「お。いたいた。お~い!」
スーパーアーゼェンレギナの腕をぶんぶんと振るティエスちゃんだ。強化鎧骨格が腕を振り回しても全然余裕があるのに室内なんだよな。どんなスケール感だこの城は。ゼノブレイドクロスかよ。
入城してからこっち一本道だったので道には迷わなかったし、数回の妨害を受けたが全部エヴィロンスだったので文字通り蹴散らした。質量差ってやっぱデカいんだよな。この世界、魔法法則が幅を利かせてるけど依然として物理法則は健在なので、デカくて重いものは強いのである。いぇい。
しかし強化鎧骨格が一機も出てこなかったのは肩透かしだったな。もっとこう、ボスラッシュみたいになると思ってたんだが。マジで全部城の前にいたんならちょっと笑えるな。敵の幹部――チャトラだったかハチワレだったかが結構無能そうだったし、ありえなくもないんだよな……。
まぁ損耗を抑えられたのでラッキーラッキーではあるんだがね。
「っと、周辺警戒っと」
姫たちの前にスーパーアーゼェンレギナを膝立ちにさる。コクピットを開ける前に周囲の警戒は怠らない。急に横から飛び出してきてパイロットにダイレクトアタック! されたらこっちはライフで受けるしかなくなるからな。もちろん俺は抵抗するで? 魔法で。でも姫まで庇えって言われるとちょっとムズイからね。思ってる間に索敵は終わった。とりあえず、足元にいる4名以外は動体反応はないようだ。……ていうか4名? 今更だけどなんか二人ほど増えてやがる。眼光のやけに鋭い爺さんと腹黒そうなおっさんの組み合わせだ。味方でいいんだよな?
動きが若干滞ったところを気取られたか、姫が口を開いた。
『安心してください、ティエス卿。こちらは侍従長のベオ・ヴォルフ……賢狼王統派のまとめ役をしてもらっていたもので、味方です』
腹黒そうなおっさん――ベオ・ヴォルフが恭しく頭を下げる。所作まで胡散臭いが、姫が言うなら味方なのだろう。オティカも動いてないしな。俺はハッチの開放コマンドを打ち込むためにコンソールに手を伸ばした。
『そしてこちらが――』
『――ゲルベロッサ・マーナガルムズ』
おっとぉ!?
姫の紹介を遮って自ら名乗った男の名に、俺は途中まで打ち込んでいたコマンドを破棄し、操縦桿に手をかける。
「オティカ!」
『心配ない。ゲルベロッサ……オリジナルは、こちらの味方だ』
名を呼んだだけで意を察したオティカが応える。マジか、そういうことあるんだ。姫も頷いているし信じてもいいんだろうが……コクピットを開けた瞬間に斬りかかってきたりしねーよな?
『クク、安心しろ。ハッチが開いた瞬間に斬りかかろうなどとは思っていない』
なにっ!? 装甲越しでこのレベルの読心を!!
いやフツーにわかるか、こっちが何を警戒してるかくらいは。最悪を考慮して壁つくっとこ。俺はひそやかに風魔法で結界を張りながら、コクピット開放コマンドを実行した。カシュッという空気の抜ける音とともに、前面ハッチが開いていく。
肉眼で改めてみるその男は、なるほど、抜身の剣のような雰囲気をはばかることなく垂れ流しにしていた。これがいわゆるオーラって奴かね。とりあえず、言葉通り飛びかかってくることは無くてひと安心だ。
俺は気取られぬように小さく安堵の息を吐いてから、ヘルメットを脱いだ。
「フェンヴェール王国陸軍派兵部隊・スプリガンズ隊長のティエス・イセカイジンだ。兼ね役で、リリィ姫の護衛騎士を請け負ってもいる。高いところから失礼。今はちっと時間がないんでな」
「構いませんとも。侍従長のベオ・ヴォルフです。ティエス卿のお噂はここレイフィールにまで轟いております。姫様をお任せするのに、これ以上の人物もおられますまい」
侍従長が顔を上げて、こちらに目線をよこしてくる。うーん糸目キャラ。年はそこそこだけど昔はイケメンだったんだろうなって顔立ちだ。つまりイケメン糸目キャラ。胡散臭いことこの上ない。この手の手合は腹ン中で何考えてるか分かったもんじゃねぇんだよな。俺は内心をおくびにも出さず答えた。
「そいつはどうも。俺は姫をピックアップしたら、このままあんたがたの王様の首を獲りに行くが……あんたたちはどうする」
乗ってく? みたいな感じで親指でコクピットの後ろの空間を指さす。まあコクピットは定員オーバーで4人は物理的に入らないので、乗ってく場合は機体の背中にしがみついてもらうことになるが。そんなことを思っていたが、杞憂だったようだ。ベオはゆるゆると首を横に振った。
「我々はもうひと仕事残っておりますので」
「そうかい。お互い様だな」
ベオはそれににこりと微笑んで、深く礼をした。ゲルベロッサはフンと鼻を鳴らす。お眼鏡にかなったとみていいのかね。
ゲルベロッサは半歩前に出ると、こちらを鋭い目で見上げた。さりげなく、その手が腰の得物に伸びている。おおっとぉ。
「ティエス卿」
「ン?」
「手前からも一つ、餞を贈ろう」
そう言うが早いか、凄まじい速さで腰の得物を抜き放つ。そのモーションを逆回しするかのように再び鞘に納刀するまでの一連の動作が瞬きの間に行われた。神速の居合。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
なんて言ってる場合じゃないな。剣気が刃をなして飛んでくる。ナチュラルに飛ぶ斬撃を放ってくるから嫌なんだよなこの世界は。俺も同じようなことはできるけどさあ!
俺はコクピットに到達した斬撃を、ハエを払うような所作で散らした。コクピット内をそよ風が揺らす。やけに軽い手ごたえ。なんだこれ? 狙いは正確無比に首を斬る軌道だったけど、反応できずに直撃してても大したことなかった奴だぞコレ。
「
「クク、なるほどな、噂通りの傑物と見える」
試した、ということなんだろうか。さっきの居合、本気だったら流血沙汰は避けられなかったろう。それだけ鋭い一撃だった。しかし実際はこの通り怪我一つもない。
つまりカッコだけ見せて、威力に関しては超絶手加減した、と。バケモンかよ。ちょっとだけ冷や汗出たわ。
「これを見切れるならば、かの王ともそれなりには戦えよう。――しかし、クク、いつか真剣にて相まみえたいものだ」
「悪いがお断りだね。気持ちだけ受け取っとくよ」
「ウチの将軍がほんとすいません」
やはりゲルベロッサの言からすると、単なる試し行動だったのだろうか。武人のそれはいちいち物騒である。なんか気持ちねっとりとした視線向けられてる気がして嫌なんだけどぉ……。俺別に剣客とかじゃねーから! ただの職業軍人だから!
ペコペコ頭を下げるベオに引っ張られて下がるゲルベロッサを見て、俺は大きく嘆息した。どこでもストッパー役ってのは苦労するらしい。帰ったら副官のやつを猫かわいがりしてやるとしよう。
俺はゆっくりと、スーパーアーゼェンレギナの右腕を地面におろした。またオティカに抱っこさせてジャンプしてもらうのも気が引けるしな。本人からすれば役得かもしれんが。
「行きましょう、姫。時間もあんまりないんでね。統合府に残してきた連中が干上がる前に、こっちも片を付けましょうや」
「――…………はい。ゆきましょう、ティエス卿。すべての因縁に終止符を打つために、いま一度あなたのお力を貸してください」
「喜んで」
掌に足をかけた姫をグイッとコクピットまで運んでやる。着座は思いのほかスムーズに行った。問題があるとすればちょっと姫の元気がないことだが……まぁこれから自分の父親をぶっ殺しに行くのに元気溌剌ってのもおかしいか。そっとしといてやろう。
背中のユニットにオティカを組み込んで、いよいよ準備万端だ。俺はヘルメットをかぶる。兜の緒を締める思いだ。
「ベオ侍従長! お互い、うまくやろうや!」
「ええ。そちらもご武運を!」
俺が王国式の敬礼をして見せると、ベオとゲルベロッサもまた敬礼で返した。コクピットハッチを閉鎖する。光画盤には、二人が隠し通路に消えていくのが映し出されている。
『接続完了。システムオールグリーン――待たせたな』
「ううん、今来たトコ♡」
『こんな状況で茶々を入れるな』
「それはそうだわ」
『というかお前、煙草を吸ったな?』
「はて……?」
俺はそっぽを向いて口笛を吹いた。真面目腐った声がコクピットに響く。姫が少しだけ笑った気配を感じる。いかんなぁ、こういうの覚えちゃったらもう普通の強化鎧骨格じゃ満足できない体になっちまいそう。人類は基本ドパガキなのだ。
操縦桿を掴む。身体が拡張される感覚。地に着いていた膝を浮かせ、広々とした廻廊に機体を屹立させる。
俺はわずかに口角を上げた。
「じゃあ、征こうか」
「――はい」