転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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書類からは逃げられない

 

「……どうしてそこにいる?」

「あなたの隣が私の居場所だから」

 

 レヴェリアの問いかけにフレイヤはニコニコ笑顔で答えた。

 

 

 2人は宿で数日間睦み合った後に眷族達と合流したのは半月程前のことだ。

 合流後、自分達の関係についてフレイヤが説明した。

 

 眷族達からすれば、レヴェリアがフレイヤの最初の眷族であるだけでなく、寵愛を独占していることは驚天動地の出来事。

 驚愕する眷族達であったが、女神の神意ならばいかなる感情も飲み込んで従うつもりだった。

 しかし、フレイヤとしてはそれでは駄目だと感じていたからこそ、彼等彼女等に納得してもらう為に提案をした。

 

 それはレヴェリアと眷族全員が戦うこと。

 眷族達が女神の為に強い勇士たらんと互いに戦い合って研鑽を積んでいることから、強さを示すのがもっともよく理解してもらえるという考えによるものだ。

 またステイタス的にも技量的にもレベル差があったところで、彼女が勝利するという確信があった。

 

 この提案は事前にフレイヤからレヴェリアは聞かされており、また眷族達のレベルについても教えてもらっている。

 団長を務めているレベル4やレベル3の眷族が複数人いたが、彼女にとって格上との戦いは慣れたものだ。

 

 心身のズレを調整した後にフレイヤが見守る中で行われ、レヴェリアが勝利を収めた。

 勝因はスキルや魔法もさることながら、これまでの格上との戦いの日々により、ステイタスには現れない面でも彼女が飛躍的成長を遂げていた為だ。

 

 この戦いにより、眷族達はレヴェリアが女神の隣に立つだけの実力があると認めざるを得なかったのだが――何故かファミリアの団長職も譲られた。

 彼女は団長職なぞいらなかったのだが、フレイヤがそこで駄々をこねた。

 

 私をしっかりと見ていないと、何をやらかすか分からないわよ?

 

 いつかどこかで聞いたような脅し文句を出されたからこそ、レヴェリアは幾つもの条件を突きつけてフレイヤがそれを呑んだことで承諾したのだ。

 

 そのような経緯で団長となったレヴェリアであったが、彼女を待ち受けていたのは大量の事務仕事である。

 

「邪魔をするな」

 

 猫を掴むかのように、フレイヤは首根っこをひょいっと掴まれてソファに投げられた。

 可愛い悲鳴が聞こえてきたが、レヴェリアにとってはそんなことよりも目の前にある書類の山を処理するほうが先だ。

 

 書類仕事に追われるレヴェリアであったが、つい先日にレベル4となっている。 

 この10年で得た膨大な経験値をフレイヤは先の更新で全てを一度に解放せず、若干の期間を空けて段階的にランクアップをしたのだが――実質的な『連続昇華』と言っても過言ではなかった。

 

 特筆すべきはレベル2、レベル3は共にこれまで蓄えた経験値を使って、基本アビリティの熟練度がレベル1の最終ステイタスと同じ程度――もっとも低いものでも10000超えという馬鹿げた数値――にまで伸ばせたことだ。

 また【魔導】、【神秘】、【鍛冶】、【錬金】、【調合】、【彫金】、【剣士】の発展アビリティが修得できるようになっており、このうち【魔導】と【神秘】を彼女は選んでいる。

 残るものもランクアップ時に順次修得する予定であった。

 

 しかし、そういったことは事務仕事とは全く関係がない。

 フレイヤ・ファミリアはフレイヤがあちこちを気ままに巡る為、滞在先となる場所で適当な屋敷を借り上げての賃貸生活だ。

 だが、組織である以上は書類から逃れられず、団長ともなれば目を通す書類の量も種類も多い。

 

 そこで支障となるのは治療師としての仕事だ。

 フレイヤと結ばれたからといっても、レヴェリアは仕事をやめるつもりは今のところはない。

 人を助けることに生きがいを感じているという高尚なものではなく、社会的地位が高い太客がいっぱいいることからやめてしまうのはもったいないと感じている為だ。 

 

 怪我や病気でなくとも、レヴェリアの治癒魔法は疲労や体力の回復、精神の治癒・安定など幅広い効果がある。

 その為、リラクゼーションとして大変重宝されていた。

 

 団長となるにあたって、フレイヤに呑ませた条件の中には治療師の仕事は続けることや必要に応じてファミリアから離れて仕事に行くなどそういうものも当然にあった。

 さらに研鑽の為にも纏まった時間が必要となる。

 

 つまるところ、レヴェリアは超スピードでもって書類仕事をこなさなければならなかったのだ。

 

 

伴侶(オーズ)ー、私の伴侶(オーズ)ー」

 

 変な鳴き声を発して両手両足をバタバタと動かすフレイヤ。

 構って欲しい、とこれでもかとアピールする彼女に対して、レヴェリアは要望を出す。

 

「その伴侶(オーズ)にコーヒーとクッキーでも出してくれ。私の好みは知っているだろう?」

「もう! 仕方がないわね!」

 

 一転して機嫌を良くしてフレイヤは出ていった。

 彼女しかレヴェリアの好みを知らないというのは事実であり、まさしく彼女にしかできない事だ。

 

 ひとまず静かになったところでレヴェリアは書類をテキパキと処理していく。

 前任者はこれが嫌で自分に押し付けてきたのではないかと思いながら。

 

 その前任者は副団長に降格していたが、嬉々として他の眷族達と朝から夕方までフィールドを指定した殺し合い寸前の戦いを行って腕を磨いている。

 ここ最近はそのフィールドのことを戦いの野(フォールクヴァング)と呼び始め、新規入団者に対してフレイヤ・ファミリアの洗礼だのと言っている始末だ。

 

 この洗礼で傷ついた者達は、日中こそ専属の治療師や薬師の女性達が治療を担当しているが、夕方にはレヴェリアが纏めて治癒魔法を掛けて全快させていた。

 疲れを残すな、いざという時に使い物にならないと困るという団長としての判断であるが、団員達にとっては情けを掛けられていると思われてしまうのだからたまらない。

 かといって、団長としてはやらないわけにもいかないという二律背反だ。

 

 そこらのチンピラの方がまだ統率が取れているんじゃないか、とレヴェリアが思えてしまうくらいに、集団としてはまったく駄目であった。

 格下にはそれでも良いが、同格や格上にはあっさりと各個撃破されてしまうだろう。

 

 故に、レヴェリアは心に決めていた。

 自分に対して忠誠と奉仕精神と愛をもって接してくれる美女美少女をスカウトし、いずれは副団長や幹部に据えることを。 

 

 

 そんなことを考えながらも、書類を処理していたところフレイヤが戻ってきた。

 お盆にコーヒーとクッキーを載せながら。

 コーヒーの香りからレヴェリアの好きな銘柄であることがすぐ分かった。

 

「ありがとう」

 

 礼を伝えてコーヒーを受け取って少し啜る。

 フレイヤはその様子を見ながら、執務机の上にある書類を何気なく手に取った。

 細かい字がびっしりと書かれており、彼女は目を細めてすぐに戻した。

 

「書類仕事って大変そうね」

「少しは手伝えと思ったが、お前に手伝わせると確認の手間が増えるな」

「それって酷くない?」

「やろうと思えばできると言ってくれないのか?」

「それを言ったら本当にやらせるつもりでしょう? その手には乗らないわ」

 

 ふんぞり返るフレイヤに舌打ちをするレヴェリア。

 このやり取りすらもフレイヤにとっては楽しくて仕方がなく、レヴェリアもまた口では何だかんだ言うものの楽しいと感じている。

 そして、甘えたくなったフレイヤは椅子の背もたれ越しに抱きついてくるが、レヴェリアは好きにさせる。

 

「ねぇ、レヴェリア。オラリオに行きたいって思う?」

「何とも言えん。様々なモノが集まっているところやダンジョンは魅力的だが、ギルドに縛られたり他派閥とのやり取り、抗争を仕掛けられたりなど面倒も多い」

 

 渋い顔で答えるレヴェリアにフレイヤとしても頷いてみせる。

 そんな彼女に今度はレヴェリアが問いかける。

 

「どうして急にそんなことを聞く?」

「実は1週間前、あなたが仕事でいない時にゼウスからの使者、ヘルメスが手紙を持ってきてね。オラリオに来て救界(マキア)に参加して欲しいって。しばらくしたら返事を聞きに来るって……」

「どうして今まで黙っていた?」

「私なりに考えていたからよ。纏まったから、あなたの意見を聞きたいと思って」

 

 なるほどと頷きながらもレヴェリアはゼウスの狙いについて指摘する。

 

「十中八九、私の治癒魔法が目当てだろうな」

「そう思うわ。あと、あなたが私の眷族で伴侶(オーズ)だってことはオラリオでも話題になっているみたい」

「どう転んでも面倒なことになりそうだ」

 

 レヴェリアは軽く溜息を吐きながら、フレイヤへと顔を向けてその唇を奪う。

 しばしの間、互いに求め合う。

 彼女達にとって、もはやこういうことは日常と化していた。

 

「参加してやる代わりに頂けるものは全て頂こう。突っぱねて、ゼウスやヘラの眷族が出てきて戦闘になると厄介だ」

「私も同じ意見だわ。あなたと世界を旅したいから猶予を貰うつもりだし、他にも色々と考えているの」

「太客達に説明する為にも、その猶予はちょうどいい。それだけはもぎ取れよ」

「もう治療師はやめてもいいんじゃない?」

「いずれはやめてもいいかもしれんが、今しばらくやめるつもりはない。稀少素材から別荘まで何でもくれるからな」

 

 俗物的なレヴェリアにフレイヤは口を尖らせるが、同時にそういう欲望がない彼女は『らしくない』と思えてしまうので悩みものだ。

 なお、アルテナの治療院に関してはイズンに料金を払い、維持を頼んである。

 思い出の場所である為、手放すという選択肢は最初からなかった。

 

「ま、いいわ。あなたの我儘を許すって決めたし……でも、ハーレムっていつになったら作るの? 何にもその兆候がないんだけど……」

 

 フレイヤとしてはその方が嬉しいのだが、レヴェリアが諦めたとも思えない。

 問いかけられた彼女はジト目でフレイヤを見つめた。

 

「時間がないんだ……」

「ふふん、諦めて私に溺れなさい。何でもしてあげるんだから」

 

 得意げな顔のフレイヤに溜息を吐きながら、レヴェリアは書類仕事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 救界(マキア)へ参加することを決めてから1ヶ月程が経ったある日のこと。

 ヘルメスが答えを聞きにやってきたのだが、彼は1柱の女神を連れてきていた。

 

 その女神を見たフレイヤは大慌てでレヴェリアのもとへ走っていき――情けない顔をしてしがみついた。

 

「ねぇ、レヴェリア。あなたも同席して。ヘルメスだけじゃなくてヘラも来たのよ……」

 

 仕方なくレヴェリアも同席し、交渉に臨んだのだが――拍子抜けすることとなった。

 

 ヘルメスもヘラも出された要求を全て呑んだからだ。

 何かしらの罠があるのではないか、とフレイヤとレヴェリアは疑ったものの、話を聞いているうちにレヴェリアのことを高く評価しているが為ということが分かってしまった。

 

 納得がいったところで、ヘラとフレイヤの間で契約が交わされた。

 これによってフレイヤ・ファミリアは10年後を目処にオラリオへ赴き、救界(マキア)に参加することとなった。

 

 

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