「先手は頂くッ!」
睨みあいもそこそこに、一足飛びに敵の懐に飛び込むティエスちゃんだ。鞘払った剣を下段に構えて、瞬きの間に間合いを詰める。とりあえず足を刈るつもりで振るった剣は、あっさりと敵――群青の強化鎧骨格レイピルの持つ曲刀に阻まれた。激しい金属音が謁見の間を揺らす。
『随分とぬるい剣だ。私はチャドラほど与し易くはないぞ』
「なんの、小手調べだよ!」
敵の曲刀に膂力が乗ったのを機体からのフィードバックで察して、切り結ぶことはせずに後ろに2歩飛ぶ。一瞬後、斬り上げられた曲刀が旋風を巻き起こしてアーゼェンレギナを揺らしたが、何とかたたらを踏むことなく耐える。
でけぇ図体のくせになんて動きだ。身長2倍くらいあるのに剣の振りは速度変わんなかったぞ。慣性の法則はどうした。魔法で如何様にもねじ伏せられる? それはそう。
こちらが体勢を立て直すより先に、レイピルがその巨体を一歩進めた。振り上げたばかりの剣を鮮やかに閃かせての切り落とし。慌てて機体の頭を引っ込めるように距離をとる。クソ、感覚が狂うな……! 間合いが取りづれぇ!
『どうした、まだ始まったばかりだぞ。私の首を獲ると息巻いたのは、虚言だったか?』
「煽りよる!」
刃渡り5メートルはあるでけぇ剣を小枝みたいに振り回してんじゃねぇ! わかっちゃいたがパワーが違いすぎる。そのパワーに裏打ちされたスピードも!!
『フン!』
「ぐっ、おぉ……!」
どうしても躱しきれないと判断した一撃を仕方なく剣で受ける。どぎつい衝撃がコクピットを揺らした。後席で姫が小さく悲鳴を上げるが、かかずらう暇はない。シートベルトだけは締めといてくださいよ……!
しかしがっぷりと切り結ぶ羽目になってしまった。これはよくない。踏みしめた脚部の接地面を中心に、床にクモの巣状のひびが入る。仕上げ材として張られていた石材の破片が舞った。機体がぐんと沈み込む。
ウィドー王が愉快そうに発する。
『力比べか、面白い』
『腕部、腰部、脚部のアクチュエータ、限界ラインだ。このまま続けると人工筋肉が破断するぞ!』
「わかってるよ、クソ!」
オティカのありがたい報告に悪態をついて、刹那思案する。なるほど、オリジナルのゲルベロッサの言っていたこともわかる。ウィドー王は巧い。マシンパワーでただ押し切るだけでなく、そこに歴とした剣の技が乗っている。いなして逃げるにしても、二の太刀で斬られるんだ。こっちの退路を的確に潰してきやがってからに! ただでさえ俺は感覚派だから先読みとか苦手なんだぞ!!
「だらァ!!」
とはいえこのまま力比べしたって勝てっこねぇ。俺は剣の柄を固く握っていたマニュピレータを脱力させ、半身になりながら踏み込んだ。剣は捨てる。どうせ半ばまで刃が潰れて使い物にならなかったしな。あの曲刀の切断力がそこまでじゃなかったのは救いだった。
でも脅威には変わりない。前面増加装甲すれすれを巨剣がよぎる。軽く擦過したか、火花が散った。衝撃もすごいが、構ってられない。まごまごしてたらそのまま横薙ぎに繋げられて胴体が泣き別れになる!
俺はレイピルの股下を潜るような軌道で機体をスライディングさせながら、すれ違いざまに抜いた手斧で弁慶の泣き所をフルスイングした。身体拡張による操縦と言っても流石に痛覚まではフィードバックしないが、それでも二足で大地に立つ強化鎧骨格にとって、脚部はコクピットブロックのある胴体に次いで重要なブロックだ。足を潰せれば――完全でなくてもいい。少しでも不具合を齎せられれば――今後の立ち回りがぐんと楽になる。
もちろん重要なブロックであるだけにその堅牢さも一線を画すものがあるのだが――。
「ウッソだろ!? ふざけてんじゃねぇぞオイ!!!」