ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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2-27 ティエスちゃんは訓練する(ダイジェスト)③

3.机上演習

 

「……と、いうわけで。敵地のど真ん中で孤立して周りをぐるり囲まれているわけだが。――ここから入れる保険があるんですか?」

 

「入れる保険があったとして、まずここを抜け出して手続きに行かねばなりませんなぁ」

 

 選抜隊のみなとデコを突き合わせているティエスちゃんだ。現在卓上に広げたフィールドマップに赤青黄色のコマを置いて机上演習中。

 机上演習――つまり実際に作戦をやる前に、それがどの程度有効かをシミュレーションしようってヤツやね。まぁランダマイザーには10面ダイス×2を使ってるし、割とゲームライク。真面目な演習ではあるんだが、やってることはウォーゲーム(ボードゲームの一種。TRPGのご先祖)みたいなもんだ。

 ちなみに当初は「友軍の宿営地に詰めていたところ敵軍から奇襲攻撃を受ける」というシナリオだったのだが、現在はニアが5連続ファンブルという奇跡を起こしたため「友軍内でクーデターが勃発し、同宿営地に詰めていた友軍がクーデター勢力に呼応。ついでに敵軍もクーデター軍に加担して大量増援。どの方角に逃げても敵だらけ」というなかなかに頭痛のする戦況に陥っている。

 

「ほんとお前、ダイスの女神から寵愛受けすぎだろ。いやまあ、お前に振らせたら状況が引っ掻き回されて面白くなるかな、と思って任せた俺にも責任はあるんだが」

 

 部屋の隅っこで小さくなってるニアに水を向けると、ニアはむむっと眉間にしわを寄せて口を尖らせた。

 

「深く反省してくださる?? というか、ここまで破滅的な状況じゃ演習の意味もないでしょ。仕切り直しを具申するわ」

 

「諦めたらそこで試合終了だぞ? 俺の好きな言葉の一つに、「死力を尽くして任務に当たれ、生ある限り最善を尽くせ、決して犬死にするな」というのがある。いいか、俺たちはプロフェッショナルだ。もし万が一これとおんなじ状況に陥ったとき、仕切り直しを具申したところで通るものかよ。よって演習は続行する」

 

「むぅ……」

 

 一時期ドハマりしてたPCゲームからセリフを拝借したが、こっちで軍人ってのを経験してみると真に迫った言葉だよなーとなる。まぁあの世界よりはよっぽどのんびりしてるがね。

 とにかく俺がぴしゃりと具申を突っぱねると、ニアも納得したようで引き下がった。しぶしぶ。まぁ第4小隊は()()()()隊だから、ウチの中隊だと唯一人間相手の実戦経験がない。魔物相手よりよっぽどおっかない人間について、感覚的につかめていないところがあるんだろう。メイビー。

 

「しかし演習を続行するとしてこの状況、さてどう切り抜けますかな」

 

「それな。お前ならどうする?」

 

 トーマスが実に面白そうに言う。楽しくお仕事できるのって素敵だよね。というわけで水を向ける。おらっ建設的な意見出せ!

 

「そうですな。このまま守勢に回ったとてじわじわ削り取られるのが目に見えておりますし、敵中突破して友軍の勢力圏まで撤退するほかありませんな」

 

「脳筋だなぁ、同意見だが」

 

 しかし、じわじわね。俺たちの戦力評価値がずいぶん高いことを実感するぜ。普通の奴らがこの状況に陥りゃ、一瞬ですりつぶされて終わるだろう。これくらいホネがあったほうが面白いまであるぜ(虚勢。

 

「となると、どこに逃げる? 候補としては距離的に一番近い友軍基地、ちと遠いが友軍本拠地、ずいぶん遠いが自国領ってとこだが」

 

「友軍基地は状況次第でクーデター軍に寝返っている可能性があるので、まず除外。友軍本拠地は規模が規模ですから、丸ごと掌握されているというのは考えにくいとして逃げ込めば確実にクーデター勢力との戦闘で矢面に立たされるでしょうなぁ。自国領まで逃げるのはあまりお勧めできません。強化鎧骨格の航続距離をオーバーします」

 

「となると友軍本拠か……なぁ、一つ思いついたんだが」

 

「なんでしょう」

 

 トーマスが片眉を上げて聞き返す。器用なやつだ。ミスタースポックの真似ができるな。俺はいたずらっぽく口の端を吊り上げた。

 

「いっそ近隣友軍基地に逆侵攻して獲っちまうってのはどうだ? 最初からその気なら、基地がクーデター軍の巣でも問題ねーだろ。やることは一緒なんだから」

 

「机上の空論はそのへんで」

 

 トーマスはそっけなく切って捨てた。なんだよぅ。つれねぇなぁ。と、そこでハンスが挙手してから発言した。

 

「ハイ中隊長ー。どこ逃げるにしても、まずこの囲みを突破しなきゃなんスけど」

 

 とらぬ狸のなんとやら、と言いたげなハンスである。毎度のことながら言葉は軽いが中身はちゃんと入っているので感心するな。お前絶対いつか「俺バカだからわかんねーけどよ……」とかいうだろ。言いそう。

 まあそれは置いといてだ。なに、その辺はもう答えは出ている。

 

「そこはほら、ガツンと当たって後は流れで何とかなるだろ」

 

「ですな」

 

 俺とトーマスがうんうんとうなづく。ハンスとついでにニアはドン引きした。副官はやれやれと肩をすくめる。

 

「机上演習の意味ェ……」

 

 ハナッパシラ君が宇宙猫状態になってた。なんでやろなぁ。

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