ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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4-24 ティエスちゃんは姉御と会う②

「ふぅん、なんだい。えらく勿体つけるから何かって身構えてりゃ、そのことかい」

 

「ご存じ……なのですか!?」

 

 そりゃご存じだろうなあ。半笑いのティエスちゃんだ。現在やくざの姐御と姫様とを交えて楽しくガールズトーク中。オーディエンスがちょっとばかし物騒だがね。今はちょうど姫が悲壮感と覚悟たっぷりに賢狼人(みうち)叛乱(オイタ)についてつらつら述べ終わったところで、対してガメッツィーゼから返ってきたのはつまらなさそうな鼻息ひとつである。

 俺は気楽なもんでヘラヘラしていると、ガメッツィーゼが聞こえよがしに溜息を吐いた。

 

「ティエス・イセカイジン、アンタもヤキが回ったもんさね。自分の頭を選べるくらいには、利口だと思っていたんだがね」

 

「ま、宮仕えのつらいところでね」

 

 俺がかたをすくめてみせると、ガメッツィーゼはフンと鼻を鳴らした。

 

「……ガメッツィード・ファミリーは森域の流通の一切を仕切ってるからね。そりゃ、そんな派手ことをすりゃ、カネの流れですぐわかっちまうもんさ」

 

「それは、理解しています。ですが、ならばなぜ――」

 

「だよなぁ。知ってたんなら妙な話だ。連中の粛清リストには、しっかりゴブリンの名前が載ってるはずだぜ? ずいぶんのんびりじゃねーか、ガメッツィーゼの姐御さんよ」

 

 ガメッツィーゼが聞き分けのない子供に噛んで含めるような、多分の嘲りを含んだ声音でいうと、姫が苦虫をかんだような声をあげる。俺は無礼を承知で姫の言葉をさえぎって、剣呑な色を乗せた視線を姐御に送った。

 

「あんたはいったい、どっちの味方だ?」

 

「それを聞いて、どうしようってんだい?」

 

「そりゃまぁ、返答次第によっちゃここで始末するけど」

 

「ハン、簡単に言ってくれるね」

 

「そう難しいこっちゃねーからな」

 

 ぶわりと周囲が殺気立つ。俺はけらけらと笑って、無防備に頭の後ろで手を組んで見せた。あからさまな挑発である。後ろで姫が息をのむ声が聞こえる。

 さすがのガメッツィーゼも険を強めて厳めしく俺をにらみつけてきたが、その程度のプレッシャーなんぞそよかぜみたいなもんだ。俺はへらへらと半笑いを浮かべたままである。そんな一方的なにらみ合いはしばらく続いたが、ふいに終わった。

 

「やめだ、やめ。茶番は仕舞だよ」

 

 ガメッツィーゼが長く長く息を吐き、舌打ちをする。その一声で周囲から立ち上っていた殺気は嘘のように霧散――依然として殺気を放っていた若い衆は年寄りにぶん殴られて静かになった――し、どこか不貞腐れたような空気が場を支配した。しかし茶番ねぇ。たしかに俺も、ここで事を起こす気は毛頭なかったとはいえ、茶番と断じられるとちょっとショックだ。演技力には自信があったんだがな……。

 ガメッツィーゼは不機嫌さを隠そうともせず、忌々し気に口を開く。

 

「誰の味方かなんて、答えるまでもない話さね。どっちもくそもない。アタシが味方をするのは唯一、アタシのファミリーだけさ」

 

「フ、その言葉が聞きたかった」

 

「ハン、何様だいアンタは」

 

 ガメッツィーゼはふかぶかと煙管をふかすと、悪態と共に盛大に浅黄色(シアン)の煙を吐き出した。

 

「賢狼の連中が兵を募っているのは承知の上だし、それに少数氏族の多くとオークの一派も加担しているのは承知の上さね。でも、それが何だっていうんだい?」

 

「それは、統合府における大事で……」

 

「森域全体のことなんざ知ったこっちゃないね。統合府がどうなろうと、アタシらゴブリンにはさしてかかわりのないことさ。アタシらよりもずっと寿命が長いくせに忘れちまったのかい? 昔の戦争のことはさ」

 

「あの頃とは、何もかもが違います。強化鎧骨格だって――」

 

 ガメッツィーゼは姫の抗弁を遮り、鼻で笑う。

 

「最後に男と女が一組残れば、アタシらの勝ちさね。それは今も昔も、そう変わらないと思うけどね?」

 

 その静かな語気に、姫は言いよどんでしまった。今でこそかしこぶって金勘定を生業としているゴブリンだが、その本質は数と繁殖力だ。群の強さという一点で、今でもゴブリンという存在は脅威なのである。装備の質を塗りつぶせるほどの、数の暴力。教養がある分、姫にはそれがわかってしまった。

 おおよそ、姐御の思惑は俺のにらんだ通りだ。とはいえなぁ。俺はひそやかにオティカに目をやる。

 

「なんだい、ティエス・イセカイジン。何か言いたいことがありそうじゃないか」

 

 それをガメッツィーゼは見とがめる。はー、さすが商売人だけあって目が良いぜ。俺は姫に目をやって、次にオティカに目をやり、最後にまた姫に目をやった。姫はそれで察してくれたようで、少しの逡巡の後、こくりと頷く。

 

「いやなに、そりゃあオタクらゴブリンっつー氏族は勝ち残るかもしれんがね。ファミリーとしてのていは保てねぇんじゃねーの? みたいな感想はあるにはあるが、一旦置いといて」

 

 俺は箱を脇によかすジェスチャーをする。ガメッツィーゼは器用にも片眉を上げた。俺はつづけた。

 

「そもそもな。”数”はもう、オタクらだけの専売特許じゃねーぜ?」

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