ティエスちゃんは中隊長   作:永多真澄

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4-29 ティエスちゃんは三回戦①

「結局試合は出るんだな」

 

「しかたねーよ。まだ表立って動いてない連中を〆るほどの執行権は持ってねーからな。下手に動けば森域と王国の戦争になっちまう」

 

「いやだねぇ政治ってのは。整備班としちゃ、有事を前にあんまり機体を消耗させてほしかねぇんだが」

 

「なーに、無傷で勝ちゃあいいだけだ」

 

 明けて翌日、試合会場のピットでティエスちゃんだ。現在いつもの出撃前手続き中。あのあと当面の方針を打ち合わせたが、結局のところ今はまだ何も起こってない状況なわけでしばらくは表向き平常運転で、ということになった。まぁ俺は試合への出場とか各方面に折衝に出る姫の護衛とかでやることもりだくさんなわけだが。ひぇ~オーバーワーク。

 ほかの隊員連中はというとこれも平常運転だ。基本はゆるーく待機だな。森域についてから今までは一日のスケジュール消化したらあとは自由行動だったのが、自室待機になったくらい。ニアなどは観光ができなくなったことに対してあからさまに不満げだったが、ザマミロって感じ。結局俺は全然観光出来てねーかんな。道連れは一人でも多いほうがいい。

 ああ、仕事が増えた奴も若干名いる。たとえばトーマスと副官はローテでハラグロイゼ卿の護衛を務めることになった。今までは王都から連れてきたSPが身辺警護をしてたんだが、それに加わる感じだ。まぁあいつらならうまくやるだろう。特に心配はしてない。

 俺がサインした書類を返すと、おやっさんは肩をすくめた。

 

「昨日肩アーマー欠損させたやつが何言ってんだか。使える資材だって限られてんだ。勝つのは前提として、なるべく機体を傷つけんなって言ってんだよこっちは」

 

 あまりの物言いに、俺は半笑いになった。そこはふつー、機体は壊してもいいから勝ってこいとか言うもんじゃねぇ? いや言わんか。ここ、他国だしなぁ。祭典の賓客という立場で来ている以上それなりのバックアップは受けられるが、森域の強化鎧骨格は帝国のライセンス生産機なだけあって手に入る補修資材なんかはほとんど帝国式だ。センチとインチみたいな単位系から、ウィンドウズとマッキントッシュみたいなOSの違いなど、まぁ基本的に帝国(あっち)王国(こっち)では規格が違うわけだ。どっちがメートル法でウィンドウズかって? そりゃ王国だよ。

 なのでいざ整備! となったところで、まぁ装甲版のうわっつら程度なら水魔法を応用すれば互換性を気にしなくてもいいだろうが、内部機器や駆動系ともなるとそうもいかずこちらの手出しになる。イベント前の()()で要らぬ消耗をするのは、そりゃ避けたほうがいいわなぁ。

 ま、それはそれとして酷い無茶振りではあるがねー。

 

「へっ、無茶な注文つけやがる」

 

「無理じゃねぇだろ、あんたなら」

 

「トーゼンよ」

 

 俺はおそらく獰猛な笑みを浮かべ、おやっさんから起動キーを受け取る。おやっさんは「頼もしいねぇ」と苦笑い。おうとも、ティエスちゃんは頼もしいのだ。何せ王国陸軍の中隊長だかんな。

 キャットウォークから操縦席に滑りこむと、ハッチを閉鎖する。起動シーケンスが走り、身体感覚が拡張される。

 

「よーし。ティエス機、出すぞ」

 

『グッドラック』

 

 おやっさんのサムズアップで送り出される。さーて、第三回戦の相手はどんな奴かね。たしかオークだったか……へっ、腕がなるぜ。

 機体の集音マイクが、ピットの入り口から漏れ聞こえる熱狂を拾う。能天気に騒げるのもあと数日だけであることを知っている身からすると、少しの気まずさのようなものを覚えないではないが――まぁ、せいぜい楽しませてやろうじゃないか。今はな。

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