初めて見に行った後に書いた作品なので、現在の解釈や考察と違う部分がある可能性があります。
正確な数字が出ていないのであくまで憶測ですが、映画本編の水木は三十歳だと思っているので、それで書き進めています。
暑い、夏の日。
日本ではない、南方の異国の地。
肌を焼かんばかりに、ジリジリと照りつける陽の暑さ。
鼻腔を掠める、硝煙の匂い。
水木はよく覚えている。
これは十年前の、夏の日。
『貴様らは、御国の為に死んでいくのだ!国が勝つ為に死ねることを光栄に思え!』
その言葉を毎日聞き、その度にこう思う。
───死にたくない。
周りの兵士も、きっとそう思っていたに違いない。水木と変わらない、二十歳の男たち。将来やりたいことも、やり直したいことも、たくさんあるはずだ。一般兵士である彼らの目にすら、勝機など存在しない。
─────なぜ、上官はここまでする。なぜ、終わらせてくれない。
もう終わったはずなのに。水木の戦争は、まだ続いていた。
「ッ……!」
昨日も、今日も。ゲゲ郎は水木の呻き声で目を覚ます。
起き上がってみれば。水木は、酷く険しい顔を浮かべ、ぐっしょりと寝汗をかいている。はだけた肩から胸にかけての大きな傷跡を、痛みでも蘇ったのか押さえていた。
「嫌だ……死にたくない、死にたくない……」
か細い声で、懇願するように零す。木製の檻を難なく抜け出し、水木の傍へ寄った。
「殺せ……。俺を殺せェ……」
傷跡に置かれた手に、ゲゲ郎は手を重ねる。水木の手はすっぽり収められた。
「お主も、地獄を見てきた者か」
ゲゲ郎がポツリと、水木に語りかける。
「人は、どこまでいっても愚かじゃ。人同士でも争い、自分たちが生きる為に、他の生物の世界を壊し、我が物顔をする」
人間が大層嫌いだった頃を、ゲゲ郎は懐かしむ。人間のことを、見ないように、認めないようにしていたあの頃を。
見えている世界だけが真実じゃない。
妖怪にも人間にも、同じことが言える。
そう教えてくれたのは、ゲゲ郎の妻だった。
「儂らも、迫害されているからのう。何となくお主の気持ちはわかる。儂はまだ終わっておらぬが、終わったとしても、お主の心に痛みを残し続けている。その痛みが消えることは、永劫ないじゃろう。なんとも厄介なことじゃ」
水木は未だ夢の中で、戦争が続いている。
身体に受けた傷が癒えても、心はそう簡単に癒えない。飯を食うのが早いのも、きっとそうだと、ゲゲ郎は感じた。
争いは、何も生まない。生まれるとすれば、怒り、憎しみ、悲しみ。
だが、心を通わせられれば。喜びや楽しみが生まれる。怒りや憎しみや悲しみも、忘れられるか、あるいは共に背負えるか。
───岩子よ。お前が儂に教えてくれたこと。初めての人間の友である水木に、できるじゃろうか。
『大丈夫。あなたならできるわ』
そんな声が、聞こえた気がした。岩子なら、きっと。ゲゲ郎の背中を難なく押してくれる。
「水木や。お主の痛み、儂に教えてくれ」
ゲゲ郎が強く願って目を瞑る。しばらくすると、ふっと意識が遠のいた。
ジリジリと照りつける太陽。
鼻腔を掠める硝煙の匂い。
銃剣を手に敵軍へ突っ走る兵士たち。
その様子を、ゲゲ郎はすぐ近くの森から見ていた。
大勢の人間が、一斉に向かっていく。
その中に、水木がいた。怯えた目をしながら、後先も考えずに前へ前へ行く。周りの仲間が命を散らしていく中、水木は走り、戦う。
「殺せ……殺せ……」
紙一重のところで掠りもせず、砲弾も当たらない。当たれば死ぬ。当たらなければ、死ぬまで延々と戦わされる。これを地獄と言わず、なんと呼ぶか。
「俺を殺せェーーッ!!」
引きちぎれそうな心の叫びが、ゲゲ郎の耳に木霊した。
はたと気が付くと、少しだけ見慣れた畳の上。目の前には、未だに苦しむ水木。
「水木……」
ゲゲ郎は、何も言えなかった。水木があの時背負ったものが、大きすぎたからだ。たった二十年しか生きていない男が、背負えるものではない。それが未だに、水木にとって痛みとなって残っている。
───少しでも、儂はお前の痛みを理解できたじゃろうか。
ゲゲ郎は、ただ祈る。
───願わくば。友の終わらぬ痛みに。
「一筋の光でも見えんことを」
初めまして。Iris/イリスと申します。
最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。
自分自身の鬼太郎の世代は第5期なのですが、見事にゲ謎を見て沼ってしまい、現状7周をしてしまったぐらいにはハマってしまいました。
良いですよね、ゲ謎。
見事に狂骨になってしまいました。この魂も親父殿が導いてくれると思い込んでいます。
これらは全てオタクの狂言です。お忘れなさい。