『ステータスチェック完了。――よくあの乱戦で、ここまで損耗を抑えたものだ』
「ったりめーよ、ティエスちゃんだぞ??」
『調子に乗るな』
ボス戦前にいろいろ確認できるところは確認してるティエスちゃんだ。さすがにね。いざ敵の親玉の前に躍り出ちまったら、もう「あっ調子悪いんで今日は帰りますね^^」は通らない。まぁここまで来たら調子悪くても突入するしかないんだけどな。ハード面の修理は難しくても、ソフト面で補えるところは今のうちに調整しておきたい。オティカが諸々の調整にかかる負担を肩代わりしてくれるから、そういうのは歩いてる間にも出来る。
「ほんと、オティカさまさまだな。このまま王国軍の装備になるつもりない? そのつもりあればハラグロイゼ卿とかに口きいてもらうけど」
『ない。オレは姫の騎士だ。代用品が欲しいなら、先生にでも言ってこさえてもらえばいいだろう』
「連れねぇこと言うなよ~~知らない仲じゃないんだしぃ」
『やめろ気持ちの悪い』
俺がしなを作って見せると、オティカはさもげっそりとしたような声を出した。なんだよぅ、これでも顔の造形は美少女なんだからな。少女っている年でもねーけど。
くすりと、後席から微かな笑い声が漏れた。姫だ。
『本当に……ずいぶん仲良くなられたのですね、二人は』
「ま、背中を預けあった仲だからなあ。もうマヴよマヴ」
『勝手なことを言うな』
オティカがむすくれたような声を出して、姫はさらにくすくすと笑った。なんか随分気負ってたみたいで心配してたんだけど、持ち直したかな。カラ元気かもしれんけど。
俺はスーパーアーゼェンレギナの足を着実に進めながら、世間話のように言った。
「それにしても、本当にデカい城ですね。強化鎧骨格に歩いてるのに随分余裕がある。空から見た時よりもずっと巨大だ」
『ええ。創世記以前からの遺跡と聞いています。見かけの大きさよりも中はずっと広いんです。それに、ずっと深い地下まで施設があるんですよ。幼いころはライカと遊びまわって、よく迷いました』
「そいつはまた……」
「ふふ、ベオ侍従長にもずいぶんと迷惑をかけました」
お付きの人らも大変だったろうな。これだけ広いと探すのも随分な手間だろ。あのベオって侍従長も、胡散臭い見た目して結構な苦労人なのかもな。
「しかし空間拡張となると、風魔法ですか。にしても随分大規模な」
俺の感想に、後席の姫がふるふると首を横に振った。
『いえ……この城に掛けられている魔法は、かつて、ミルナーヴァに現在の摂理が敷かれる前——まだ魔法が4つの属性に分化していなかった時代のものと聞いています』
「そりゃまた、御伽噺みたいな話ですね」
『ええ。でも実際、どんな博士たちも、この城に掛けられた魔法を解析できてはいないのです』
「はえ~、ロマンっスなぁ」
俺はとぼけたような返答をしつつも、聞き逃せないワードに引っかかりを覚えた。ん? いまミルナーヴァって言った?
「随分と古いことをご存じなのですね」
『幼少のみぎり、森の人から寝物語に聞かされたのです。『幻想機譚』、とあの人は仰っていました……今思えば、ずいぶんと示唆に富んだ物語でしたね』
俺は片眉をピクリと上げた。また知らないワードが出てきたな。
「その、森の人ってのは?」
『私も詳しくは知らないのです。父王の知己で――子供のような身なりの人でしたが、どのような長老よりも老成した気配を持つ人でした。名前は確か——エルディオル』
「エルディオル……」
また知らない名前が……いや待て、なんだっけな。なんかどっかで聞いたことあるぞその名前。えーと、うーんと……。
『……い、おい。気を逸らすな。到着したぞ』
「っとと」
オティカに呼びかけられてハッと我に返る。いけねぇいけねぇ、うんうん唸ってるうちに無駄に気を散らしちまった。エヴィロンスすら出てこなくなったから油断してたぜ。反省。これだけ悩んでも出てこないってことは、デジャヴかなんかだったんだろう。俺はヘルメットのバイザーを上げて自分の頬をぺちぺちと叩くと、光画盤に映る構造物をじっくりと検分した。
その扉は正門のそれとよく似ていて、強化鎧骨格が悠々と潜れる大きさの巨大な扉だった。複雑な文様で装飾された門扉はなるほど、中世の城というよりはインディ・ジョーンズとかハムナプトラに出てくる謎遺跡の雰囲気がある。というかあれだな、ラピュタだな。ラピュタ的な感じだ。
「バルス!」
『急になんだ』
「いや、これで城が崩壊してくれたら楽だなって」
『意味不明なうえに我々も生き埋めになるぞ』
「それもそうだな……」
手元に飛行石とかないもんな。ワンチャン姫がもってる可能性もあるけど。
『謁見の間で間違いありません。わたくしの知る限り、閂の類は付いていませんから――』
「押せば開くってことだな、よし」
俺は操縦桿からいったん離した手を、コリをほぐすようにぶらぶらさせた。パキパキと間接の鳴る音がする。
「オティカ、準備は良いな?」
『問題ない。現状でベストコンディションだ』
「オーケー。そんじゃ、ガンズゼロ、覚悟は――よろしいですね」
『……――――はい。お願いします、ティエス卿』
姫が迷いを吹っ切れたかどうかはわからないが、そう口にした以上は腹をくくってもらうしかない。俺は操縦桿をぐっと握りしめ、拡張された身体が荘厳な門扉に両の掌を添える。
「行くぞ、カチコミだッ!!」
ぐっ、と力を籠める。アクチュエータと人工筋肉が嘶き、決戦へ至る最後の障壁が、重い音を立てて動き始めた。