ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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1-7 ティエスちゃんは喫茶店がお好き①

「ん~~~マンダム」

 

「いっつも言ってますけど、それなんなんです?」

 

「大した意味はねーよ。めちゃうま! みたいな意味だと思っとけ」

 

「はあ、左様で……?」

 

 病院内のカフェーでマスターと小粋な会話を交わすティエスちゃんだ。リハビリセンターと病室を結ぶ経路にある喫茶店は、最近の俺のお気に入りである。リハビリで受けた苦痛をここで癒していくワケやね。コーヒー一杯200マギカくらいなのもリーズナブル。

 

「にしてもいい豆使ってんなー。ほんとにこれ200マギカで出しちゃってもいいのかよ」

 

「お、わかります? 砂糖大匙5杯もぶち込んでるのに??」

 

「そりゃわかるわ。中隊長にもなるとそういう良いものを無理やり飲み食いさせられる場にも出向かなきゃならんわけよ。で、なんて豆?」

 

「帝国のイエローサブマリンです。ご存じ?」

 

「イエサブぅ!? 超高級銘柄じゃねーか!? 何で200マギカで出せてんの!?」

 

 帝国産のイエローサブマリンと言えばこの世界のコーヒーの王様だ。末端価格で100グラム50000マギカはくだらない。というか高級官僚とか領主、王侯貴族あたりと縁がないとそもそも卸してもらえないような代物だ。そりゃうめーわけだわ。ちなみにイエローサブマリンという名前に黄色い潜水艦という意味はない。偶然って怖いね。

 

「いやあ、ここ、軍病院ですからね。そういう仕入れの払いは軍なんですよ。試しに発注してみたら通っちゃって」

 

「うちの会計はザルなのか???」

 

「もちろんあとでこってり絞られました。エライゾ卿が間に入ってくださったので、なあなあになりましたが。まあこんな機会は二回と無いでしょう。それが最後の豆ですね」

 

 フットワーク軽いなあのオッサン。しかしそうか、最後の一杯を砂糖漬けにしちまったのか。そう考えるとちょっともったいないことしたな。

 ああそうそう、マギカってのはこの国の通貨単位で、価値は大体日本円と同じだ。1000マギカもあれば食堂でトンカツ定食が食える。

 ちなみにトンカツという料理はこの世界にはないが、似たような別物はあるので便宜上トンカツとする。そういや最近トンカツ食ってないな。

 

「トンカツくいてぇなー……」

 

「急にアンニュイな顔して何かと思えば。食事制限はないんでしょう?」

 

「いやそうだけどさ、割とどっさり出てくんのよ、病院食。軍病院だからなのかは知らんけど」

 

「軍人さんなんだから、トンカツくらいおやつでは?」

 

「お前さんが軍人をなんだと思ってるのか小一時間問い詰めたいところではあるけど、まあほら、普段はともかくここ最近運動ってほどの運動をしてないだろ? 気になるんだよな、体重とかさ」

 

「中隊長さんも意外と乙女なんですねぇ」

 

「意外ってなんだ意外って」

 

 カウンターに片肘を突きながらにらんでやると、マスターはけらけらと笑った。

 

「体重を気にするわりには、毎回パフェを食べていかれるもので」

 

「しかたねーだろおいしいんだから」

 

「そりゃどうも。たまにはパフェをやめてトンカツにしてみては? たぶんカロリーそんなに変わりませんよきっと」

 

「トンカツとパフェなら、パフェなんだよなぁ」

 

 言うまでもないが俺は甘党である。もちろん肉も好きだが、どっちか選ぶならぎりぎりパフェが勝つ。この世界、砂糖がめちゃめちゃ安いんだよな。しかも白砂糖。末端価格で1キログラム50マギカくらいで取引されてる。俺は王子ではないけれどアイスクリームを召し上がることができるわけだ。

 

「それにここのパフェさぁ、うまいんだよ他と比べて。クリームが繊細っていうか……甘すぎないけど甘くなさすぎもしないちょうどいい絶妙な甘さとか……フルーツの瑞々しさとか……」

 

「おほめに預かり光栄です」

 

「何でこんな片田舎の辺境領の、しかも病院の喫茶店なんかやってんの? 王都の一等地狙えんだろ。下手すりゃ王族御用達だろ」

 

「うわめっちゃ褒められてる。いやぁ、サ店は道楽みたいなものなんでね。自分の両手で賄える範囲を超えると、ろくなことありませんから」

 

 マスターはずいぶん遠い目をした。こりゃなんかあったな。触らんとこ。

 

「さよけ。まぁいいんだけどな。俺が退院するまでここで店やっててくれればさ」

 

「ま、しばらくはここにいますよ。――さて、完成。お待ちかねのパフェですよ」

 

「よッ、まってました!」

 

 ことりとカウンターにパフェが置かれる。純白のアイスクリームとホイップクリームを極彩色のチョコスプレーと木苺のソースが彩り、突き立てられた果物がその艶姿を惜しみなく見せびらかしている。てっぺんに鎮座するチェリーはさながら王冠のようだ。一種の芸術品と言っても過言ではない完成されたシルエットに、俺はよだれが滴るのを我慢できなかった。

 ――いや、もう難しい言葉はいらないな。うん、俺はスプーンをとった。

 

 やったー! ぱふぇだー!

 

 Going back to the juvenile。心は原始へ還る――

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