「っ……! テメェーはダイテツジンかよ!!」
悪態を吐く。レイピルの股下をスライディングで潜り、勢いのまま転がって地に片腕をつく。四肢のバネを総動員して、変形ヘッドスプリングの要領で機体を跳ね起こした。その勢いのままトンボを切って距離をとる。レイピルは動かない。背を向けたままだ。こちらが体勢を整えたのを見て、ようやくゆっくりと振り向く。舐めやがって。余裕のよっちゃんってか。
残念ながらその通りだ。なんだそのバリヤーふざけんじゃねーぞ。
触った感じ、
なんにせよまずあのバリヤーをどうにかしないと、こっちの攻撃は届かない。どないせーっちゅうねん。
『ダイテツ……ああ、なるほど』
ウィドー王は少しだけ思案するようにしてから、得心したように含み笑いを零した。何がなるほどだよ畜生。
俺はそれに反応を返さず、斧を腰に戻して槍を手に取る。特に伸縮機能とかついてない長柄の槍だ。パイクってほど長くもない取り回しのいい槍で、ランスっていうよりはスピアな感じ。てかさっきのスライディングで引っかからなくてよかったなコレ。運は俺に味方してるらしい。
機体のペイロードから予備電源呪符を引き抜く。即席で回路を書き換えて槍の穂先に溶接した。水魔法のちょっとした応用だ。ひゅんひゅんと振り回して外れないことを確かめる。ん、即席にしちゃあ上出来だ。びしりとその穂先をレイピルへと向けた。
その間3秒。先ほどの応酬からすれば致命的な隙を、ウィドー王は興味深げに眺めるだけで手出しをしてこない。舐めてるんじゃなかったら何を考えてやがる?
『ふ、器用なことだ。おおかた、風魔法でバリヤーを中和しようという腹だな?』
「正解だよ、ちくしょうめ。得点の代わりに槍をくれてやる」
『くく、フィールドランサーか。面白い、受けてたとう』
「そうそう、フィールド……ん?」
こいつなんかすげー変なこと言わなかった今? しかし思案している時間はない。今までの静観が嘘だったかのように、レイピルが躍りかかってきたからだ。
『どうした、隙だらけだぞッ』
「ンなろァ!!」
振り下ろされた曲刀の横面を槍の柄で叩いて逸らし、踏み込んで間合いを詰めながら股関節の隙間を狙って槍を突き出す。デカいだけあって狙いやすいのはありがたいね。そのほか全部最悪だけど。
突き出された槍の穂先がにわかにエーテルの光を帯びて、レイピルのバリヤーに接触する。
『ほう!』
「らァ!!」
これは……行けるか? 何とも言えない手ごたえが返ってくる。槍の穂先は確かに敵の機体表面に達したが、突きの速度は減じている。そのわずかな到達の遅れが、着弾点を誤らせた。関節を狙った突きは装甲へ。そして速度の減じたへなちょこ突きでは、レイピルの堅牢な物理装甲を貫けるほどの威力が出ない。
穂先が装甲表面で無様に火花を散らした。傷一つついていないのは嫌味だろうか。
槍を引き戻すより先に垂直に跳躍する。直後足元を曲刀が擦過した。刃を振り切ったレイピルは既に次の攻撃モーションに繋いでいる。空中で身動きが取れない俺は格好の的だ。もちろんそのままやられるつもりはない。槍を翻す。石突を床に突き立てて、棒高跳びよろしくさらに跳躍する。天井が高くて助かった。飛び越すときにレイピルの狼面と目と目が合う。くそ、敵ながらイケメンだなぁ!
『ふんッ!』
「なんのォ!!」
空中で反転する俺を狙った斬撃に槍を合わせる。レイピルの膂力を推進力に変えて吹っ飛びながら、くるくると宙がえりして速度を殺す。着地。同時に踏み込み。床の石材が舞い散るのを置き去りに、広がった間合いをまた詰める。
『馬鹿の一つ覚えというのだッ!』
「どうかなァッ!!」
迎え撃つレイピルの曲刀。それを真っ向から槍のフルスイングで弾く。
「長柄はこういう使い方だってできらァ!」
『なんと!』
びりびり痺れるようなフィードバック。弾いた槍をくるりと回し、今度は薙ぎ払った。先端の速度は突きのそれ以上。中和分を差っ引いたバリヤーのキャパを優に上回る運動エネルギーが、したたかにレイピルの向う脛を打った。
激しい金属の衝突音。俺はスーパーアーゼェンレギナの全身に力を漲らせた。各所の人工筋肉がぴぃんぴぃんと悲鳴を上げて、関節のアクチュエータが火を噴く。
それでもかまわず、振りぬく。群青の装甲表面に傷こそつけられなかったが、しかし初めて、レイピルの巨体がたたらを踏んだ。同時に、くの字に折れ曲がった槍を投棄。腰に下げたハンドアックスを再び引き抜き、敵の浮ついた軸足を刈るように打ち付ける。
「オティカァ! 予備電源呪符にバイパス繋げ!!」
『なにを――いや、完了した。予備電源、残り1』
仕事が早くて助からぁ。斧に直接電源呪符をくっつけてる暇はねぇ。バイパスされた電源呪符からのエネルギーを斧刃に流して、現場合わせでやってやろうじゃねぇかよオイ! 斧刃周辺のエーテルを掌握して、人力でバリヤーを中和する。そんなこと常人にできるワケがねぇって? エーテル甲種一級取扱者舐めんなオラァッ!!
「獲ったッ!」
斧刃がバリヤーを引き裂く感覚。そして、着弾。フルスイングでたたきつけられた手斧は、その刃を深々とレイピルの向う脛に突き立てた。