転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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勧誘

「すごい、すごいぞぉ……」

 

 ナッセンがブツブツ呟きながら一心不乱に羽ペンでノートに書き殴っている。

 それを見ながら、バーダインは注文した特大バーガーにかぶりつく。

 マイペースな男2人とは裏腹に、レフィーヤとアリサはぐったりとしていた。

 

 つい先程、教師達による研究発表会が終わり、第7小隊の面々は『学区』内にあるオープンカフェにやってきていた。

 生徒が自主経営している店舗の一つだ。

 

「何なのよ、あの頂上決戦……」

「内容も凄かったんですけど、雰囲気もヤバかったですね……」

 

 アリサとレフィーヤが思い出すのは発表ごとに設けられた質疑応答の時間だ。

 

 素人質問で恐縮ですが――

 この分野には詳しくないのですが――

 聞き逃してしまったのかもしれませんが――

 初歩的な質問で恐縮ですが――

 

 発表者に対しての質問は、そういう枕詞から始まるエグいものばかりであった。

 実際、研究分野や専門領域が異なるとまったく分からないことは多々ある為、皮肉などではなく謙遜を込めた言い回しである。

 とはいえ、発表内容も質疑応答もレベルが高く、生徒達の知識欲を大いに刺激したのは間違いない。

 

「噂には聞いていたけど、レヴェリア様が一番ヤバかったわね」

 

 その理論を作ったのは私だが――

 

 最硬精製金属(オリハルコン)の生産に関連する発表にて、レヴェリアが質問する際に使った枕詞がソレであった。

 質問内容も本質を突いた鋭いものであったが、発表者は理路整然と回答していた。

 

「レヴェリア様からの質問だけでなく、発表とその後の質疑応答も……」

 

 レフィーヤの言葉に、アリサはウンウンと頷く。

 レヴェリアは最後の発表者であったが、最硬精製金属(オリハルコン)の生産効率化及び生産量の増大について発表していた。

 質疑応答はこれまでにない盛り上がりとなり、教師達からの様々な質問に対してレヴェリアは打てば響くかのように回答していた。

 

「先生達はすごいってことだな!」

 

 バーガーを食べ終えたバーダインが一言で纏め、アリサとレフィーヤは肩を竦めてみせた。

 そんな2人の反応を気にすることなく、彼は問いかける。

 

「ところでレヴェリア様の科目は……どれを取ればいいんだ?」

「戦技学科は戦闘系を取っておけばいいと思いますけど、それでも種類が多いんですよね」

錬金学科(うち)の場合、取りたいものが多すぎて……」

 

 そんな事を言っているとナッセンが呟くように言った。

 

「取れるものは全部取れ。夕方から夜間の開講だから問題ない」

 

 それができれば苦労はしねぇ、とバーダイン達はジト目を向ける。

 昼間に授業あるいは特別(ダンジョン)実習をした上で、さらに夜間にも授業となると中々にしんどいものがあった。

 レヴェリアの授業はナッセンが言ったように夕方から夜間にある。

 そちらのほうが生徒にとって時間の融通が効くという理由であるが、それ以外にも授業計画(シラバス)には載っていないレヴェリアならではの気遣いがあった。

 

「【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】は授業終了時、治癒魔法を掛けてくれる。翌日に疲労は残らないから安心しろ」

 

 バーダイン達は驚くが、ナッセンは溜息を吐いて言葉を続ける。

 

「だが、やはり質問は何度もできない」

 

 レヴェリアの授業を受講する生徒達からの質問はとても多い。

 彼女も素早く答えるものの、授業を進めながらでは限界があった。

 そして、授業後に聞きに行くことも難しい。

 同じことを考える生徒が多い為に。

 どうしたものか、と悩むナッセンに対して、バーダイン達はやれやれ、と溜息を吐いた。

 

「というか、私……レヴェリア様に魔砲使いって認識されちゃっているみたいなんですけど……」

「事実でしょ?」

「事実だな」

「お前の魔砲は凄いぞ!」

 

 アリサ、ナッセン、バーダインからの言葉にレフィーヤは項垂れた。

 しかしながら、その評価はマイナスなものではなくむしろプラスであることが分かるのは、2週間後のことであった。

 

 

 

 

 

 レフィーヤは予想外の事態に直面していた。

 午後の授業終了後、レオンから呼び出されて指定された部屋に向かったら――そこにはレヴェリアがいたのである。

 促されるままに彼女の対面にある椅子に座り、レヴェリア手ずから淹れた紅茶を出されたという状況だ。

 緊張でガチガチになりながら、手を付けないのも失礼だ、と考えて一口啜れば――

 

「美味しい……」

「それは良かった」

 

 思わず零れ出た言葉に、レヴェリアは微笑みを浮かべて答えた。

 何だか恥ずかしくなってきたレフィーヤは縮こまる中、レヴェリアが告げる。

 

「さて、今回お前を呼び出した用件は進路相談だ」

「進路相談……?」

 

 問い返したレフィーヤに、レヴェリアは大きく頷いてみせる。

 そして、彼女は言葉を続ける。 

 

「第7小隊の面々……バーダイン、ナッセン、アリサは希望があるが、お前はなりたいものが見つかっていないとレオンから聞いている」

「はい……」

 

 ずばりと指摘されて、レフィーヤは項垂れて、ついでに長耳もへにょりと垂れ下がった。

 バーダインは帝国の騎士、ナッセンはアルテナの研究者、アリサは『学区』の教師――といった形で明確に目標が定まっていた。

 一方のレフィーヤは特別(ダンジョン)実習で活躍できていることから、冒険者に興味があるという程度だ。

 幼い頃に妄想した、レヴェリアの弟子を『なりたいもの』として他人に提示するのはさすがに憚られた。

 

 そんな彼女に対してレヴェリアは告げる。

 

「レフィーヤ、もっと気楽でいいぞ」

「ふぇ?」

 

 予想外の言葉に、レフィーヤは顔を上げた。

 きょとんとした表情の彼女に対して、レヴェリアは告げる。

 

「何となく良さそうなものがあったらとりあえずやってみて、性に合っていそうなら続けてみるくらいのノリでいい」

「えぇ……いいんですか? そんなので」

「そんなのでいいぞ。まずはやってみる、コレが大事だ」

 

 なるほど、とレフィーヤは頷いて、おずおずと告げる。

 

「実は特別(ダンジョン)実習で、ダンジョンに潜るようになってから冒険者に少し興味があるんですが……」

「大活躍と聞いているぞ?」

「そ、それほどでもないです……」

 

 そう答えながらもレフィーヤは嬉しそうな様子を隠せない。

 モンスター達を一掃する彼女の火力は、ダンジョンにおいて小隊の面々から頼りにされていた。

 それによって得られる高揚を抑えることは中々に難しい。

 そして、それは当然レヴェリアも分かっていた。

 

「正直、モンスターを纏めて吹き飛ばすのは気持ち良いからな」

「レヴェリア様でもそう思われますか?」

「勿論だとも。お前の魔砲は誇って良いぞ」

 

 レヴェリアからそう言われたことで、レフィーヤははにかんだ笑みを浮かべてみせる。

 そんな彼女に優しく微笑みながら、レヴェリアは尋ねる。

 

「そんなお前に一つ提案したいのだが、フレイヤ・ファミリア(ウチ)派閥体験(インターン)に来ないか?」

「ふぇ……?」

 

 まさかの提案にレフィーヤはきょとんとした顔となったが、程なくしてその意味を理解して驚愕の表情となる。

 

「知っているかもしれんが、『学区』出身で四派閥に入団した者や私の弟子になった者はいない」

 

 レヴェリアの言葉に、レフィーヤはコクコクと頷いてみせる。

 

 レフィーヤも入学してから知ったことだが『学区』の生徒でレヴェリアの弟子になった者はこれまでおらず、生徒からは弟子を取らないんじゃないかという噂もあるほどだ。

 また『学区』の生徒が四派閥に入団したという事例もこれまでにない。

 他派閥と同じく四派閥も派閥体験(インターン)を受け入れているものの、そこから入団へは繋がっていなかった。

 ちなみに、ロキはバルドルを嫌っていることから個神的には受け入れたくなかった。

 だが、三首領から三派閥(ゼウス・ヘラ・フレイヤ)に取られてもいいのか、と散々に言われて渋々受け入れているという裏事情があった。

 

「他派閥はどうか知らないが、フレイヤ・ファミリア(ウチ)では学生であろうとも、特別扱いはしない。そのほうが派閥体験(インターン)時と入団後の相違(ギャップ)を最小限に抑えられるからな」

 

 実のところフレイヤ・ファミリアだけでなく、三派閥(ゼウス・ヘラ・ロキ)でも派閥体験(インターン)学生の扱いは同じであった。

 そして、ダンジョンに関しては圧倒的な経験不足であることを考慮して、様々な面で学生をサポートすることも四派閥で共通していた。

 

「その、どうして先輩達は入団できなかったんですか?」

()()()()()()ではなく、()()()()()んだ。私が言うのも何だが、四派閥の連中はどいつもこいつも世間一般の感覚や基準とはズレているからな」

 

 その言葉にレフィーヤは察してしまった。

 四派閥は合宿と称して数ヶ月にも渡って殺し合いのようなことを定期的にして、互いに高め合っている――そんな嘘みたいな本当の話は『学区』でも知られている。

 そんな連中ばかりの派閥が、世間一般の価値基準であるわけがなかった。

 

「もしかして、弟子入りした人がいないのも同じような理由ですか?」

「残念ながらな……」

 

 レフィーヤからの問いかけに、レヴェリアは表情こそ変わらなかったが長耳がへにょりと垂れた。

 気にされているんだ、とレフィーヤは申し訳ない気持ちになりつつも、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 

「ともかく、世間一般と価値基準はズレているが、性格的に変なのはあまりいない。それは間違いない」

 

 そこでレヴェリアは言葉を切った。

 そして、真摯な表情でレフィーヤの瞳を真っ直ぐに見つめながら告げる。

 

「たとえ相性が合わず入団に至らなかったとしても、お前を不利に扱うようなことはしない。私の名に懸けて誓おう」

 

 その言葉を聞いたレフィーヤは、少しの間を置いて言葉を紡ぐ。

 

「……分かりました。派閥体験(インターン)の希望を出してみます」

 

 希望を出したからといって確実に通るわけではない。

 学科の担当教師と主神による審査があり、レフィーヤの場合はレオンとバルドルが担当する。

 レヴェリアとてまだ決定ではないことは分かっていたが、それはそれとして決断してくれたレフィーヤに対して感謝を述べる。

 

「ありがとう、レフィーヤ」

「いえっ、こちらこそ……すごく嬉しい提案ですし!」

 

 レヴェリアからの感謝にレフィーヤがそう返したところで、今更ながらあることに気がついてしまった。

 

「ところでレヴェリア様、募眷族官(リクルーター)でもないのに……こういう勧誘って良いんですか?」

「問題ない。優先的にツバをつけられるよう、非常勤講師の報酬の一つとして『学区』の神々から許可を貰っているからな」

 

 非常勤講師の契約時にダメ元で要求したら、何故か通った――実情はそれであったが、そんなことはおくびにも出さずレヴェリアは澄まし顔で答えるのだった。

 

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