そして、目が覚めるといつもの部屋で寝ていた。どうやって家に帰り、ベッドに辿り着いたのか。思い出そうにも思い出せない。そうして登校する道すがら、坂柳有栖は、周囲の視線がいつもと違うことに気づく。
クラスメイトたちの視線は、何となく心配げで、中には目に涙を湛えたような表情を浮かべる者もいた。これまでの彼女にはなかった状況だ。自分が何かしでかしたのか、それとも何か大きな変化があったのか。しかし、どれも思い当たる節はない。
学校に着くと、いつものように教室に向かったが、途中で一人の生徒に呼び止められる。
「坂柳さん、大丈夫ですか?昨日のこと、覚えてますか?」
「昨日のこと?」坂柳有栖は首を傾げた。昨日の記憶はまるでない。まるで、一部が欠けてしまったかのようだ。
その生徒は、何かを言いたげに口を開きかけたが、結局何も言わずに立ち去ってしまった。ますます不安が募る。
授業が始まり、先生が登場すると、クラス全体が異様な雰囲気に包まれた。先生は厳しい表情で言葉を紡ぐ。
「昨日の特別試験、結果は皆さんもう知っていると思います。しかし、一部の生徒の行動が問題となり、再評価が必要と判断されました。特に、坂柳有栖さんについては、深刻な問題が持ち上がっています」
教室内がざわめく。坂柳有栖は自分の耳を疑った。自分が何か問題を起こしたというのか?しかし、記憶には何もない。ただ、この状況から逃れたい一心で、彼女は立ち上がった。
「先生、私は何も覚えていません。昨日のことは、全く……」
しかし、先生は温かい目で彼女を見据えた。
「坂柳さん、あなたは昨日、特別試験期間中に突如発狂し、その後意識を失って救急車で運ばれました。そのことを本当に覚えていないのですか?」
教室内が静まり返る。坂柳有栖は言葉を失った。発狂?救急車?そんなはずがない。だが、否定する言葉も、証明する証拠もない。彼女はただ、混乱と不安に満ちた眼差しで周囲を見渡した。
「申し訳ありません…その、頭がハッキリしてなくて…」
「坂柳さん、Cクラスの山内春樹があなたの理事長である父親の名前を出し、実家の金やコネで他クラスに賞賛表の買収を持ちかけていたことが確認されました」
「え……?は、ハァ!?」
関係した生徒の談によると、「俺は坂柳ちゃんの家に入る予定だから、今のうちから身の振り方を考えた方がいいぜ」などと──
先生の声が遠のいていく。山内春樹の起こした斜め上の行動が、坂柳有栖の意識を再びもぎ取っていった。
───────────山内side──────────
投票が終わる一日前、山内春樹はクラスメイトたちに囲まれ、緊張の面持ちで立っていた。彼の目には不安が満ちていたが、その表情は一変した。彼は突然、大きな声で宣言した。
「待てよお前ら!実は俺さぁ、Aクラスから賞賛票をもらう約束してんだぁ……だから、俺に票を集中させたら、他の誰かが落ちることになるんだぜ?よく考えて投票しろよォ──?」
教室内が騒然となる。誰もが驚き、困惑した表情を浮かべた。山内の言葉が本当なら、彼の退学は免れることになる。そして、それは同時に他の生徒の批判票数繰り上がりのリスクが高まることを意味していた。
山内はクラスの反応を見て、自信を深めたようだった。「ほら、見ろよ。坂柳との連絡先だ!俺が言ってることは本当なんだ!」
一方、Aクラスの坂柳有栖はこの情報を耳にして、冷静さを保とうと努めた。山内との間に票操作の取引があったことを否定できなかったが、彼が公にそれを暴露するとは思ってもいなかった。
「投票先を迷わせるのが狙いなら悪い手ではないわね」坂柳は静かに呟いたが、その声にはわずかな震えが含まれていた。
この暴露は空手形になるはずだった。実際には、坂柳有栖は賞賛票の取引を守らない。彼の頭はこの状況の悪化で覚醒し、自らの立場を守るため、そして周囲を惑わせるために、この取引を暴露したのだった。
そして、山内はこの上更に放課後に奔走した。堀北に吊し上げを食らったクラスでは、どれだけ足掻こうがもはや手遅れだ。ならば必然的に他クラスからの賞賛表を当てにする他ない。取引関係にあるAクラスが信用におけるかどうかとは別に、この坂柳という後ろ盾を最大限に有効活用して暴れることにしたのだった。