「私は自由だぁああああ!」
夜の草原に響き渡る叫び声。
里から十分に離れ、追手がないことを再度確認した彼女はかつてない程の解放感を味わっていた。
周りの目がないのを良い事に叫びながら走り回る。
しばらくして落ち着いた彼女は背負っていたバックパックを地面に置き、その横に腰を下ろした。
木々に覆われて空が良く見えなかった里とは違い、視界に広がる満天の星空を堪能する。
「思えば遠くに来たものだな……色々な意味で」
ある日のこと、寝て起きたら彼女は黒妖精――ダークエルフの王女として転生していた。
レヴェリア・スヴァルタ・アールヴ。
それが今世の名であった。
この世界においてダークエルフとはエルフにおけるリヨス・アールヴの一族を起源としており、遥かな昔にアルヴの王森を出た者達が長い時の中で変質したものだ。
ハイエルフ特有の鮮やかな翡翠色の髪と瞳は金色となり肌も白から褐色に変わっている。
その特徴をしっかりと受け継いでいる彼女を一言で言い表すならば、金髪金眼爆乳長身美女黒妖精だ。
女神の如き怜悧な美貌に175
王女として日々を過ごしていた彼女が手紙を残して里を抜けた理由は主に3つある。
1つ目の理由は性的な問題。
レヴェリアの性的な対象は『基本的』には同性――女性である。
また前世で様々なエロに触れてきたことが原因であるのか、やたらと性欲が強い。
そこに追い打ちを掛けたのが同胞には美女美少女が多いことだ。
彼女達に手を出すわけにもいかずに生殺し状態であったが、王族としての体面は保たないといけない。
欲望を溜め込んだ彼女は美女美少女の大ハーレムを作ってやろうと決意した。
2つ目の理由はダークエルフのエルフに対する恨みつらみ。
神々が降臨するよりも前――それこそ数千年以上も昔のこと。
聖地であるアルヴ山脈をはじめ各地の聖樹をモンスターから守りきれないと判断したエルフ達は逃げ出して、彼らの代わりにダークエルフが多大な犠牲を払ったと伝えられている。
レヴェリアからすれば、そんな大昔のことを持ち出してエルフに対してあれこれネチネチ言っているのを聞かされるのは勘弁して欲しかった。
これには彼女が前世からエルフも大好きであることが大きい。
3つ目の理由は食事のメニューが山の幸ばかり、しかも味付けは薄めであったことだ。
令和の日本を生きた前世があるレヴェリアにとって美味しいことは美味しいのだが、満足感が得られるものではなかった。
ベジタリアンだったら楽園であったかもしれないが、あいにくと彼女はそうではなかったのだ。
なお、これらの理由を素直に手紙に書いたわけではなく、両親や同胞達が納得できるそれっぽいものを適当にでっちあげていた。
これまでのことを振り返っていたレヴェリアは空腹を感じた。
「……ああ、焼肉を食べたい」
口から思わずそんな言葉がこぼれ出た。
これまで50年も強制的な菜食主義的生活を強いられてきた為、今ならばkg単位で食べられそうな予感がしていた。
おもむろに彼女は立ち上がってバックパックを背負い、歩き出す。
目指すはアルテナだ。
彼の国ではエルフやダークエルフといった魔法種族を特に優遇してくれる学院系ファミリアが多いという。
戦闘だけでなくそれ以外のこともレヴェリアは学びたいと考えている。
ファンタジーな異世界に長命種として生まれたからには、そのアドバンテージを最大限に活かして様々な分野の専門家になってやろうという気概があった。
ハーレムを維持する為には収入源が複数あった方が良いという現実的な理由もある。
無論、腕っぷしの強さが物を言う世界であることは幼少期に理解できていた為、そちらの鍛錬もこれまで怠っていない。
彼女は王女という立場を最大限に活かした。
騎士達から長剣を得物とした近接戦闘、魔法に長けた者達から先天系魔法を学び、簡単なものは並行詠唱ができる程度にまで練度を高めた。
先天系魔法の中には扱いが特に難しく、現代では使い手がいないようなものが里には伝わっていたが、そういったものも全て独学で会得した。
なお、この時に閲覧した古文書の中には太古に精霊が扱っていた魔法という眉唾なものもあったが、詠唱と効果がはっきりとしていた為にレヴェリアは本物だと確信していた。
ところで、先天系魔法は『神の恩恵』によって発現する後天系魔法と比べて不安定で暴発しやすく詠唱も威力や効果が今一つの割には長い傾向にある。
一方、後天系魔法は個々人に合わせて最適化されている為に扱いやすい。
魔法種族であっても、後天系魔法を重用し先天系魔法は使わなくなるのが一般的だ。
そのことはレヴェリアも聞き及んでいた。
それでも先天系魔法に拘った理由は『神の恩恵』を得て発現する魔法は最大でも3つということに大きな不満を持った為だ。
多種多彩な魔法を自由自在に扱えてこそ魔導士だ、と彼女は強固な意思を持っていた。
「まずはどこかで焼肉を食べよう。焼肉屋がどこかしらにある筈だ」
己の未来に胸を弾ませながら、食欲を満たすことを優先するレヴェリアであった。
レヴェリアのヒミツ
夜寝る前に、ある事を最低でも3回は行っている。