ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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2-24 ティエスちゃんは評価する

「えー、ではこれより、今演習の評価を行う」

 

「敬礼ッ」

 

 副官の号令でビシッと敬礼する面々を眺めながら答礼するティエスちゃんだ。全員これ以上なく晴れ晴れした顔をしてやがるな。特にニアなんて天井にとっつくくらい鼻を高くしてやがる。その鼻っ柱叩き折ってやろうか。あ、ハナッパシラ君は座ってていいからね。

 

「さて、諸君も知っての通りだと思うが、まず今回の状況をおさらいしよう。副官」

 

「はっ。我々の勝利であります」

 

 おいてめーら外人4コマのオチみたいなリアクションしてんじゃねぇ。一応真面目な場だかんな??

 俺は聞こえよがしに咳払いをした。

 

「まじめにやれ。二度は言わすなよ? 浮かれるのはデブリーフィングの後にしろ」

 

「はっ、申し訳ありません中隊長殿。ではあらためて、今回の演習の状況を振り返りましょう。まずは開始直後から。ニア小隊長」

 

「はい」

 

 副官の進行に従って、ニアが起立した。天井まで届いてた鼻がつっかえて折れやしないかハラハラしたが、どうやらなかなかの柔軟性があるらしい。ニアは勝ち誇ったような顔を無理やり神妙な表情でカバーしながら口を開いた。

 

「開始と同時に本機が先行。ピーター機、トマス機、ハナッパシラ機が支援砲撃を開始。陽動と奇襲を兼ねた伏兵としてハンス機が演習区域を大回りして仮想敵機の背後をとるルートをとりました」

 

 なるほど、やはり本命はニアで、ハンスはワンチャンス狙いだったか。報告をつづけるニアの言葉を、俺は黙って聞く。

 

「本機とハンス機で仮想敵機を挟撃する算段でしたが、本機が間合いに入る前にハンス機が撃墜されたため、事前の取り決めによりプランB……本機による仮想敵機の足止めに作戦に移行。結果、本機の損傷甚大なれども仮想敵機を釘付けにすることに成功し、ハナッパシラ機のロングボウによる狙撃を成功せしめ、仮想敵機の撃破に成功しました。以上となります」

 

「ありがとうニア小隊長、着席したまえ。……報告に相違なしと認めますが、中隊長から追記等あればお願いいたします」

 

 この短期間でまとめたにしては上出来、といった具合の報告書と照らして、過不足もなければ誠に遺憾ではあるが間違ったことも書かれてない。俺は短く嘆息してから応えた。

 

「特にないな」

 

「では、評価に移りますが……よろしいですな」

 

「ああ、始めよう。まず結果から話すが、俺から見た戦術評価としてはB-ってところだ。ハンス、なぜかわかるか」

 

 俺の評価が思いのほか低いことに、ここに集まった面々の示す反応は大きく二つに分かれた。ですよねーみたいな雰囲気を醸している副官、トーマス、ハナッパシラ君と、不服そうな顔をしているニア、ハンスである。

 とりあえずハンスに水を向けてみると、ハンスは数秒考えこんで、ポンと手を打った。

 

「味方殺しが前提の作戦だったから、スか?」

 

「ああ、それもある。この作戦、考えたのはニアだな?」

 

 おう、なかなか的を射たこと言うじゃねーの。普段はちゃらんぽらんなくせしてこう言うところはちゃんと頭が回るやつだ。まあ、そうじゃなきゃ選抜隊に組み込んでなんかいねーわけだが。

 というわけでハンスには頷きを返し、次に立案者と思しき人物に目線をやると、ニアはしれっとした調子で口を開いた。

 

「ええ。立案者は確かに私ですが、今回の演習における最善手であったと自負しています」

 

「本当にそう思うか?」

 

「……何を、おっしゃりたいんです?」

 

 念を押してみると、ニアは負けた奴が何フカしとんじゃボケと言外で雄弁に語りながら鋭い視線を向けてくる。まったく、こういう態度の節々から悪役令嬢みが抜けてねーんだこいつは。テッテンドット卿にお手紙出しちゃうぞ?

 俺は大きく息を吐いてから、その目をまっすぐ見ながら言葉をつづけた。

 

「まず第一に、ハンスが言ったようにこの作戦は味方殺しが前提であったこと。演習でしか使えねー作戦をやってどうする。何のための演習だ」

 

「むっ」

 

「第二に、とどめの差し方が運ゲーすぎる。この作戦のためにわざわざ貫通力の高いロングボウを選んだのはいいが、対人戦闘には隙が大きすぎる。それを他の二機の支援でカバーしたとしても、強化鎧骨格を一機貫通した後の勢いの落ちた矢で標的に致命傷が与えられるかは、かなり運が絡んでくるだろ」

 

 ロングボウというのは、そのまま強化鎧骨格が引けるサイズにまで大きくした弓矢だ。習得には杖による射撃の比じゃないほどの訓練が必要で、よっぴいてひょうと放つ独特のルーティンには手数が必要であり、弾数も少なく、携行にもかさばる。しかし熟練の射手が使えば、その射程と破壊力においてはゆうに杖を凌駕する。そんな感じの玄人向けの武器だ。俺も魔物退治ではよく使うが、対人戦だとよっぽどじゃない限り隙が多くて使い物にはならない。

 今回ハナッパシラ君が使ったのはその中でも長射程高威力な大弓である。使うまでわからなかったのは、おそらく魔法で不可視化していたからだろうな。火魔法か、水魔法のちょっとした応用だ。

 

「魔法による強化を十全に行えば、その貫通力は強化鎧骨格二体を穿って余りあると判断しました。それは中隊長殿がよくご存じでは?」

 

 ニアは一歩も引かないわよ! と言いたげな態度でなおも食い下がる。なるほど、ワイバーン退治のときのを参考にしたな? 確かにあの時はニアも俺の隊にいて間近で見ていた。だがなぁ。

 

「それこそ不確定要素だろ。あのなぁ、俺はエーテル取扱者甲種一級もちだぞ? そんじょそこらの輩とはエーテル操作の精度が違う。ましてやその時、俺でさえ撃った瞬間に弓はおろか腕まではじけ飛んだんだ。あの時俺がおやっさんにどれだけ絞られたかはお前も知ってんだろ。ハナッパシラ君に多少の心得があったとして、撃つ前にはじけ飛ぶ可能性だって十分あったんだ。ぶっつけ本番強化弓は博打が過ぎるって言ってんだよ」

 

「むむっ」

 

「そんで第三。人員配置が滅茶苦茶だ。特にハンスの使い捨てっぷりがひどい。もっと有効な使い方は十分あったはずだ。それこそ、近接の挟撃にこだわらず十字砲火でもさせてれば、俺はもっと動きにくかったぞ」

 

「それはっ……その、ハンス分隊長が強く志願したから……」

 

「えぇっ、俺っすか!?」

 

 答えに窮して味方を売ってんじゃねーよ。大丈夫か第4小隊は。ハナッパシラ君に期待するしかねーか……。いや、いつもはここまでいこじというか、なりふり構わないような奴じゃないんだけどな。だいぶ気負ってるらしい。んもう。俺は盛大にため息をついた。

 

「……以上の理由から、今回の演習評価はB-とした。異論あるやつはいるか?」

 

「むむむっ」

 

 何がムムムだ、なにが。唸るしかできなくなったニアをしり目に、俺はメンバー全体を見渡す。特に異論のあるやつはいなさそうだ。なんだ、つまらんな。俺が口をとんがらせていると、おもむろにトーマスが挙手をした。え? トーマス? 意外なところから意見が出たな。俺が目線で促すと、トーマスは顎髭をなでながら静かに口を開いた。

 

「異論はありません。評価は甘んじて受け入れますが……ところで中隊長殿。今回の勝負、我々の勝ちということで、よろしいかな?」

 

 そういって、ナイスミドルはにやりとニヒルに笑んだ。うーんいぶし銀。俺は大きく長い溜息を吐きながら、へなへなと机に突っ伏した。

 

「それはぁ……その通りでしてぇ……」

 

 勝敗に関してはぐうの音も出ないティエスちゃんであった。

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