体のしれない武器なんて持ち込むだけトラブルの元だ!」と叫ぶ保守派を「うるせー! ここぞって時にレイブレード二刀流とかしてーだろ!!」と叫ぶ改革派がタコ殴りにし、脳内議会は無事武力制圧された。やっぱね、俺だって元オトコノコだからね。ロマン武器には弱いのよ。
『正門前、聞こえますか。こちらガンズゼロ。正門を開放します。ガンズリーダーは入城を。合流は手はず通りに』
「お、ようやくか」
選抜した武器を機体各部のハードポイントにあらかた懸架させ終わったところに、城のスピーカーからノイズ交じりの姫の声が開門を告げる。どうやら城の機能を一時的に掌握できたらしいな。重畳だ。こちらの動きはどこかから見えているのだろう。
目の前の門が、ごうごうと音を立てながら開いていく。あまりにもオーバースケールなメガ・ストラクチャーに、覚えず口笛が出た。
俺は手を組んでひとしきり手首を解すと、自分の頬をぱしんと叩いて、ヘルメットのバイザーを下す。そして、しっかりと操縦桿を握る。
「行くぜ」
誰に言うでもなく、呟く。我ながら、いつになく真面目な声だった。統合府で頑張ってる隊の連中のためにも、速攻で終わらせねーとな。
いざ、決戦のバトルフィールドへ!