転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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小娘の我儘

 

「ねぇ、レヴェリア。あの姉妹に何をやったの? ヤバい薬でも飲ませたの? 怒らないから正直に教えて頂戴」

「悪いが、思い当たる節はない」

 

 フレイヤの問いかけにレヴェリアはそう答えた。

 彼女がどうしてそんなことを言い出したかというと、つい最近レヴェリアが連れてきたエルフとダークエルフの姉妹――ディナ・ディースとヴェナ・ディースが原因だ。

 

 つい先日、仕事帰りに寄った大陸最大の奴隷市場でオークションに出品されていたところをレヴェリアが5億ヴァリスで姉妹を競り落とした。

 

 アレクトという女神と激戦を繰り広げたが、相手が2億を提示したところで仕事明けでテンション激高であったレヴェリアが5億を提示。

 アレクトは化け物を見るような顔をしながら、大人しく引き下がったという事があった。

 

「じゃあ、どうしてあの姉妹はあなたのことをお姉様って言って慕っているの?」

「境遇が境遇だからな」

 

 辺境の地で両親と暮らしていたところ、犯罪系ファミリアに見つけられて両親を目の前で惨殺されている。

 そして、奴隷商に売られるまでの間、処女を散らさないよう細心の注意を払って徹底的に調教されたというのが姉妹の経歴だ。

 悲惨ではあるが、よくあることであった。

 

 そのような境遇にあったディース姉妹は主となったレヴェリアを間近で見るや、目を輝かせて懐いてきた。

 本人達に理由を尋ねれば、とっても綺麗で美しいから私達のお姉様に違いないという答えが返ってきた。

 世間一般的には理解を得られないが、彼女達の中ではしっかりとした道理があるらしい。

 

 精神が崩壊して捻れて歪んでしまった結果、綺麗であったり美しいものに心を惹かれるのだろうとレヴェリアは予想し、治癒魔法を掛けてみたが大して変わらなかった。

 彼女の治癒魔法には壊れた精神を元通りに復元する効果までは無いからだ。

 

 ともあれ、レヴェリアからすればディース姉妹は容姿や性格など大変好ましい。

 だからこそ彼女達を副団長にしたかったのだが、性格的に不向きである為に諦めていた。

 

「あの容姿でああいう性格、経歴だからこそ……心にグッとくるんだ」

「そうねぇ……良くも悪くも私に遠慮のない態度だし……」

 

 魂の輝きとしてはやや淀んでいるが、その境遇や遠慮のないところを気に入ってフレイヤは姉妹を眷族としていた。

 

「そういえば、どのくらい年下なの?」

「ディナは15歳下、ヴェナは16歳下だ」

 

 ふぅん、と呟きながらフレイヤはじーっとレヴェリアを見つめた。

 どうせもう手を出しているんでしょ、という意味が込められている。

 彼女が肯定すればそっぽを向くフレイヤ。

 こうなることは予想できていた為、レヴェリアは秘策を用意していた。

 

「話は変わるんだが、実は海洋国(ディザーラ)の国王からパーティーに招待されていてな。お前と2人きりで行きたいのだが……?」

 

 フレイヤの体がぴくりと動いた。

 

「海を一望できる良いホテルがあるんだ。バルコニーから眺める水平線に沈む夕日や昇る朝日が格別でな。仕事で行く度にお前と一緒にこの景色を見たい、と思っていたんだが……?」

「仕方がないわね! そんなに言うなら一緒に行ってあげるわ!」

 

 顔を背けたままフレイヤは承諾した。

 彼女の顔は嬉しさのあまりに誰にも見られたくないようなものになっていた。

 

「それは良かった。他にもお前と2人で行ってみたいところが幾つもあってな……」

 

 その言葉に嘘はどこにもない。

 フレイヤからすれば、しっかりと自分を一番に考えてくれていることが分かって気持ちが高ぶってしまう。

 そして、何気なく視線をレヴェリアへ向けた時。

 

救界(マキア)とやらがいつ終わるかは知らんが、1年や2年で終わるということはないだろう。だから、お前との思い出をたくさん作っておきたいんだ」

 

 にこりと微笑んでレヴェリアは告げた。

 フレイヤは半ば無意識的に彼女を抱きしめて、その首筋に顔を埋める。

 何も言わない彼女をレヴェリアもまた優しく抱きしめ返す。

 

 数分程、そうしていたところでフレイヤがおもむろに口を開く。

 

「レヴェリア、私……あなたのご両親に挨拶に行きたいわ」

 

 唐突な言葉にレヴェリアは思わず彼女の顔をまじまじと見た。

 彼女の真剣な顔とその瞳に込められた強い意思を感じ取りながらも尋ねる。

 

「……本気か?」

「本気よ。あなたは横にいてくれればいい」

「大丈夫か?」

「大丈夫よ。一発カマして後は流れで行くから」

「駄目じゃないか……」

 

 この世の終わりとでもいうような顔になるレヴェリアであったが、フレイヤはやる気に満ちていた。

 

「これは私がやらなければならないことだから……何としても成し遂げるわ」

「そうか……両親が何を言おうとも、私はお前の味方だからな」

 

 その言葉にフレイヤは満面の笑みを浮かべる。

 これならば百人力だと確信した彼女は告げた。

 

「早速、行きましょう!」

「フットワークが軽すぎだろ、お前……」

「思い立ったが吉日よ」

 

 こうなったフレイヤは止まらないことを理解していたレヴェリアは肩を竦めた。

 

 

 

 そして、準備を整えてレヴェリアの故郷へ向かったのだが――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前のような下賎な女神など目障りだ! さっさと娘を置いて出ていけ!」

 

 玉座の間に怒声が響き渡った。

 その言葉をフレイヤは甘んじて受け止める。

 

 相手の立場からすれば、至極当然の怒りであると理解できるからだ。

 傍にいるレヴェリアの心配そうな表情に微笑んでみせる。

 

 ある意味で彼女としては嬉しくもあった。

 怒りのあまりに『美』の虜にならないレヴェリアの両親に。

 

 フレイヤは彼等を見つめ、己の言葉でもって確固とした意思を告げる。

 

「絶対に嫌よ。認めてくれるまで1000年でも1万年でもここから動かないわ」

 

 レヴェリアの溜息が聞こえた。

 表情を見ずとも呆れているのがよく分かる。

 

 王と王妃――レヴェリアの両親は物凄い顔になっているが、フレイヤは涼しい顔だ。

 

「これだから神は碌でもないのだ……己の我儘を貫く為に相手の都合など無視していいと考えている」

 

 その言葉にレヴェリアは何も言えない。

 それもまた事実であるからだ。

 しかし、フレイヤはその程度の事は織り込み済みだ。

 

「あら、私達神々は確かに碌でもないけど……下界の子達も似たようなものでしょう? 似た者同士、仲良くしましょう?」

 

 にこにこ笑顔で煽り始めるフレイヤ。

 急に女神モードになりやがった、とレヴェリアは再度溜息を吐く。

 その間にもフレイヤと王のやり取りが続く。

 

「私は絶対に譲らないわ。私の伴侶(オーズ)はレヴェリア以外にありえないもの」

「もう娘の伴侶は決めてある。血筋に相応しい男子を……」

「無理よ。だって、レヴェリアは男嫌いだもの。男との性行為なんて強制しようものなら舌を噛み切っちゃうわ。大切に思うあまりに育て方を間違えたんじゃないの?」

 

 そういう感じで言うんだな、とレヴェリアは感心してしまうが、両親からは驚愕の視線を向けられた。

 

「……本当なのか?」

「舌を噛み切るとまではいかないだろうが、概ね事実だ」

 

 父からの問いかけにレヴェリアはそう答えた。

 その言葉が嘘ではないが真実でもないことをフレイヤは知っている。

 

 美女や美少女に両性具有は含まれるのか、尋ねたことがあった。

 生えている分お得だろう、というのがレヴェリアの回答だ。

 

 更に詳しく聞けば見た目、声、仕草や振る舞い、人格など全てが女であるならば、生物学的な性別が男でも問題がないことが判明している。

 こういったことから生やす薬を密かに研究しているんじゃないか、とフレイヤは予想していた。

 

 そんなことはおくびにも出さず、彼女は提案する。

 

「レヴェリアの名はよく聞こえてきているでしょう? 彼女は黒妖精の復権の為にも、世界を救うような英雄になった方が種族全体としての利益に適うんじゃないかしら?」

 

 その言葉に王は押し黙った。 

 レヴェリアが里を出る時に置いていった手紙が彼の脳裏を過ぎる。

 

 我が名を世界に知らしめて一族復権の礎とならん――などという文言がふんだんに盛り込まれている。

 誰が見ても一族の為にあえて里を出るという重大な決意をしました、としか思えない内容であった。

 

 レヴェリア自身は両親がそれなりに納得してくれそうな理由を適当に書いただけである。

 真実はどうであれ、現状彼女は世界でもっとも知名度がある黒妖精であることは間違いない。

 

 また、彼女はフレイヤ以外に姓を名乗ったことは一度もない。

 容姿などからそうかもしれないと思われたりすることは過去にあったが、その度にはぐらかしている。

 

 今日に至るまで黒妖精の王族は主要な氏族達と共にこの辺境の地に隠れ住み、存在を隠匿してきた。

 王族やその血筋に近い一族は死に絶えたのではないかと思わせ、白妖精達の油断を誘う為だ。

 

 この里の存在と共にレヴェリアが黒の王女であることを公表すれば、それだけで絶大な衝撃を白妖精に与えることになる。

 それは実に痛快だが、さすがに王の一存では決められず、各氏族の長達と話し合わねばならない。

 

 故に、レヴェリアが望んでいるだろうことを認める形にした。

 

「伴侶についてはひとまず棚上げし、また里を出ることを正式に認める」

「フレイヤのことは?」

 

 娘からの問いかけに対して父は答える代わりに深く溜息を吐く。

 フレイヤの言葉をレヴェリアが全く否定しなかったことから、娘もまた好ましく思っているのだろうと容易に想像できた。

 

 どこぞの男神に手籠めにされて、純潔を散らされるよりは同性同士の方がまだマシ――

 

 王はそう考え、ちらりと視線を王妃に向ければ――同じ考えなのか、小さく頷いてみせた。

 

「……好きにしなさい」

 

 実質的な交際許可――そう受け取るしかない言葉を王は告げた。

 フレイヤは満面の笑みとなった一方でレヴェリアはホッと一安心。

 もっと拗れて最悪、里から追われる羽目になることも覚悟していたが故に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レヴェリアはフレイヤをお姫様抱っこし、ファミリアが滞在している街へ向かっていた。

 

 

 両親――王と王妃との謁見後、フレイヤは泊まっていきたかったが、レヴェリアが断固として拒んだ。

 氏族の長達と出くわすと厄介なことになる為であり、彼女の必死の説得によりフレイヤも今回は諦めた。

 

 もっとも、ただでは転ばないのがフレイヤである。

 まさに今気づきましたと言わんばかりの表情でもってお願いする。

 

「ねぇ、レヴェリア。私達が出会った場所へ行きたいわ。ここからなら近いでしょう?」

「分かった。あの時にはできなかったことをしよう」

 

 承諾しつつ、下心丸出しの言葉を発したレヴェリアにフレイヤは妖艶な笑みを浮かべた。

 そして、顔を彼女の耳元に寄せて囁く。

 

「えっち」

「嫌か?」

「ううん」

 

 短いやり取りをしつつ、レヴェリアは足を速めた。

 

 

 

 

 

 

 幸運にも、2人が出会った場所に到着したのはあの時と同じくらいの時間帯であった。

 夜空に数多の星々が煌めく中でフレイヤとレヴェリアは互いに並んで地面に座り、身を寄せ合う。

 

「私と出会って最初の数分だけはちゃんと女神をしていたな……すぐに化けの皮が剥がれたが」

「だって、あんなことになるなんて思ってもみなかったんだもの」

 

 フレイヤの言葉を聞いたレヴェリアは軽く溜息を吐いてみせる。

 

「お前がどういう女神か、他の神々から聞く度に思うことがある」

「どう思うの?」

「素のお前と女神のお前では、あまりにも温度差が酷すぎて風邪を引くとな」

「もう、酷い人ね」

 

 フレイヤは謝罪を求める代わりに、顔をレヴェリアへと向けて目を閉じて唇を突きつける。

 その求めに応じてレヴェリアは彼女と唇を重ねた。

 

「ね、レヴェリア。私の我儘、聞いてくれる?」

 

 しばらくしてフレイヤは唇を離して、上目遣いでもってレヴェリアに問いかけた。

 これ見よがしに溜息を吐いてみせ、彼女はジト目で言った。

 

「聞くだけ聞いてやる」

 

 彼女らしい言葉にフレイヤはくすりと笑って告げる。

 

「英雄になって欲しいの」

伴侶(オーズ)の次は英雄か?」

「ええ、そうよ」

「その理由は?」

 

 レヴェリアからの問いかけにフレイヤはにこりと微笑んで答える。

 

「あなたが英雄を目指して駆け上がっていくところを間近で見たいの。すっごくかっこいいと思う」

「雑な理由だな……」

「いいじゃない、小娘だもん。難しいことは分かんないわ」

 

 いけしゃあしゃあとそんなことを宣ったフレイヤに対して、レヴェリアは軽く溜息を吐く。

 

「いつまでも小娘のままでいるな」

「神は永遠不変なの。だから、私は永遠の少女なのよ」

 

 ドヤ顔でそんなことを宣ったフレイヤに、レヴェリアはデコピンでもってオデコへ攻撃を加えた。

 可愛い悲鳴を上げて仰け反ったフレイヤを見ながら、彼女は再び溜息を吐いた。

 我儘は毎度のことだが、惚れた女にそう言われて張り切らないわけがない。 

 

「まったく、お前は今も昔も本当に我儘な奴だが、まあ……お前の我儘なら聞いてやるさ」

 

 レヴェリアの答えにフレイヤは満面の笑みを浮かべて飛びついた。

 勢いのままに押し倒し、馬乗りとなった彼女は舌なめずり。

 

 そんな彼女を見ながら、いつも以上にヒイヒイ言わせてやるとレヴェリアは決意するのだった。

 

 

 

 

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