「あ、二回戦の結果がどうなったかは【2-0 深き森に魔女よ舞え】を読んでくれよな。いやぁカテル殿は強敵でしたね」
「いや開口一番から何!? 誰に何言ってんだよアンタ」
ちょっと次元の壁を乗り越えちゃうティエスちゃんだ。我ながらなに口走ってんだか。疲れてるのよモルダー。エルヴィン少年のキレのある突込みと胡乱な視線が心にいたいぜ。俺はやさしくエルヴィン少年の頭をポンポンした。
「てか、なんかずいぶん久しぶりにエルヴィン少年を見た気がするな……背ぇ伸びた?」
「いや、普通に朝会ってるだろ部屋同じなんだから。なぁホント大丈夫かよアンタ。なに? 変な薬でも打った??」
「打ってない打ってない」
「転んで頭でも打ったんスか?」
「どーせ拾い食いでもしたんでしょ」
「頭を打ったわけでも拾い食いしたわけでもねーって。ジョークだよ、ジョーク。笑って流せ」
ハンスとニアの入れた茶々をサラッと流す。あとで覚えとけよ。
現在、俺たちはキャリアビークルのキャビンにぎゅうぎゅう詰めになっている。面子は俺、副官、トーマス、ニア、ハンス、ハナッパシラ君の選抜隊メンバーとエルヴィン少年。整備班を代表しておやっさん、最近出番がなかったぶん裏でなにしてたかわかったもんじゃないミッティとイーサン、そしてホストのハラグロイゼ卿で豪華総勢11名の大所帯である。ちなみにビークルのキャビンは定格定員5名だ。キャパオーバーにもほどがある。体のデカい副官なんてなんか見てるだけで可哀想なくらい圧縮されちゃってるもんな。今後の行動を打ち合わせるために必要な最低限のメンツなんだがちょっと狭すぎるなこれ! とはいえこの森域で安心して密談できるほど防諜の整ってる場所となるとなかなか無いかんね。仕方ないね。それにしてもこんなすし詰めでも優雅に茶をしばくハラグロイゼ卿はさすがですねぇ! もう少し詰めてもらっていいっすかぁ!?
俺の心の叫びが聞こえてしまったのか、ハラグロイゼ卿は静かにティーカップを置いた。俺はあわてて居住まいをただした。
「さて。まずは二回戦の突破、ご苦労だったねイセカイジン卿」
「一回戦ほど容易くとはいきませんでした。王国の紋章にも傷をつけてしまい、申し開きのしようもなく」
「なに、むしろ箔が付くというものだよ。気に病むことはない」
「ありがとうございます」
「うん。――さて、諸君。集まってもらったのはほかでもない。今後の我々の行動について、少々本来の予定と差異が生じてしまった。ここから話すことは、一切の口外無用だ。口の重さに自信のないものは、退出してくれて結構」
などと、ひとまずジャブとして社交辞令を一通り済ませると、ハラグロイゼ卿は本題に入った。いつも通り意図の読めない微笑みをたたえた顔面だが、目にはいつも以上に剣呑な色が見える。
そのただならぬ雰囲気に副官は真面目くさって背筋を伸ばし、ハナッパシラ君が緊張に息をのみ、ニアがあからさまにげんなりとした顔をする。ハンスがそそくさと逃げ出そうとしたので、おっかない笑顔のトーマスに首根っこ掴まれて取り押さえられている。ここに集められた時点で逃げ道なんてねーんだ座ってろ。あとで説教な。
エルヴィン少年は俺場違いじゃない? みたいな顔をしてるが、我慢してくれ。忘れそうになるし本人も忘れてそうだけど少年って実はド級の要人なんだよね。むしろお前に話し通しとかないとまずいまであるの。
おやっさんは窮屈そうに腕組みをして、静かにハラグロイゼ卿が話しはじめるのを待っている。ミッティとイーサンに関してはまあいつものアルカイックスマイルですわ。内心なんてさっぱり読めんので考えるだけ徒労ですね。
そんな感じでまあ概ね平常運転な顔ぶれを一通り確認した後、俺はハラグロイゼ卿に小さくうなずいてキューを出す。ハラグロイゼ卿は優雅に頷きを返すと、しばらくの間をおいてから口を開いた。
「我々王国は、現賢狼人王党より王権を奪還せんとする賢狼王統軍を支持することを決定した。あわせて、現賢狼人王党を中核とした多氏族連合反統合府組織「野生の後継者」による反乱計画に対し、同軍と協調しこれを阻止する」
口調は静かだが、その内容は動乱も動乱である。室内には少なくない動揺がはしった。というかしれっと俺も知らない情報出てきたな。
「さしあたりその実働部隊として、諸君ら選抜隊には動いてもらうことになる。イセカイジン卿、よろしく頼むよ」
「ハッ!」
体に染みついた軍人のサガでビシッと敬礼しちゃったが、さーて本格的に忙しくなるぞ。トホホ。せっかくの旅行が台無しだよ~~!