「な、な……なんですってー!?」
アリサは絶叫し、あまりの煩さにレフィーヤは両手で長耳を抑えた。
前回・前々回に会った時、レフィーヤから聞いたフレイヤ・ファミリアでの体験はどうにか理解できる範疇にあった。
だが、今回は彼女と会った瞬間から何かがあったと察してしまった。
その顔つきが以前よりも精悍なものになっており、また雰囲気も明らかにこれまでと違っていた為に。
幼い頃から憧れがあり、弟子にしてくれるかもなどと妄想していた彼女にとって、レヴェリアとレオンの戦いは大きな刺激となった。
これまでのアスフィ達との交流で弟子となった経緯や理由を聞いていたことも大きい。
憧れたから、というものから処女を貰ってもらう為に押しかけただの、楽して稼ぐ為だのとぶっ飛んだものまで様々だ。
幼い頃に妄想した事が本当に実現するかもしれない、と彼女は思い、より一層奮起したのである。
普通の派閥ならば根を詰めすぎていると諌められたり、強制休暇を命じられるところだが、あいにくとフレイヤ・ファミリアはそうではない。
本人のやる気があるならば、やれるところまでやらせるのだが、これはレヴェリアの方針によるところが大きい。
無論、必要な支援――ぶっ倒れた時の救護役の配置――をした上で。
そういった方針もあり、朝から深夜までレフィーヤは存分に学び、戦い、鍛錬に励んでいたのだが、世間一般の感覚や基準とズレつつあることに彼女は気づいていなかった。
にこやかな笑顔で語ったレフィーヤに対して、アリサ達は若干引いた。
24時間、戦えますか――?
そんな言葉が頭を過ってしまうくらいに、この1ヶ月間、彼女は戦いと勉強漬けであった。
「レフィーヤ、実際のところ……どうなんだ?」
「すっごく充実していますよ。分からないところとかできないところとかは皆さん、丁寧に説明してくれますし……」
バーダインの質問に答えるレフィーヤは無理をしているようには全く見えず、むしろ楽しそうだ。
そこでナッセンが問いかける。
「おい、レフィーヤ。もしかして『並行詠唱』はできるようになったのか?」
「それっぽいのは一応……ですが、そもそも私の詠唱速度が遅すぎます。カタツムリ並です。短文詠唱の【アルクス・レイ】なら、それこそ瞬きする間に唱えられるくらいになりたいんです」
ぐっと拳を握りしめて、やる気満々といった表情のレフィーヤ。
そんな彼女を見て3人の心は一つになる。
フレイヤ・ファミリアに染まりすぎている――!
かといって、レフィーヤが気負いすぎているわけではないことに気づいていた。
つまり、余計にタチが悪い。
「もしかして、四派閥への入団やレヴェリア様への弟子入りは……こういう感じじゃないと駄目なのかしら……?」
アリサの呟くような問いかけに、ナッセンとバーダインが同意とばかりにウンウンと頷いた。
そして、バーダインが単刀直入に尋ねる。
「レフィーヤ、フレイヤ・ファミリアに入団するのか?」
「はい。先程、バルドル様とレオン先生にもお伝えして許可を頂きました。フレイヤ様とレヴェリア様の許可も昨日のうちに……」
性質上、『学区』には区切りとなる入学卒業の式典はない。
生徒の進路が決まり、担当教師と主神の許可が降りればあっさりと卒業できてしまう。
レフィーヤとのやり取りで卒業するだろうという予想はできていたが、いざ伝えられると3人共に寂しさが湧き出てくる。
ルームメイトでもあるアリサはひとしおだ。
しかし、その感情をおくびにも出さず、彼女は元気良く告げた。
「それじゃ早速お祝いよ! レフィーヤ、今日は帰さないからね!」
「そうくると思ってましたので、その許可も貰ってきました」
アリサの言葉に対して、レフィーヤは答えるのだった。
これから数日後、レフィーヤは『学区』を卒業し、フレイヤ・ファミリアへ入団となった。
しかしながら、すぐにアリサ達との別れがくるわけではなかった。
ある日の深夜、レフィーヤは自室にて机に向かって勉学に励んでいた。
フレイヤ・ファミリアへ入団してから3ヶ月が経過しており、精力的にダンジョン篭りや模擬戦などをこなしていた。
直近のステイタス更新にて、彼女には大きな変化があった。
3つ目の魔法【エルフ・リング】の発現だ。
この魔法は同胞の魔法に限り、その詠唱と効果を完全に把握すれば己の魔法として使用できる稀少な効果を持つ。
重要であるのは、同胞にはレヴェリアも含まれることだ。
その為、彼女の速攻魔法【ボルカニックノヴァ】や治癒魔法【リーヴスラシル】だけでなく、再現魔法【グリモワール・オブ・メモリーズ】も使うことができる。
この魔法をレフィーヤが【エルフ・リング】でもって行使すれば、実質的に種族の縛りなく魔法が扱えることを意味している。
無論、精神力の消耗が激しい上に恐ろしく長い詠唱となって発動まで時間が掛かるなどデメリットも大きいが、それらを考慮してもメリットは極めて大きい。
その為、レフィーヤはレヴェリアから再現できる魔法をたびたび教えられていた。
一方、『学区』の
その為、レヴェリアが自身の助手という形でレフィーヤを『学区』に連れて行っていったり、休日にオラリオで遊んだりしており、わりと頻繁にアリサ達とは会っていた。
『学区』の出港前日に改めて卒業記念パーティーをするという予定まで組まれており、その時まで卒業した実感は沸かないだろうなぁ、とレフィーヤは考えていた。
「ふぅ……」
手を止めて、思いっきり伸びをして体を解す。
そして、マグカップに手を伸ばしてコーヒーを啜る。
深夜作業はコーヒーがいいぞ、私のオススメはこれだ――
以前、そう言ってコーヒーを渡してきたのはメルーナだ。
試しに飲んでみて美味しかった為、それ以来定期的に購入している。
こういった差し入れやオススメの商品紹介は
その時、扉が叩かれた。
レフィーヤが扉を開ければ、そこにはお盆にクッキーを載せた小皿とマグカップを持ったレヴェリアがいた。
漂う匂いから、マグカップに入っているのはコーヒーであることがレフィーヤには分かった。
「レフィーヤ、少し話さないか?」
「えっと、その……散らかってますけど……大丈夫ですか?」
「構わないぞ。今日もよく頑張っているな」
「あ、ありがとうございます! では、どうぞ……」
にこやかな笑顔で告げたレヴェリアに、レフィーヤは嬉しくなりながらも彼女を部屋へ招き入れた。
レヴェリアがレフィーヤを訪ねて、1対1で言葉を交わすことは
内容的には大したものではない。
互いの故郷のことや世界各地のオススメスポットといったものから、レヴェリアが里を飛び出した理由だとかこれまでの旅路だとか、そういったものだ。
一息ついたところで、レフィーヤは尋ねる。
「今日はレオン先生との戦いはいいんですか?」
「ゼウスとヘラの連中と戦っているから問題ないぞ」
なるほど、とレフィーヤは頷いて、ワクワクしながら尋ねる。
「レヴェリア様、今日は何のお話をします?」
「昔、私が大食い大会に出て優勝した話とかどうだ?」
「えぇ……」
レフィーヤは困惑した。
確かにレヴェリアはよく食べる。
スタイルの維持にはそれくらいのカロリーが必要であるのかもしれないが、まさかそんなことまでしていたとは予想外にも程があった。
「ちなみにステーキの早食いだ」
「あ、もしかしてエルフ限定の大会ですか?」
「いや、そういった縛りはなかったぞ。私、オッタル、ザルド、ベート、アリーゼが決勝に残った」
「何でその面子と早食いで勝ってるんですか……」
「私が『頂天』だからな」
ドヤ顔となったレヴェリアに、レフィーヤは呆れやら感心やら色んな感情が混ざって微妙な表情となる。
そんな彼女に対して、大食い大会が開かれた経緯をレヴェリアが伝える。
「私が負けるところが見たい、大食いなら勝てるだろう……という理由で私達が竜の間引きに行っている間に神会で決まっていた」
「しょーもない理由ですね」
「それが神だからな。確か、メルーナが来たのもそのくらいだったかな」
「メルーナさんもビックリしたでしょうね」
「観戦していたらしい」
「食事量=戦闘力という等式がメルーナさんの中で成り立たなくて良かったです」
レフィーヤは大食いファイターと化したメルーナなんて見たくなかった。
彼女の言葉にレヴェリアも同意してみせつつ、指摘する。
「だが、同胞達は肉を食べなさすぎる。栄養バランスが偏っていると思う」
「……そ、そうですね」
レフィーヤは肯定しつつも視線を逸らす。
その為、これまであまり食べなかった肉料理も含めて、ついつい食べすぎていた。
そのおかげで身長を含めて全体的に発育が良くなっている反面、体重は増加傾向にあった。
健康に成長している証である為に問題はないのだが、やはり乙女的に体重の増加は気になっていた。
彼女の様子に事情を察したレヴェリアは何も言わず、話題を変えていく。
そして、それからしばらくの間、2人は言葉を交わすのであった。