転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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落差

 

「待っていたぞぉ! レヴェリアぁ!」

 

 呪詛を使って強化した上で突撃をかましてきたアルガナを、レヴェリアはひらりと避ける。

 すれ違い様に彼女の頭を引っ掴んで、そのまま地面に叩きつけた。

 

「レヴェリアぁあああ!」

 

 アルガナからやや遅れて突っ込んできたのはバーチェ。

 彼女は全身に毒を纏うだけでなく、自身を中心として数M程にまで展開している。

 さながら毒の結界であるが、レヴェリアは物ともせずに彼女の腹へ蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 観戦していたアマゾネス達の反応は2つに分かれた。

 派閥大戦に参加した者達は、レヴェリアの実力が当時よりも高みにあることを本能的に感じ取り、舌なめずり。

 派閥大戦後に生まれた者達は、年長者達から色々と聞いていたとはいえ隔絶した差に驚愕する。

 

「『かかってこい、相手になってやろう』」

 

 テルスキュラの言葉でもってレヴェリアが宣戦布告をすれば、アマゾネス達は雄叫びを上げて突撃を開始した。

 殺到するアマゾネス達を武器も魔法も使うことなく、レヴェリアは1人1人叩き潰していく。

 全員を倒し終えたならば、治癒魔法でもって癒やしてまた叩き潰す――それを幾度も繰り返す。

 結果、アマゾネス達がどうなったかは言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

「久しぶりに……すごいはっちゃけた気がする」

 

 柔らかなベッドの上で、レヴェリアは大の字になって呟いた。

 アマゾネス達全員を何回もしばき倒して力の差を分からせた後、アルガナとバーチェの案内でこの日の為に用意したという場所へ。

 そこはテルスキュラとは思えない、高級宿の寝室であった。

 ただし、広さがちょっとしたホール並であり、多人数プレイを前提としていることが丸分かりであったが。

 

 レヴェリアの両隣にはアルガナとバーチェが満足そうな寝顔をしており、腰にはヒリュテ姉妹の面倒を良く見ていると言っていたセルダスが縋り付いて、穏やかな表情で眠っていた。

 彼女達だけとヤっていたわけではなく、ベッド近くの床には無数のアマゾネス達が折り重なって倒れていた。

 死んでいるわけではなく、ただ寝ているだけだ。

 大人数の色んなものが混じり合った臭いが部屋に充満しており、さすがのレヴェリアも顔を顰めてしまう。

 

 窓から差し込む光で今が昼間だということは分かるが、開始からどれくらいの時間が経ったのかが分からない。

 多人数を相手にしてもなお、レヴェリアは基本的に1人1人をとことん貪るタイプだ。

 一晩で済むわけがなく、さらに途中で食事とトイレ休憩が何回もあったので二晩以上は確実だった。

 

「2人を連れてこなくて正解だったな」

 

 こうなることは目に見えていた為、ヒリュテ姉妹は今回は連れてきていなかった。

 その事を納得してもらう為、レヴェリアはティオネとは帰ってきたらデートする約束をし、ティオナにはこれまでの旅路を話すことを約束していた。

 

 身動きが取れない、どうしたものかとレヴェリアが考えていると部屋の扉が開いた。

 入ってきたのはフレイヤであり、その後ろにはカーリーの姿があった。

 

「うわっくっさ」

「くっさいのぅ」

 

 顔を顰めて鼻を摘んだフレイヤとカーリーに、レヴェリアはアルガナやバーチェ、セルダスを起こさないよう細心の注意を払って起き上がった。

 起こしたら最後、再び襲いかかってくるに決まっていた。

 

「あれから何日経った?」

「八日」

 

 レヴェリアの問いかけに対して、にこりと笑って答えたのはフレイヤ。

 

「さすがに嘘だろう……?」

「本当じゃ。いやー、相も変わらぬ性豪っぷり。誰かしら孕んでいるといいんじゃがのぅ」

 

 信じられないという顔のレヴェリアに対して、カーリーが肯定しつつ己の願望を述べた。

 

「これくらいで孕むなら、レヴェリアには何百人も子どもがいるわ」

「それもそうじゃな……」

 

 フレイヤの否定に、カーリーはがっくりと項垂れた。

 

「それで、交渉はどうなった?」

 

 事前にフレイヤは自分がカーリーと交渉をするから、気兼ねなくアマゾネス達の相手をするようレヴェリアに伝えていた。

 その対価として帰りに寄り道することを要求し、レヴェリアは快諾していた。

 問いかけに対して、フレイヤが答える。

 

「あなたが定期的にやってきて鍛えてくれるなら、2人を改宗させてもいいって」

「妥当なところじゃろ。これまでずーっと放ったらかしていたんじゃからな」

 

 カーリーのもっともな言葉に対して、レヴェリアは深く頷いてみせたところでフレイヤが告げる。

 

「レヴェリア……とりあえず、お風呂に入ってきて頂戴」

「本当にくっさいからのぅ」

「あっはい……」

 

 2柱の言葉に、レヴェリアは素直に従った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふ、レヴェリア。どうだ? 私の身体は? 改めて、じっくりと味わってほしい」

「姉さんよりも私のほうが魅力的だ」

 

 湯船に浸かったレヴェリアの左右からアルガナとバーチェが抱きついて、その肢体を絡ませる。

 甲乙つけ難い肉感的な身体に、レヴェリアは良い気持ちになる――かと思いきや、そうはならなかった。

 備え付けの浴室も広く、もはや大浴場と言っても過言ではない。

 浴槽もそれに見合った大きさなのだが、人数が多すぎる為に芋洗い状態だ。

 

 レヴェリアが風呂に入ると言った時、アマゾネス達が1人で入らせるわけがなかった。

 レヴェリアのお世話をすると言い張って、全員ついてきたのである。

 勿論、どいつもこいつも風呂場でのそういうことを期待している顔をしていた。

 

 まったくけしからん、と自分のことを棚に上げたレヴェリアは、おもむろにバーチェの胸を鷲掴みした。

 喘ぎ声を上げ、身動ぎする彼女に構わず容赦なく揉みしだく。

 レヴェリアはこれまで最初の相手にバーチェを選んできた。

 クールな印象がある彼女を姉の前で快楽に染める――それはとても興奮するシチュエーションだ。

 

「もう一回、全員を倒してやるからな」

 

 決意の言葉を発したレヴェリアはバーチェの唇を強引に奪う。

 この言葉通り、彼女は10日間掛けてアマゾネス達全員が足腰立たなくなるまで徹底的に抱いたのだった。

  

 

 

 

 

 

 

 

 テルスキュラからの帰り道、レヴェリアとフレイヤはオラリオと正反対の方向にある遠く離れた港町にやってきていた。

 

 レヴェリアは毎月料金を支払ってヘルメス・ファミリアから都市外におけるオススメのデートスポットや美味しい料理の情報などを仕入れている。

 その情報によると、この港町にあるレストランの海鮮料理が美味い、街並みも雰囲気があって良いとのことで今回選定していた。

 

 目的のレストランは町中心部の大通りに面したところにあった。

 時刻は午前11時過ぎ。

 開店直後ということもあって客足は疎らであり、のんびりとした空気が漂っていた。

 2人があれやこれやといつものように他愛のない話をしていると、10分程で注文した料理が早くも運ばれてきた。

 

 そして、2人が料理に手を付けようとしたその時だった。

 レストランの外から悲鳴や怒声が飛び交い始めた。

 だが、2人が動じるわけもない。

 

「そういえばレヴェリア。最近、オラリオでこういう感じの騒ぎってないわよね?」

「シャクティ達が頑張っているからな」

 

 強さの平均値が上昇の一途を辿っているオラリオでは、秩序維持の為には相応の実力が要求される。

 その為、以前よりガネーシャ・ファミリアはダンジョン探索やダンジョン篭もり、そして希望者による合宿への参加など積極的に戦力強化に邁進してきた。

 その成果が実を結び、よっぽどの事(四派閥の上位陣が酔って暴れる)が起きない限り、警邏の団員達による即時鎮圧を成し遂げていた。

 

 

 そうこう言っているうちに騒ぎは大きくなる一方だったが、2人は何も気にせず昼食を取る。

 何なら追加で注文をしたり、互いに食べさせ合いをしたりと乳繰り合い始めた。

 

「あら、これ美味しいわ。レヴェリア、帰ったら同じものを作って」

「じゃあ、こっちのやつはお前が……」

「やだやだ。どっちもあなたに作ってほしい」

 

 そんなやり取りをしていた時だった。

 レストランの扉が乱暴に開かれて勝ち気そうな少女が、大人しそうな少女の手を引いて店内を駆け抜けていく。

 裏口から逃げるつもりだろう。

 

「ダフネちゃん!」

「カサンドラ! 頑張って!」

 

 少女達の後からは剣や槍などで武装した者達がやや遅れて追っかけてきていた。

 彼等彼女等は同じような服装であり、太陽のエンブレムをつけていることなどから、どこぞのファミリアであることが窺い知れた。

 

「退け退け!」

「邪魔だ!」

 

 怒鳴りながら武装集団は進路上のテーブルや椅子を蹴倒して、居合わせた客や従業員を散らしながら、逃げる少女達を追っていく。

 その様子を見てレヴェリアは思わず呟く。

 

「映画みたいだなぁ……」

「前々から言っているけど……あなたが見たり読んだりしたそういうの(前世のもの)、どうにかして再現してくれない? すっごく見たいんだけど」

「前々から言っているが、著作権団体が次元を超えて追っかけてくるからダメだな」

「前々から思っていたけど、著作権団体ってスゴイのね」

 

 その時、武装集団の中に筋骨隆々の巨漢を見つけたレヴェリアは小さな声で告げる。

 

「見ろ。身長200Cはありそうな、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ」

「あらホント。でも変態は可哀想よ。というか、変態はあなたでしょ」

「確かに私は変態だ。しかし、奴等も少女達を追いかけ回しているんだから、十分変態では?」

「……それもそうね」

 

 フレイヤが納得したところで、少女達が店内へ戻ってきた。

 2人が逃げていった方向から、青年が堂々と歩いてきた。

 彼もまた武装集団と同じような服装をしており、腰には長剣を吊るして太陽のエンブレムを身に着けている。

 その振る舞いなどから、彼が団長であるようだ。

 

「裏口だけではなく、このレストランの周囲は完全に包囲した。もはや逃げられん」

 

 青年の言葉に、勝ち気そうな少女は顔を歪め、大人しそうな少女は不安げな表情となった。

 

「何か始まったわね」

「何か始まったな。もしかして、これってサプライズショーとかそういう類のやつか? 町興し的な感じの……」

 

 やり取りを邪魔しないよう、レヴェリアとフレイヤは声を潜めてそんなことを話し始めた。

 

「アポロン様の寵愛を受けられるというのに、何故逃げ続ける? 理解できん」

 

 青年から発せられた神の名に、レヴェリアとフレイヤは互いに顔を見合わせる。

 そして、レヴェリアが尋ねる。

 

「アポロンって演劇もやるのか?」

「やるわ。文化的な活動を守護しているし。彼がプロデュースした演劇ならハズレはないから、安心していいわよ」

 

 そのようなやり取りを呑気にしている2人とは裏腹に、従業員達は物陰から事態の推移を見守ることしかできていない。

 アポロン・ファミリアと思われる連中は苛立っていることが窺える為、下手に口を挟めば厄介なことになりかねなかった。

 だが、そこへレストランのオーナーと思しき中年男性が慌ててやってきた。

 

「こ、これはいったいどういうことですか!?」

「店主か? すぐに済む。邪魔をするな」

 

 青年がそう言うも、オーナーからすれば納得できるわけもない。

 なおも言い募るオーナーに対して、手を出したのは青年ではなく口元を襟巻きで隠したエルフの男性団員だった。

 

 彼はオーナーを引っ掴んで手加減して投げる。

 投げた先は先程から小さい声であるものの、言いたい放題の女神とダークエルフのテーブルだ。

 どちらも美しいことは認めるが、アポロンに心酔している青年達は何とも思わなかった。

 

 アポロン・ファミリアの面々は当然ながらレヴェリアとフレイヤのことは耳にしたことがある。

 だが、アポロンが世界を巡っての出会いを求めた為、これまでオラリオに行ったことはなく、具体的にどのような容姿をしているかまでは知らなかった。

 金髪ダークエルフ、銀髪女神、どっちもすごく美しいとその程度の認識であり、さらに多くの団員達はアポロンこそがもっとも美しいと心から思っている為、詳しく知ろうともしなかった。

 何よりも、オラリオとは正反対の方向にある遠く離れたこの港町で、偶然2人が居合わせることなどほぼゼロに等しい確率だ。

 だからこそ、誰もその可能性を考慮しなかった。

 

 

 飛んできたオーナーをレヴェリアは素早く前に出て受け止め、ゆっくり下ろす。

 投げられた段階で怪我を覚悟していたオーナーは予想外の事態に目を丸くしてしまう。

 

「ふん、少しは良い動きをするようだな」

 

 そう言ったエルフの男性団員に対して、レヴェリアは肩を竦めてみせた。

 アポロン・ファミリアと追われていた少女達、レヴェリアがどっちに味方するのかは火を見るよりも明らかだ。

 彼女がどういう行動に出るか、フレイヤはワクワクしていた。

 

「女性の誘い方としては失格だ。彼女達のことは縁が無かったと諦めたらどうだ?」

「断る。我らが主神たるアポロン様が見初めたのだからな」

 

 レヴェリアの言葉に対して、青年が答えた直後だった。

 

「……分かった」

「ダフネちゃん……?」

 

 勝ち気そうな少女の声に、大人しそうな少女が名を呼ぶ。

 

「カサンドラ、これ以上はもう……逃げられない」

 

 そう告げてダフネと呼ばれた少女は、諦観の笑みを浮かべてみせた。

 都市から都市へ国から国へ。

 アポロンに目をつけられてからずっと逃げ続けてきたが、この状況ではもう逃げられそうになかった。

 何より、このままでは助けようとしてくれているダークエルフの女性が危険だ、という思いがダフネにはあった。

 

 これまでにも2人を助けようとしてくれた親切な人達はいた。

 だが、アポロン・ファミリアは歯牙にも掛けなかった。

 目の前に佇む青年――団長のヒュアキントスは若いながらも、レベル2に至っている実力者だ。

 彼以上の強さを持った眷族が、こんなところにいるわけがない。

 

「最初からそうすれば良かったのだ。思うところはあるが……アポロン様の望みとなれば、我等は喜んで迎え入れよう」

 

 ヒュアキントスの言葉にダフネは答えず、顔をレヴェリアへ向けた。

 

「ありがとう、助けようとしてくれて。でも、もういいんだ……」

 

 そう告げたダフネに対して、レヴェリアは微笑みを浮かべてみせた。

 そして、彼女はヒュアキントス達の前に立つ。

 まさかの行動に、ダフネは唖然としてカサンドラはハッと気がついた。

 

「黒き妖精が太陽を打ち砕く……もしかして……」

 

 昔から彼女は『予知夢』を見ることができると言って憚らない。

 それはダフネも当然知っていたが、あまりにも荒唐無稽過ぎて信じられるものではなかった。

 

「そこの男……ヒュアキントスはアポロン・ファミリアの団長で、レベル2だ。そいつ以外にもレベル2が何人かいる。アンタがどれくらい強いか知らないけど、敵う相手じゃない」

 

 ダフネは告げたが、レヴェリアは振り向くことなく答える。

 

「私も少しだけ腕に自信があってな。こう見えても、とあるファミリアで団長をしている」

「ならば、派閥間の抗争という形になるぞ?」

 

 その問いに対して、レヴェリアは不敵な笑みを浮かべて告げる。

 

「集団で少女達を追いかけ回し、力ずくで意のままにしようとする。そんな強姦魔みたいな連中が相手では抗争にもならん」

「貴様ッ! 我等を愚弄するか!」

 

 憤怒の形相となったヒュアキントスが長剣を抜き放った。

 彼だけではなくアポロン・ファミリアの面々は誰もが怒り心頭となって、各々が手にした得物を構える。

 

「謝罪したところでもう遅いぞ」

「ほう、私が謝罪すると思っているのか? 面白い冗談だな、気に入った。潰すのは最後にしてやる」

「ほざけ!」

 

 レヴェリアが言った瞬間、叫びヒュアキントスは動いた。

 力強く踏み込み、一息に斬りかかる。

 刃が目前に迫ってもなお、まだレヴェリアは微動だにしていない。

 勝利を確信したヒュアキントスは――激痛と同時に視界が真っ暗になった。

 

「うわぁ……すっごく痛そう」

 

 そんな感想をフレイヤは呟いた。

 斬り掛かったヒュアキントスに対して、レヴェリアは彼が視認できない程に早く動いて頭を引っ掴んで顔から床に叩きつけた。

 ただそれだけであり、彼女は剣すら抜いていない。

 

「潰すのは最後にすると言ったが、あれは嘘だ」

 

 そう言ってニヤリと笑い、レヴェリアは更に言葉を続ける。

 

「そういえば名乗っていなかったな」

 

 わざとらしく前置きして、彼女は己が誰であるかを告げる。

 

「私の名はレヴェリア。レヴェリア・スヴァルタ・アールヴだ」

「そして、私がフレイヤよ」

 

 レヴェリアの名乗りに便乗して、フレイヤは片手をひらひらさせる。

 しかし、誰もが予想外の事態に頭が追いついておらず、唖然としていた。

 

「とりあえずレヴェリア。彼を治してあげたら? 本物だって証拠にもなるし」

 

 フレイヤの提案に、レヴェリアは頷いて己の代名詞たる治癒魔法を流れるように詠唱する。

 黄金色のドームはヒュアキントスだけでなくこの場にいる全員を包み込み、あっという間に癒やし尽くす。

 

「……これが【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】。でも、どうしてこんなところに……?」

 

 レヴェリアの治癒魔法に驚きつつも、疑問をダフネは口にする。

 

「デートよ」

 

 胸を張って告げたフレイヤに、レヴェリアもまた頷いてみせる。

 とはいえ、それで納得できるのは2人のことをよく知っているオラリオの面々くらいである。

 

「ふざけるな! アポロン様が見初めた者達を横取りしようとやってきたのだろう!?」

 

 癒やされてすっかり元気になったヒュアキントスは起き上がって叫んだ。

 レヴェリアは困り顔で答える。

 

「悪いが、ここにいたのは本当に偶然なんだ。それはそれとして、どうするんだ?」

 

 その問いかけに、ヒュアキントスだけでなくアポロン・ファミリアの面々はつい先程のやり取りを思い出す。

 知らぬこととはいえ、『頂天』に対して盛大に喧嘩を吹っかけた。

 特にエルフの男性団員は――顔色を真っ青にして震えていた。

 圧倒的強者に喧嘩を売ったからというのもあるが、白の王族に次いで尊崇する黒の王族に対して無礼を働いたことへの恐怖だ。

 

 ヒュアキントスは悔しさと怒りのあまりに顔を歪ませる。

 レベル10相手にレベル2とレベル1の集団で勝利できると考える程、彼は愚かではない。

 だが、アポロンの神意を遂行できないということは彼――否、彼等彼女等にとって耐え難いことである。

 

 その時だった、出入り口の方から声が響いたのは。

 

「これはこれは珍しい! まさかこんなところで会えるとは!」

 

 そう言いながら入ってきた男神に、ヒュアキントス達は一斉に平伏した。

 その様子から男神の正体は明らかだ。

 

「久しいなフレイヤ、そして噂に名高い【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】。私がアポロンだ!」

 

 笑みを浮かべたアポロンは名乗った後、フレイヤではなくレヴェリアを上から下まで何度も視線を動かす。

 

「ふむ……なるほど、素晴らしい。フレイヤ、君が伴侶(オーズ)と公言しているだけのことはある」

「……アポロン、レヴェリアが欲しいと思ったでしょ?」

 

 レヴェリアを称えるアポロンに、フレイヤはニコニコ笑顔でもって問いかけた。

 しかし、目は笑っていない。

 フレイヤに対して、アポロンは肩を竦めてみせる。

 

「おっと、そんな怖い顔をしないでくれ。神ならば、そう思わない方が不自然だろう?」

「……まあいいわ。で、あなたの子達がそこの子達を集団で追いかけ回しているみたいだけど?」

「私の神意に従ったまでだ。2人を眷族として迎え入れたくてね」

 

 現場の状況から何があったか、アポロンとて理解している。

 自分の眷族達がレヴェリアに勝てる確率がゼロに等しいこともだ。

 しかし、自分が先に見初めたのだから2人を逃したくはないという思いもまた強い。

 

「何度も断ったのに、どうして私達につきまとうの?」

「私が気に入ったからだ」

 

 ダフネからの問いかけに、アポロンは胸を張って答えた。

 すると、そこへレヴェリアが口を挟む。

 

「やり方が気に入らないな。そういうのは本の中(二次元)だけにしておけ」

「これは手厳しい。だが、君やフレイヤとて私の気持ちは理解できるだろう」

「ええ、そうね。で、あなたが先に見初めたから手を出すなって事?」

 

 アポロンの言葉にレヴェリアは頷き、フレイヤもまた肯定を示しながら問いかける。

 我が意を得たり、とばかりに彼は大きく頷いてみせた。

 

「だ、そうよ。どうする? レヴェリア」

 

 問いかけながらもフレイヤにはレヴェリアの性格的に、どういう答えを出すかは予想がついていた。

 アポロンが追いかけ回すのではなく、日を空けてダフネとカサンドラの元を訪れて眷族になってほしいと粘り強くアピールしているのならば何も問題はなかっただろう。

 

「私は2人につくと決めた。勧誘したいというのならば、私を倒してからにしてもらおうか」

「私が先に見初めたのに、横からしゃしゃり出る……それはマナー違反ではないか?」

 

 眉を顰めて問いかけるアポロンに、レヴェリアは毅然と告げる。

 

「2人が拒んでいるのに、承諾するまでずっと付きまとう……それは天界では問題ないかもしれんが、下界ではマナー違反だ」

 

 レヴェリアの言葉に続き、フレイヤが口を開く。

 

「アポロン、私も2人のことがちょっと気になっちゃった。だから、いいわよね?」

 

 にこやかな笑顔で問いかけたフレイヤとは対照的に、アポロンは苦虫を噛み潰したかのような表情となるが、どうしようもできない。

 拒んだところで叩き潰されるのがオチであった。

 だが、タダでは転ばぬとばかりに彼は告げる。

 

「……致し方ない、2人は諦めよう。だが、対価として我が眷族達を鍛えてもらいたい!」

 

 噂によればレヴェリアの指導を受ければ、ほぼ確実にランクアップできるという。

 ダフネとカサンドラが手に入らぬならば、それくらいの対価は必要だと彼は考えた。

 

「いいぞ。ただし、オラリオに来てくれ。ここでやるよりも、その方が効率がいい」

「構わん。そろそろオラリオに行こうと思っていたところだからな」

 

 そう答えて、アポロンは踵を返した。

 ヒュアキントス達も彼に従うが、レヴェリアのことを親の仇とばかりに睨みつけてきた。

 だが、レヴェリアが意に介すわけもなかった。

 

 

 

 

「あ、あの……」

 

 アポロン達が出ていった後、ダフネはおずおずと声を掛ける。

 彼女達からすれば予想外の展開が連続して、まるで夢でも見ているかのようであった。

 

「その、ありがとう……」

「構わないさ。ところで名を教えてもらってもいいかな?」

「ウチはダフネ・ラウロス」

「カサンドラ・イリオンです……あの!」

 

 ダフネに続き、カサンドラも名乗ったところで彼女は更に言葉を続けた。

 

「実は私、『予知夢』を見ることができて!」

「ちょっとカサンドラ!」

 

 ダフネは脈絡のないことを言い始めた、ヤバい友人の口を慌てて塞ぐ。

 だが、レヴェリアにもフレイヤにもしっかりと聞こえた。

 

「……『予知夢』?」

「ああ、えっと、カサンドラは箱入り娘だったから、たぶんその弊害で……ただの妄言かと……」 

「ふむ。カサンドラと言ったな? お前の名は偽名などではなく本名か?」

「は、はい。本名です……」

 

 レヴェリアからの問いかけに、カサンドラは肯定してみせる。

 それを確認して、レヴェリアがフレイヤへ視線を向ければ彼女は頷いてみせた。

 嘘ではないという証だ。

 

「ちなみに、ダフネも本名だな?」

「そ、そうだけど……」

 

 何でそんなことを聞くんだろう、と不思議に思いながらダフネは肯定する。

 レヴェリアは再びフレイヤへ視線を向け、嘘ではないことを確認する。

 

 奇妙な巡り合わせもあったものだな、とレヴェリアは思いながら告げる。

 

「カサンドラの『予知夢』は予言のようなものだろう。それならば信じるに値する」

 

 レヴェリアによるまさかの宣言に、ダフネは驚きのあまりに大きく目を見開いた。

 対するカサンドラは喜色満面となった。

 どうしてレヴェリアがその判断を下したか、フレイヤはとても気になるが、まずは2人の処遇について尋ねる。

 

「ねぇねぇ、レヴェリア。2人はどうするの? うちに入ってもらうの?」

「2人の意思に任せる」

 

 レヴェリアの答えに、ダフネは再び驚く。

 

「ダ、ダフネちゃん……入ろうよ」

「ちょっとカサンドラ、信じてもらえたからって簡単に靡かないで」

 

 服の裾を引っ張って告げるカサンドラに対して、ダフネは戒める。

 

「その気になったら、うちのホームに来てくれればいい」

「……その気にならなくても、追いかけてきたりはしない?」

「しないとも。ただ、カサンドラの予言には興味があるから聞きに行くかもしれない」

 

 レヴェリアの言葉に、ダフネは肩を竦めてみせる。

 カサンドラの『予知夢』とやらは到底信じられるものではないのに、そこまでして聞きたいのが不思議でならなかった。

 

「しばらく考えさせて」

 

 ひとまず頭を冷やす時間は必要だ、とダフネは判断を保留するのだった。

 

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