ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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4-16 ティエスちゃんは愚痴る

「それで、ハラグロイゼ卿はいったいどのくらいまで掴んでおられるのです?」

 

「はて、なんのことやら」

 

 すっとぼけやがってぇ。ため息ついちゃうティエスちゃんだ。いいところで茶会を切り上げた俺は記念式典の開会セレモニーが行われる統合府庁舎まで姫を送り届け、護衛騎士としての初任務を遂行したのちライカ君に護衛の任を引き継ぎ、そしてホテルにとんぼ返りして王国軍外交使節団として再び統合府庁舎を訪れていた。二度手間ァ!

 現在俺とハラグロイゼ卿、そしてミッティは開会セレモニー前の臨時打ち合わせという名目で、使節団のリムジン内で三人きりである。若い? 男女が密室で三人きり、何も起きないはずがなく……ということで、密談中である。気密(・・)に関しちゃ風魔法のプロフェッショナルがいるからな。心配はいらんだろう。

 俺は久しぶりに顔を合わせた風魔法のプロことミッティにもジトりとした目を向けた。

 

「そんな顔されても、わたしも知りませんよー」

 

「ほんとかよ。顔を見ないと思ってたら、ずいぶん暗躍してたみてーじゃねーか」

 

「やだなー、暗躍なんてしてませんよー。私、しがない医官ですよー?」

 

 ミッティはさも心外とでも言いたげな表情で、初めて会った時から変わらないどこか間延びした口調で答える。ちなみに今は当人が「しがない医官」を自称しているのでタメ口だが、本来の御身分はエライゾ領主家の一の姫である。近々親戚になる予定。今でも信じらんねーな……。

 さて、こんなすっとぼけたことを言ってるミッティだが、俺の人身売買契約書にしれっとサインしてる以上は暗躍してないなんてのは嘘っぱちである。まぁどうせ追及しても領主の名代がどうのみたいな話で煙に巻かれるんだろうが。まったく食えない人物である。

 

「ミッティ嬢には私から言って協力してもらっただけなのでね、そう彼女を責めないでやってくれ」

 

 ハラグロイゼ卿の仲裁の言葉も白々しい。さすが森域くんだりまで来たかいがある。どうやらここには俺以外、人語を解する狐か狸しかおらんらしいな。

 

「しかし、困りますよハラグロイゼ卿。ただでさえ森域訪問中はオーバースケジュール気味なのに、他国の姫の警護なんてやってる暇は」

 

「それだがね。基本、イセカイジン卿には親善試合の個人戦以外、リリィ姫の警護を第一として動いてもらう。これでスケジュールには大幅な余裕が生まれたはずだね?」

 

「だとしても、事前に話は通しておいて頂きたい。報連相しましょうよ報連相。社会人の鉄則じゃないですか。そういう、心臓がキュッとなる感じのサプライズはいらんです。……それに、よろしいので? 小官はこれでも王国の兵、ひいては国王陛下に剣を捧げた身です。一時的な措置とはいえ、護衛騎士(・・)というのは……いささか不義を働いているように思えてならんのですが」

 

 俺は盛大に愚痴った。だいたい、わざわざ護衛騎士にする必要あったか? 護衛任務でいいだろう。騎士ってつく以上、いっときながら俺は二君に仕えることになる。これ、意外と重い話だ。あんまり褒められたことじゃない。別に俺は心から王様に対して忠誠を誓ってるわけじゃあないが、体裁的にはそういうコトになってるし、だからこそ王国から禄も出てるわけで。こう、世間体的にあんまり、なぁ?

 

「仕方がないさ。森域の領内で森域の姫を王国の兵が警護するとなると、建前上だけでも姫の指揮下に入っている必要がある。多くはないが、前例もある。卿の心理的障壁はわからないではないがね、そう重く考える必要なないよ」

 

 ハラグロイゼ卿が肩をすくめて見せる。まぁ、建前は大事なんだろうが……。前例があると言われてしまうとこっちも強弁しづらいところではある。軍隊もしょせん公務員、前例がモノを言う世界なのだ。

 

「良いじゃないですかー、お姫様の護衛騎士なんて、なろうと思ってなれるもんじゃないんですから―」

 

「きらくにいってくれるなぁ」

 

 能天気なミッティの言に苦虫噛み潰しフェイスになる。そういやこいつもお姫様だが、こいつにも護衛騎士とかいるんだろうか。……いないような気がする。大体いつも一人だしな。今回の一団には数名の医療チームが同道しているが、ミッティと絡んでいるのをあまり見たことがない。もしかしてこいつ、ぼっちか? かわいそ……。

 

「急に悲しそうな顔になってどうしたんですー? 訳もなくイラっとするんですがー」

 

「いや、その……なんだ。俺はお前のこと、友達だと思ってるからよ」

 

「??? はぁ、ありがとうございますー?」

 

 ミッティは頭上に疑問符を浮かべた。ま、友達だと思ってるのはそんなに嘘じゃないぞ。入院してた頃からの仲だしな。俺のトモダチ認定基準は割とガバガバである。

 

「うむ、仲良きことはよきことなり。そろそろセレモニーの開会時間だ。我々も出るとしよう。というわけでイセカイジン卿、護衛騎士の件、頼んだよ」

 

「は。小官も軍人の端くれ、下された命令には諾々と従いますが……しかしほんとに、ナニを掴んじゃったんです?」

 

 懐中時計をトントンしながら、ハラグロイゼ卿はリムジンのふかふかシートから立ち上がった。俺は敬礼して答えた後、未練がましく最初の質問を繰り返す。ハラグロイゼ卿は少しだけ考えてから、フ、と微かに笑んだ。

 

「さてね。ただ、卿の働きが格別な重要さを持つことだけは確かだ。励みたまえ」

 

 結局、クリティカルな部分は何も教えてくれないまま、ハラグロイゼ卿は下車してしまった。なんだかなぁ。

 茶会の時に浮かび上がっては散らした陰謀の影がまたもや形を成そうとしてきたので慌てて振り払うと、車を降りた俺はリムジン前で律儀に整列していた部下たちのもとへと向かった。

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